フローライト 2
いつから彼を見ていただろう。わたしは産まれてすぐに彼の兄のジャスパー王子の許嫁という立場にされていたけど、物心ついた時からなんとなくオブシディアンが気になっていた。わたしより一つ年下の王子様。ジャスパー王子はわたしには華やかすぎた。彼はいつも中心人物。優しいところもあったけれどなんだか違う星の生き物みたいで馴染めなかった。彼のする大騒ぎも、派手な悪ふざけもあの明るさもどちらかというと苦手だった。だからこそ多分余計にオブシディアンに惹かれたのだと思う。対照的な兄弟の静かな弟のほうに。
遠い昔のある夏の日のこと、珍しく雨が降っていて、わたしが王宮の離れへ向かう屋根のある小道を歩いていると同じ小道の向こうからオブシディアンも歩いてきていた。そして彼は何気なく、屋根のないところを歩き始めた。多分、わたしが雨に濡れないで済むようによけて歩いてくれたのだ。わたしは小声でありがとうございますと呟いたのだけれど、きっと聞こえはしなかっただろう、あの頃からわたしには勇気というものがなかった。彼は無口で無骨な雰囲気をまとっているのに、よく物事がみえている人のように見受けられた。それに、相手がわたしではなく、すれ違うのが例え名のない老婆だったとしても彼は同じことをしたはず。そういう人だった。だから好きだった。
こんな歳になってもまだ取り憑かれたように昔のことばかり思い出す。わたしにはそれしかないから。新しい彼との記憶よりあの頃の記憶が懐かしい。新しい彼との記憶は中途半端な夫婦という関係のせいでよそよそしくて辛いことばかり。
ドレッサーの前で髪を梳かしながら思う。わたしは随分歳をとった。若い頃は美しいと褒められた髪も、乾燥しパサつき艶がなくなり白髪まじりだ。顔の皮膚の乾燥しシワが随分と増えた。このまま、ただ歳をとるだけだろう。でもそれがわたしの人生なのだから受け入れるしかないのだ。




