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第16話 吸血鬼討伐①

 吸血鬼といえば、古来より古城に住んでいると相場が決まっている。

 私たちが討伐依頼を受けた目的の吸血鬼も、その例外に漏れず王都から離れた古城に住んでいるらしい。


「学園長がそこまでの馬車を用意してくれて助かったわね」

「冒険、という感じはしないけどな」

「でも、みんなと一緒で楽しいよ♪」

「…ちょっと拙者、馬車酔いする方でして…」


 私たち4人は学園ご用達の馬車にのり、一路その古城を目指していた。

 城の傍につくまで、三日はかかるらしい。


(行きに3日、帰りに3日、古城で1日かかるとして…)


 合計、7日。せっかく王立魔法学園に入学したというのに、授業受けることなく一週間も学園から離れることになる。


「私たち、魔法学園に入学した意味あるのかなぁ」


 そう言ってため息をつくと、手にもしも吐いた時のために小さなタライを持ったまま蒼白い顔をしているヨシノが、息も絶え絶えになりながら語り掛けてきた。


「実戦こそ、最高の授業でござるよ」

「そう、かな」

「そうでござ…」


 言い終わる前に、こみあげてきたものがあるのかヨシノは口に手をあてて、タライの上に顔をかぶせた。


「ヨシノちゃん、大丈夫!?」


 ヨシノの隣に座っていたレナが、背中に手をあてながら白い光でヒールをかける。身体から毒素が抜けたわけではないが、なんとか吐き気だけは収まったようだった。


「レナ殿…かたじけないでござる」

「いいよ、気にしないで」


 ほほ笑むレナ。優しいなぁ。さすが《聖女》様。私もレナに癒してもらいたいのに、私の身体は常に回復魔法がかかっているようなものなので、その機会がなかなか無いのがちょっと寂しい。


「いい機会だし、古城につくまで、それぞれの自己紹介をしないか?」


 私がとろんとした目でレナを見ていると、なんとなくそれを遮るかのように、レオンが提案してきた。赤黒いコートを羽織っているレオンは、鎧は着こんでいない。動きの遅くなる鎧で身を包むより、軽装で素早く動いて敵を先に倒す方が合理的だと、いつもレオンは言っている。


「俺の名前は、レオンハルト・ドラグーン。授かったスキルは《剣聖》。剣技一般には自信があるし、魔法も全属性を無詠唱でとなえることが出来る。戦闘なら俺にまかせておいてくれ」


 そして、隣に座っていた私の頭をコツンと叩いた。


「知っての通り、リゼルの幼馴染だ。危なっかしいこいつのお守役でもあるな」

「…何がお守役よ」


 足で蹴る。

 揺れる馬車の中でも私の狙いは正確であり、見事にレオンの脛を直撃した。


「いたっ」

「痛かったのは、私の心よ」


 不服そうな顔をするレオンを無視して、次は私が自己紹介をすることにする。レオンの提案というのが少し腹立たしいけど、この機会にみんなのことを知る、というのは戦略的にも感情的にもいいことだ。


(でも、なんかむかつく)


 もう一度、先ほどと同じレオンの脛を蹴った後、私は口を開いた。


「私は、リゼル・アークライト。この幼馴染のレオンのお目付け役で、授かったスキルは…《超回復》。先日のデスヒュドラ戦の際にも見てもらったと思うけど、常に私の身体には回復魔法がかけられている状態になってるわ」


 スキルに関して、嘘をつく。

 レナとヨシノのことは信頼しているとはいえ、どこに永劫倫理教団の耳や目があるか分からないのだ。もしかしたら、私たちを古城まで送ってくれているこの馬車の御者が教団関係者、という可能性だってある。


(少しでも、リスクを減らさないと)


 私が《不死》のスキルを持っていることが広がれば、必要ない面倒ごとが多くなってしまうだろう。


「ただ、剣技はへっぽこ、魔法も基本的なものを最低限でしか使うことができないわ。戦力としては期待しないでちょうだいね」


 そういって、笑う。

 胸の奥が、ちくりと痛む。

 …やっぱり、悔しいなぁ。転生前の私はチートだった。何も考えなくても敵を蹂躙することが出来た。でも今は違う。弱い自分にちゃんと向き合って、出来ることを一つ一つ増やしていくしかない。


「じゃぁ、次は私ね」


 馬車が揺れるたび、レナのさらさらの蜂蜜色の髪が揺れている…たわわな胸も同時に揺れていて、私がどちらに注目しているかは…秘密だ。


「名前は、レナ・ヴァルシオルテ。授かったスキルは、《聖女》。このスキルは回復系の魔法にバフがかかり、さらにいわゆる全ての回復に関する魔法を習得することが出来るわ」


 そう言いながら、隣でまだタライを手に持っているヨシノの背中をさすることも忘れていない。その手はずっと光っていて、確かに魔法で癒してはいるのだろうけど…


(一番癒されるのは、このレナの優しさなんだと思う)


 私はそう思いながら、レナをじっと見つめてみた。私の視線に気づいたレナは顔を真っ赤にすると、うつむいた。


「《聖女》、なんて呼ばれているけど、私、孤児院出身の孤児です。いろんなことがあったけど、でも、リゼルとレオン君に助けてもらったの。すっごく嬉しかった。だから私、リゼルとレオン君の役に立ちたいって、思ってる」


 レナは顔をあげると、にっこり微笑んで、私とレオンを見つめてきた。その若草色の瞳に吸い込まれそうになる。綺麗だな、と思う。可愛いな、と思う。胸がときめいてしまうのは…仕方ないよ、ね?


