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第17話 吸血鬼討伐②

 王都を出発して3日後。


 私たちは、無事に目的地である古城のある村にまでたどり着いていた。




「御者さん、3日間の長旅、ありがとうね。また帰りもお願いします」




 馬車を降りると、背中のまがっている中年の御者にお礼を言う。少し怪しい雰囲気をまとっているその御者は、小さくぼそっと、つぶやいた。




「…あんた方は、いい人だ。だから一つ、忠告させてもらうんですが…あっしは学園長に頼まれて、何度か学園とこの古城までの往復を頼まれたことがありやす。ただ…」


「ただ?」


「あっしが今までここに連れてきた学生たちの中で、あっしの馬車に乗って帰ることが出来た学生は…今までいませんでした」


「…」


「明日の夜までここにいます。もしもそれまでに旦那方が帰ってこなかった場合は…」




 その時は、あっしはまた、学園まで馬車を操縦して帰ることになりやす。そうならないように、どうかお気をつけて…




 そう言って頭をさげて馬車に戻っていく御者を見て、私たち4人はそれぞれ目を合わせた。


 ここはもう、安全な学園じゃない。


 …入学式でいきなりデスヒュドラに襲われてしまうような学園を「安全」と言っていいのかどうかは分からないけど、それでもこの村よりはまだマシだろう。




「俺たちも気を引き締めていかないと、な」




 そう言ったレオンの顔から、やはり緊張の色がみえる。


 無理もない。


 ある意味、これが私たちの初めての冒険、になるのだから。


 その初めてが「最後」にならないようにするために、私たちは覚悟を決めて村の中へと入っていった。







■■■■■





「…って、私、すっごく覚悟してきたのに」




 村の中に入り、活気あふれる光景をみて、私は思わずそんな言葉を漏らしてしまった。道行く村人たちの顔は明るく、悲壮感を感じることは出来ない。




「邪悪な吸血鬼に支配されている可哀想な村、といった感じはしないでござるな」


「油断は禁物…だとは思うが」


「とりあえず、そこのお店によってみて、お話聞いてきましょうか」




 みんなも、予想と現実との違いに少し拍子抜けをしたような感じになっている。レナがとことこと近くのお店に入っていき、そこのご主人と軽く言葉を交わしているのを見る。


 村とはいえ、小さい村ではなく、そこそこ大きい村だった。


 中央には市場が立っていて、さすがに王都に比べると規模はこじんまりとしているものの、それでも人々が笑顔で行きかっているのがみえる。




「…そうなんですか」


「あなた、若くて綺麗だから、気をつけなさいね」


「有難うございます」




 お店の人に一礼をすると、レナが私たちのところに戻ってくる。お話を聞くついでに何か買い物をしたのか、手に袋を持っていた。




「レナ、これは?」


「おまんじゅう。美味しいからみなさんにもどうぞ、って」


「…ありがとう」




 レナはちゃんと人数分、4つ買ってきてくれていた。私たちは一つずつ手に取ると、まだ暖かいおまんじゅうを口に頬張りながら、レナの聞いてきた情報を整理していく。




「吸血鬼がこの先の古城に住んでいる、というのは間違いないみたい」




 頬をおまんじゅうで膨らませながら、レナは村の先にある小高い丘の上に建っている古城を指さした。遠目にもかなり立派な城だということが分かる。蝙蝠や鳥が城の周りを飛んでいるのも見えて、それだけみたらおどろおどろしい雰囲気も伝わってくるのだけど…




「吸血鬼の名前は、ミラルカ・カミラルテ。もう100年以上、この古城に住んでいるらしいわ」




 そういって、ごくん、とお饅頭を呑み込むレナ。少し喉につかえたみたいで、けほっと咳をする。私はあわててレナの背中をとんとんと叩く。柔らかい。


 有難うね、リゼル、と可愛くお礼を言われた後、レナは言葉を続けた。




「それで時々、この市場にも買い物に来るらしいわ」




 私たちの食べているこのおまんじゅうがお気に入りなんだって。


 そう言うと、にっこり笑う。


 今はまだ太陽が頭の上でさんさんと光っている。こんな太陽の下に出てくる吸血鬼なんていないだろうから、今、このお店で討伐対象とばったり出くわす、なんてことはないだろうけど…




「なんか、調子狂うわね」




 私もおまんじゅうを頬張りながら、思ったことを口にする。




「そういえば、学園長も吸血鬼討伐に行ってこい、とは言ったけど、そもそもその吸血鬼がどんな相手なのか、は詳しく教えてくれなかったもんね」


「普通、邪悪な魔物だったら、国が放っておくわけないもんな」




 すでにおまんじゅうを食べ終わったレオンも、自分の意見を述べてくる。




「冒険者、または軍隊でも送って、正式に討伐されるに決まっている」


「先ほどの馬車の御者どのも、何度か学生を送り届けた、と言っていたでござるしな…」




 行きが馬車で、帰りに馬車に乗らなかったというのは、吸血鬼に返り討ちにされたというわけではなく、馬車に揺られるのがもうこりごりだったのではなかろうか…




 ヨシノはそう言うと、真っ青な顔をした。


 馬車の旅での3日間を思い出してしまったのだろう。どのような魔物に対しても臆することなく立ち向かっていくだろうヨシノだが、また3日馬車に乗るくらいなら歩いて帰るでござる、と本気で言いだしそうな気がしてくる。




