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第6話 推しと情報交換


 ひとまずは、アルカナのくれた数少ない情報である王都アルビオンに向かうことにした。王都というくらいだ。この世界の事を知るための情報が、たくさんあるに違いない。世界観を知るには絶好の場所ではないだろうか。

 そんな事はさておき、推しであるユイカちゃんの隣を歩いている。夢ようだ。草原の感触を踏みしめながら、全身で幸せを噛み締めている。ユイカちゃんの声が、細胞一つ一つを刺激して活性化させている。さっきから、可愛い、綺麗、美しい、幸せ、という気持ちがループしていてよく物が考えられない。これむしろ深く考えられなくなってね?

 アルビオンへ向かう途中にまず話したのは、『互いをどれほど知っているのか』だった。


「成程…情報量は同じくらい、様々なことを知っているのですね」

 漫画で得た互いの情報は結構多かった。身長や血液型や好物などの基本情報はもちろんの事、友人しか知りえない秘密などをちらほら。例えばさっき俺が言った『部屋で一人の時にしか甘いものは食べない』というユイカちゃんの秘密も、そのうちの1つ。キャラじゃないからと甘い物好きなことを隠すなんて、可憐でめっちゃ可愛らしい。本人に伝えたら『そういうことは人前では言わないでくださいね』とくぎを刺された。可愛い。


「そうだね。漫画で得た知識だけど、人に対して使うなんて不思議な気持ちだよ」

「初めて会うけど前から知っていて、それでいて“能力”以外の基本的なことも知っている…まぁ不思議な気持ちになるのが当然です」

 互いに人に見せて来なかった部分も知られているという恥ずかしさもある。互いに知っていることを話した後、ユイカちゃんも俺も少し照れ臭そうにしてしまった。

 逆に全く情報がなかったのは能力について。

 さっきのガーゴイルとの戦いではっきりとわかっていたことだが、ユイカちゃんは俺の【影纏い】を、俺はユイカちゃんの能力【ORDER】を一切知らない。登場する漫画のジャンルがバトルものではなかったのが原因だった。

 基本的なこと以外も知ってもらうために俺のこれまでの人生と改めて影纏いというものの話をしたし、ユイカちゃんからもOREDRについてとこれまでの人生を軽く説明された。


 数年前に能力に覚醒。中学生時代は宇宙から地球征服を狙う生命体と戦い、勝利。魔法少女みたい。戦いの後は天上院さん協力のもと鍛錬を続け『エレクトロン・アカデミー』に入学。身の危険はない場所だったので能力を使うことはなかったとのこと。

 もしユイカちゃんが主人公になっていたらバトル漫画だったのかもしれない。

「知らない部分もたくさんあるでしょうから、そういう点を見れることを楽しみにしています」

「俺も楽しみ!欠点が出てきてもお手柔らかにお願いします」

「欠点の度合いによりますから覚悟しておいてくださいね」

 微笑むユイカちゃんに俺はさらに嬉しくなった。頬が緩みっぱなしだ。


 次は話の話題となったのは『登場した漫画』について。

「え?青春ラブコメだったの!?」

「えぇ。夢叶君の同級生が、オムニバス形式で主人公となって話が進みましたよ。【アオハル学園のラブ・イグニッション】という題名です」

 これが俺が登場した漫画の題名か…なんか絶妙にダサいけど感慨深い。それでいて不思議な気持ちだ。

 通っていた学校の名前は実際には“アオハル学園”ではなかったが、おそらく“青春”から取ったのだろう。周りでは恋愛事が盛んだったし、何度も恋愛相談されまくったし、しているところも見たことがある。花が舞い踊るような華々しい学校生活─まさに『青春』と呼ぶに相応しい時だった。俺以外は。 

 俺は万年、恋愛相談される友人Aという感じで、特に恋愛事には関わりなく。ユイカちゃんに恋をしていたし。クラスではいろんな人がカップルになったり、別れたりと本当に色々とあったなぁ…少し前の事だけどなんだか懐かしい。


