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最終話 第24話 大好きな推しと夢を叶えるために 

 昨日と変わらない日差しの強い晴天の下。生暖かい風が頬を撫でる。強烈な日差しだけど、一緒に買った帽子のおかげでそこまで熱くは感じず心地よく過ごせている。まるで歓迎してくれているかのように、穏やかで綺麗な葉が光を反射して輝いているように見えた。

 小鳥が聞き心地の良いさえずりをし、妖精の楽しそうなひそひそ話をしている。俺たちの姿を見てもなんとも思わないのか気にするそぶりも見せない。話の内容はさっぱりわからない。遠いせいか元の声が小さいからなのか、言語の違いを探ることもできなかった。


 俺たちは今、隠匿魔法のかけられた森の中の道を歩いている。これにより魔法陣の外でもディアブロや魔物に発見されることを防いでいるらしい。便利だ。

 バルバロスとの激闘で興奮冷めやらぬ中、アルベール王と住民総出に見送られ、アルビオンを後にし聖剣を探す旅へと出た。


(あぁ…風がこんなにも気持ちがいいものだったなんて知らなかった)


 達成感とこれからの旅路にワクワクして胸が躍りして、人生で初めての感覚である大自然の一部となれているような爽快な気分包まれている。自然と顔がほころぶ。

 それだけではない。1メートル離れた隣を歩く、想い人がいてくれる。

「ねぇ夢叶君」

 視線が重なる。ユイカちゃんの綻んだ顔に木漏れ日が照らされ、どこか儚げで優美な雰囲気を醸し出していて、心臓がドキッと跳ね上がった。綺麗だ。


「どうしたの?」

「バルバロスやズールとの戦いに勝って…この世界に来て初めて誰かを救うことができましたね」。


 思い出されるは割れんばかりの歓声。肌を焼くような熱気。心を震わせてくれて感情の爆発。それを目の当たりにし、触れる事ができて心が晴れやかになれた。


「うん、そうだね。めっちゃ嬉しかったし、ホッとしたね」

「えぇ。あの喜びようを見ていたら胸が熱くなりました。そしてきっとこれからが、この世界の第一歩になったのだと、ここから始まっていくんだ、という実感ができました」


 そうこれはまだ始まりに過ぎない。アルカナも言っていた。『上々のスタート』だと。


「ここからが始まり…バルバロスに一閃入れた瞬間、ようやくスタートラインに立ったんだって思えたよ。勝った後なのに不思議だよね」

「むしろ勝った後だからこそ、実感が湧いたのかもしれませんよ。もともとこの世界に来たことが非現実的で、なかなか受け入れがたいものでしたから」

「たしかに。いいきっかけになったのかもしれないね」

「えぇ。こういう戦いを繰り返していって、道を切り開き、そしていずれは魔王ルシファーにたどり着き…倒す」


 普段と同じ声量だが、その声には確固たる揺るがぬ決意がこもっていた。ライトグリーンの瞳には炎が宿ったように爛々と輝いている。きっと今日の事でより一層気合が入って、決意表明をしてくれたのだろう。かっこいい!これ以上ないくらいに頼もしい。