「そもそも、普通に考えたら、入学したばかりの学生を吸血鬼討伐に向かわせる、というのがそもそもおかしいわね」


「…しかもそれが、俺たちが初めてじゃない、という話だしな」


「ということは、どういうことでござるか」


「つまり、リゼルが言いたいのは、今回の吸血鬼討伐には裏があるってことかしら?」




 照り付ける太陽の下、私たちは額を合わせて考えを巡らせる。




「そもそも、討伐というのは名目で、私たち新入生を吸血鬼に会わせる、ということが目的なんじゃないかな」


「リゼル、どうしてそう思うんだ?」


「入学式の時のことを思い出して」




 入学式の日、私たち新入生60人は、学園長の召喚したデスヒュドラに襲われた。


 あの時はたまたま、私たち全員の協力で犠牲無しにデスヒュドラを撃退することが出来たけど、そもそもこの学園は普通じゃない。




「選抜して、選抜して、人数を絞っていく、という方針」




 思考を巡らせる。


 学園長は、生き残った強いものたちを求めている、と言った。


 その方針が、入学式だけで終わるはずがない。学園生活すべてが、その蟲毒の中に含まれることになるだろう。




「つまり、どういうことでござるか?」


「それはね」




 学園長と吸血鬼は、繋がっている、っていうこと。




「吸血鬼討伐が目的じゃなくって、吸血鬼に私たちを討伐させるのが目的」




 入学試験は終わった。


 私たちは王立魔法学園の学生となった。


 だが、選抜だけは…「選別」は、ずっと続いているんだ。




「正解♪」




 声がする。


 憂いを含んだ、妖艶な声。




(…まったく気配に気づかなかった!?)




 私が気づかないのは仕方ない。けど、《剣聖》であるレオンや、侍のヨシノが全く気付かないだなんて…そんなの、ありえない。




 振り返ると、そこには。


 レナの首筋に牙をたてている、女がいた。




 深紅のロングヘア。


 紅球色の瞳に、蒼白い肌。


 黒いゴシックドレスに身を包んだその女の突き立てた牙は、レナの首筋から赤い血を流していた。




「…っ」




 頭に血が上るのが分かった。


 レナに…何を…




「離れろっ!」




 考えるより先に身体が動いていた。《剣聖》よりも早く動くなんて、初めてかもしれない。


 私は腰に差していた剣を抜くことも忘れ、ただ無策に、その女にとびかかろうとした。


 レナを、私の大事な人を。


 放せ。




「あらら、あなたは頭がいい方かと思ったんだけど」




 その女は笑い、レナを抱えたまま、




 飛んだ。







「想像力は足りていないわね」




 蝙蝠が舞っている。


 女はレナと共に空に浮き、レナの綺麗な金髪が太陽の光に照らせれてキラキラと輝いているのがみえる。




「ひとつ、こんな昼間に吸血鬼が出てくるはずがない?


「残念。太陽を克服した吸血鬼もいるわ」


「ふたつ、パーティで一番大事に守らないのは誰?」


「それは回復役。だから回復役には最新の注意を敬意を示しなさい」


「みっつ、学園長と吸血鬼は繋がっている?」


「あたり。ならばもっと、慎重に行動しなさい」




 笑う。哄笑する。


 真昼の太陽の下で、吸血鬼が《聖女》を抱えて笑う姿は、趣味の悪い絵画のように歪んだ完璧な一枚絵だった。




「この子は、人質として預かるわ」




 そう言うと、吸血鬼…ミラルカ・カミラルテの周りに、数十…数百の蝙蝠が集まってきた。


 レオンが無詠唱で魔法を唱えようとして、レナが盾にされているのを見て思いとどまる。




「古城で待っているわ。安心して、この子の血をすぐ全部飲み干すなんてことはしないから」




 食前ワインとしては、少しだけ楽しむけどね。




「時間も指定する。深夜、ちょうど月が城の真上に来るときに来なさい」


「…な」




 あなたたちでも、今度はちゃんと想像、できるでしょう?




「昼間の太陽の下でも敵わなかった吸血鬼に、深夜相対することが、どういう意味を持つか?」




 この子を諦めてもいいわよ。


 あなた達が乗ってきた、学園長ご用達の馬車は、まだ村の端にとまっているから。


 それに乗って帰るなら、私は追わない。




「見逃してあげる」




 でも、ね。




 不思議よね。


 学園長がここに送ってきた学生たちは、みんな、口をそろえて、言うの。




「お前を許さない」


「お前を討伐してやる」




 ってね。




 あはは。


 あははははは。




 あなたたちの先輩、数、少ないでしょ?




「想像しなさい」




 つまり、そういうこと、よ。






 帰った方が安全よ?


 4人で来て、3人で帰る。




 それは、4人で来て、誰も帰らないってより、よっぽどいいでしょう?




 簡単な算数だわ。






 笑う。


 笑う。


 吸血鬼は、くるくると笑う。




「レナを…どうする気?」


「レナ、この子、レナっていうの?いい名前ね」




 さっき、私、食前のワイン、って言ったわよね。




「それが、食後のデザートになるだけよ」




 想像、しなさい?





 それだけ言うと、ミラルカは、レナと数百の蝙蝠と共に、古城へと向かい去っていった。




 残されたのは、私と、レオンと、ヨシノ。




 手も足も出なかった。


 慢心していた。


 私たち、まだ、できる、と思っていた。





「ミラルカ・カミラルテ」




 吸血鬼の名前を口にする。


 この名前、絶対に忘れない。




 


 分からせてやる。




 討伐対象が、討伐されるだけの生贄じゃない、ってことを。


 

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