「そういえば夢叶君は最終話でベッドで漫画を読みながら泣いていたんですが、何があったんですか?出版社にも怒っていたみたいですし」

 言われてすぐにピンときた。なんたって漫画で泣いて怒ったのは過去に1回しかない。それもつい最近。今日。むしろほんの数十分前。

 エレクトロン・アカデミーの最終話。打ち切られたショックと、ユイカちゃんとお別れするのが辛くて号泣した悲しみの涙。

 でも理由をそのまま言うのが少しだけ怖いし勇気がいる。多分ユイカちゃんなら受け入れてくれるとは思う。こんな少しのことを話すだけで勇気が必要なんて、恋って大変なんだなと初めて知った。

「その…理由聞いても引かない?」

「理由によるんじゃないですか?まぁ聞きますよ」

 どんと来いといった感じのユイカちゃん。全く嫌な顔をしないし本当に頼もしいし良い子だ。好きだ。


「それは…『エレクトロン・アカデミー』が打ち切られてユイカちゃんに会えなくなったことに絶望したからだよ」


 言ってしまった…『エレクトロン・アカデミー』が終わったから悲しかった、でもよかったのに馬鹿正直に答えてしまった。いやでも、包み隠さずしていきたいしこれは隠すようなことでもない…気がする、うん。

 チラッとユイカちゃんを見ると、じっと俺を見てる。心臓がドキッとはね上げる。今日だけでも俺の心臓には相当な負荷がかかっているけど、ユイカちゃんからの負荷ならいくらでも受けたい。

「えっと…その…やっぱり引いた?」

「いえ」

 即答で否定してくれて本当に良かった~。焦った。

 そしてすごく満足げな表情を浮かべてくれている。

「夢叶君は、漫画で見るより素直な人ですね。好感が持てます」

 素直で誠実でいよう、そう固く心に誓った。


「『エレクトロン・アカデミー』…学園サスペンスで桜坂君が主人公ですか…んー…まぁ、納得はできますが不満です」

 今度は俺が『エレクトロン・アカデミー』の事を説明した。一通りの説明を終えると、隠すことはせずはっきりと不満だと告げる。理由はなんとなくわかる。

「彼はいい人ですが、主人公には恭子お嬢様が相応しいと思っています」


 『天上院恭子』。

 主人公のライバル兼友人。世界有数の財閥の一人娘だが、そのことを鼻にかけることなく強く気高い人間性を持った人。めっちゃカッコいい。少々口が悪く強気な感じで、目力が強いので怖い雰囲気があるのだが、優しくて友達思いで自分に非があればすぐに謝れる大人な性格をしている。その魅力的な人柄と凛とした優美な見た目で作中トップの人気を誇る。実力も最強格。最終話では二人による最終決戦が描かれたのだが、互いに実力をいかんなく発揮し『エレクトロン・アカデミー』屈指の名勝負となった。どちらもが勝者であったと思うほどで、見ていたファン全員が涙を流した。思い出しただけで泣きそう。


 それと桜坂君が主人公なことに不満があるユイカちゃんだが、物語序盤こそ敵意むき出しで接していたが彼の人柄の良さと戦いを通じて認めるようになり、それ以来は少し棘があるものの好意的な友人関係となった。男嫌いなユイカちゃんが作中で唯一認めた男である。なので、認めていないのではなく単純に天上院さんへの想いが強いから出た言葉だろう。

 しかしこうやって目の前で天上院さんへの想いを見ることができて、ファンとして感無量である。胸が暖かくなり、嬉しくてつい微笑んだ。


「なんで微笑んでいるんですか!」

「ごめんごめん。天上院さんに対する想いが目の前で見れて嬉しくてつい。すごく楽しそうだし、目が輝いてるし、見てて俺も嬉しくなっちゃうよ!」

「…自慢話みたいでつまらなくならないんですか」

「全然そんなことはないよ!俺は友人を自慢するユイカちゃんも…す、好きだよ!」

「……~っ!あんまり好きとかはっきり言わないでください!人前では絶対に!!」

 恥ずかしそうに少し視線を逸らすユイカちゃんに心臓がドキドキしっぱなしだ。可愛い。

 ユイカちゃんと話せている…こんな奇跡の時間を一秒たりとも無駄にはしたくない。

 


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