オブシディアン 1
彼女は死んだ兄の許婚だった。とても美しい人で、自分は幼い頃からずっと彼女のことが好きだった。だが、このような形で彼女との結婚を選ばなければならないことは喜びよりもむしろ苦痛だった。選択肢はあるようでなかった。自分は民のために最も良い結果がでることを選ぶのが義務だと思ったし、それが彼女との婚姻だった。
幼い頃から、兄は明るく活発で人気者で、自分にとって憧れの存在だった。兄と許嫁の彼女のことは子どもの頃からみながセットのように扱っていて、自分からすれば当然叶うことのない相手でしかなかった。そんな彼女といざ久しぶりに再会し面と向かって結婚の話を勧めていても、あまりに眩くて目もろくに合わせることができず、いつも以上にぶっきらぼうになった。
「断ってくれてもかまいません。無理を言っていることはわかっていますから。あなたは兄の婚約者でしたし兄があのような事故にあったために結婚は破談になっています。今更こちらから言えた話ではありませんし、昨今の風潮で、あえて結婚など選ぶのはあなたにとっても重荷でしかないでしょう」
なぜこのような言い方をしてしまったのか。できる限り最大限、彼女に選択をさせてやりたかったのかもしれない。また、断りやすい提案をすることで、断られても傷つかないように自分を守ろうとした己の弱さのせいだったのかもしれない。彼女はしばらく考えていたものの、こう言った。
「結婚の申し込み、お受けいたします。末永くよろしくお願いいたします」
自分はマイバディを持っていなかった。これは母が望まなかったせいもあるし自分には必要ないと考えたせいもある。だが彼女にはシオンというバディがいた。だからこう提案した。
「結婚は形だけで構わないです。公式な場や撮影がはいる場合は可能な限り民が結婚生活に憧れるような存在である必要があるけれどそれ以外の接触は必要ないしセックスも必要ありません。ですが後継ぎは必要なので卵子の提供はお願いしたい」
彼女は静かに頷いた。やや悲しげに。
彼女はなぜこんな婚姻を受け入れたのだろうか。兄への思慕のせいかもしれない。