「最後は…拙者でござるな…」


 吐きそうな顔をしながら、それでも顔をあげるヨシノ。顔面蒼白になってる。レナに癒してもらってこれだから、もしもレナがいなかったらどうなっていただろう。少なくとも、タライが役に立っていたことは間違いないだろうな。


「拙者は、ヨシノ・サオトメ。はるか東方にある皇国からやってきた武士でござる。拙者が授かったスキルは…《一太刀入魂》。これは一日一回しか使えない代わりに、どのような相手にも必ず当たり、斬ることが出来るというスキルでござる」


(…え…ということは)


 私の頬に、冷や汗がひとつ零れ落ちるのが分かった。


 レオンの《剣聖》は、あらゆる全てにバフがかかる壊れスキル。

 レナの《聖女》は、回復関係に特化した、専門スキル。

 私の《不死》は、死なない、というレアスキル。


 これらは出ている出力は違えども、常時発動しているスキル、という点では一致している。

 けど、ヨシノは違う。

 常時発動ではなく、スキルを使用した時だけ、しかも一日一回しか使えない…ということは。


(少なくとも、2つの事が分かる)


 1つは、使った時のスキルの威力は、すごいだろう、ということだ。常時発動ではなく、使用した時だけ。つまりそのすべてを一点に集中させ、爆発させる、ということだ。

 先ほどヨシノは「必ず当たり、斬ることが出来る」と言った。これはすなわち、どんな相手だろうとも…たとえ相手が魔王だったとしても、その魔王が闇の羽衣のような回避手段を持っていたとしてもそれを貫通していき、なおかつ、「斬る」ことが出来るということだ。斬れるものなら、概念だって斬ることが出来るのだろう。


(それもすごいけど、でももっとすごいのは、もう1つの方)


 ヨシノが強いのは…スキルのおかげじゃない。


(この子は…自らの鍛錬だけで、ここまでの高みに登っているんだ)


 それは、どれほどの努力だったのだろう。人の身で、かつての私みたいなチートもなしに…


(どうして、そこまでできるの?)

「拙者には」


 ヨシノはタライを膝に置き、ピンと、背筋を伸ばした。馬車は揺れているのに、今のヨシノの姿勢は凛として揺るがない。


「妹がいるでござる」

「妹…?」

「妹は、生まれた時から死のさだめに魅入られておりました。ありとあらゆる苦痛がその身を焦がし、蝕み、命を削っているでござる」


 ヨシノの茶色の瞳が、濁った気がする。黒く、深く、漆黒に。


「12歳のスキル授与の時まで…生きていられるかどうか、分からないでござる。もしかすると、決められた死の運命から逃れることが出来るスキルを授かれるかもしれない…そんな一縷の望みにすがるしか、手がないでござる」


 だから、拙者は。


「妹がもし死から逃れるスキルを手に入れることが…出来なかったしても、それを何とか乗り越えることが出来る道を模索する為に、この魔法学園に入学して、強くなって、出世することが目的でござる」


 王立魔法学園を卒業したものは、もれなく王国の中枢に入ることが出来る。

 その立場になれば、妹を何とかすることが出来るかもしれない。


「…そのためなら、拙者、何だってする覚悟でござる」


 強い瞳。

 意志の込められた瞳。


(私、ね、《不死》のスキル、持っているんだよ)


 思わず秘密を洩らしそうになってしまう。

 痛みを感じた。

 私の、脛に。


 横に座っているレオンが、無言で、私の脛を蹴ってきていた。


(気持ちは分かる。けど、軽率な行動はとるなよ)

(…分かってるよ)


 そんなこと、分かってるよ。

 分かっているけど、心は簡単に受け入れることが出来ないんだよ。


(私、《不死》なんて望んでいなかったのに)


 リセマラだけを楽しんでいたのに。

 望まない私に《不死》が授かり、欲している人には届かない。

 どうして世界は、こんなに不条理なのだろう。







「…少し、いいでござるか」


 凛とした姿勢でいたヨシノはそう言うと、私と、レオンと、レナを見た後。


「…先に、謝っておくでござる」


 そう言って、顔を真っ青にすると、膝の上に置いてあったタライに顔を突っ込み…








 おろろろろろろろろろろ…



 盛大に、吐いたのであった。




「窓!窓あけろ!」

「ヨシノちゃん、大丈夫!?」

「御者さん、ちょっと馬車とめてーーーーー!!!!」





 吸血鬼のいる古城まで、あと3日。

 この3日の馬車での行程は…ヨシノにとって、遥か東方の故国である皇国から王都までの旅よりも、さらに長い長い道のりになるみたいだった。

 

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