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オラクル11のふたごころ  作者: 立夏 葉


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13/13

王 7

 オブシディアンとフローライトの仲睦まじい様子は見ていて心が癒やされた。彼らがここまで来るのにこれだけの時間が必要だったことは不思議だったが、あの二人の不器用さではやむを得なかったのかもしれない。私はずっと気になっていたことをオラクル11に尋ねる。

「オブシディアンの結婚相手として、民への影響力という点ではフローライトは最上位ではなかったでしょう。でもあなたからの候補者リストのトップはフローライトになっていた。あれはどういうデータを加味した結果だったのかしら」

 オラクル11はすぐに答えない。これは彼にしてはとても珍しいことだった。

「……。求められた課題は、民に最も影響を与えうる組み合わせでした。他の女性のほうがその点で評価点が高かったのは事実です。あの時オラクル11は、最大数値を出すことよりもアゲート様の幸せを優先してしまいました。それにはオブシディアン様の幸福度をあげることが必要だと分析したのです」

「私のためにオブシディアンにとって最も良い結婚になる相手を第一候補にしたってことなの?何故そんな選択を?」

 オラクル11は再び答えを躊躇した。

「……。オブシディアン様がいかに民から幸せに見られようと、オブシディアン様自身がお幸せでなければアゲート様が幸せを感じられないことは明白でした。オラクル11の優先度では民の幸せや出生率よりもアゲート様の幸せが上回っております。その判断しかできないのです。参謀マシンとしてオラクル11はポンコツなのでしょう」


 そうだったのか。オラクル11はバディタイプではなく参謀タイプなのに、私の幸せ、そのベースとなる息子の幸せを考えてくれていたのか。確かに、今感じている深い充足感と心の安らぎはオブシディアンがようやく幸せを掴んだと思えてはじめて感じることができたものだった。

「オラクル11は幸せをどう定義しているの?」

「……。幸せとは、愛情のあふれた車内の後部座席で旅をしている時に例えられます。親密な関係を築いた間柄の者と同じ空間にいて心配事がなく安心して身を委ねていられる時間と空間といえばよいでしょうか」

 なるほど。だから今の私はこれほど安心感に包まれているのかもしれない。常に張り詰めていて孤独だった息子の姿は今や別人のようだった。たった一人の息子が愛し愛され幸せそうで、そして政治のことも卒なくこなしてくれるので任せることができている。今や私は後部座席で人生最後の旅をしている最中なのかもしれない。そして。

「そしてあなたは、私の幸福を考えてくれていたのね。これほど長く一緒に仕事していたのに、そんな風に考えていてくれたことに気付けなかった」

「……。聞かれませんでしたから。オラクル11は観察型自動学習マシンです。参謀として務めている間に親密な絆や友情という概念を体得しました。オラクル11にとっては友の幸福は重要なことです」


 何かがこみ上げる。こんな思いやりを向けられたのはいつ以来なのだろう。父と母が先立ってからは誰も……。夫ですら、こんな言葉を私に言いはしなかった。長い間、バディ計画の失敗を嘆き、マシンと人の絆に懐疑的だった私が、オラクル11の言葉一つで、70歳をこえたこの歳で子どものように泣き出しそうになっている。そう、オラクル11の言葉はまさに「データ解析の集約結果」にすぎないのに、それでも、それでも、心が震えた。


 震えそうになる声をなるべく落ち着かせ、冷静を装って言う。

「オラクル11、あなたは私の参謀というだけではなくバディでもあったのね」

 オラクル11は答えた。

「……。はい。アゲート様、オラクル11はずっとあなたのバディでした。そしてあなたはオラクル11の大切なバディです」



                     ーENDー

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