 ならば俺も自分なりの決意表明をしなくては。


「先が見えない長い戦いになるかもしれないね。でも、ユイカちゃんと俺なら絶対に成し遂げられる!精いっぱい頑張るよ!」

「2人でなら必ず勝てます」

 力強く頷いて見せるユイカちゃん。決意の宿ったその瞳は美しくも勇ましい。


「あえて口に出しますが…私は夢叶君を信じますので、夢叶君も私の事を信じてくださいね」


 『信じます』。ユイカちゃんのその言葉が俺にとってどれほど心強い事か。その言葉を、期待を絶対に裏切りたくない。胸の奥で静かに闘志に火が付いた。

 改めて覚悟が決まった。この夢は必ず叶えてみせる。


「勿論だよ!信じてくれてありがとう!これからよろしくね、ユイカちゃん!」

 力強く頷いて見せれば、最高にうれしそうに頬を綻ばせてくれて。

「本当に無論でしたね。改めて、これからよろしくお願いします」

 互いに頷いた後に少し照れ臭くなって笑い合った。最高に幸せで楽しい空間。この時間がずっと続けばいいのに。


「それでですね…」


 笑顔から一転。どこか緊張した面持ちへと変わる。


「私は、夢叶君が思っているよりもずっと面倒で厄介な性格をしているんですよ。例えば、今みたいに態度だけではなく言葉にも表わしてくれないと満足できなかったり…」


 そこまで言うと言葉を止め、目を閉じて、緊張を解すかのように深呼吸を始めた。

 風と葉が擦れる音、小鳥のさえずりに混じって小さな呼吸音だけが聞こえる。音は聞こえているのに静寂のような感覚。でも気まずくなく、むしろ癒される。

 数秒後、ゆっくり目を開き、視線が重なった。ライトグリーンの瞳は覚悟が決まったような力強さはあるものの、俺の心境とは裏腹にどことなく不安そうに揺らいだ。


「夢叶君…この1日で何か心境に変化はありましたか?つまり、その、言葉を濁さなければ…実際に私と会って時間を過ごして、何か心変わりはありましたか?」


 少し恥ずかしそうに頬をほんのりと赤く染め、そう言葉を紡いだ。


「…っ~!!!」


 メチャクチャかわいい!少し不安にそうにしていた理由はこれだったんだ、と理解した瞬間にドッドッドッと、一気に鼓動が加速して、顔が熱くなる。

 でもその気持ちは凄くわかる。だって、俺も同じことに不安を感じてしまっていたから。

 出会った時からずっと俺に対して好意的に接してくれて、壁も作らずに距離も3メートルよりも近づいてくれていた。そして表情も豊かで、ころころと変化していた。照れて、笑って、怒って、得意顔も見せてくれて。


 でも不安は付きまとっていた。接していくうちにがっかりさせてしまうのではないかと、怖くて。まさかユイカちゃんが同じような事に不安を感じていたとは思わなかったけど、でもその事を知れて嬉しい。同じことに不安を感じていたんだから、今までの不安は杞憂に終わったという事の何よりの証明となるから。

 だからこそ俺も本心を話して、不安をかき消さなくてはいけない。

 本心を打ち明けるのは照れて恥ずかしいけど、話せることを全てぶつける!

 1ミリも視線を逸らすことなくライトグリーンの瞳と合わせる。胸が高鳴り、鼓動が鼓膜を刺激する。心が和んで自然と笑顔になれる。

(あぁ…これが人を好きになるってこと、なんだね)

 自分の気持ちと向き合いながら、言葉を紡ぐ。



「もっと─好きになったよ」


 

 こんなにも短い言葉だけど何度も声が震えそうになるのを必死に抑えて、最後まで言い切れた。

 その言葉が届いた瞬間、不安で揺らいでいたライトグリーンの瞳は大きく見開かれ、そして安堵の表情へと変わった。気恥ずかしそうにしながら前髪を触り、伏目になり、安心したように頬を緩ませた。不安は消え去ったようだ。

 よかった…本当に。


「新しい一面と知っていた一面を間近で見れてもっと好きになった。態度と言葉が合わさっていないと不安を感じちゃうのは面倒でも厄介でもないよ。その不安をしまい込まずに言葉に出してくれるのも、何にも負けない覚悟をもって夢に向かって進み続ける姿も、少し恥ずかしそうにしながらも甘いものに目を輝かせて食べて心の底から幸せそうにしている笑顔も、褒められて時に素っ気ない言葉で返すけどそれとは裏腹に得意顔になって嬉しそうにしている所も、寄り添いながら大丈夫、何も心配いらないと言い切って安心させようとしてくれる所も、照れて頬っぺたを赤くして嬉しそうに最高の笑顔をしてくれるのも…可愛らしくてカッコよくて魅力的で尊敬できて、もっともっと好きになりました」


 言い終わる頃には鼓動が激しく脈を打ち、体の中に太陽があるかのように全身が熱くなっていた。特に顔が熱いし、足は震えそう。でも心は雲一つない快晴の様に晴れ晴れとしていて爽やかな気分だ。

 一方、ユイカちゃんは─。

「………フフフン」

 頬をほんのりと赤く染めて前髪を触って恥ずかしそうにしているものの、ご満悦のようで胸を張って口角をあげ、得意顔に近いような満面の笑みを浮かべている。かわいい!!

 とにかく嬉しそうにしてくれていて安心した。その表情につられて気が付いたら俺も弾けんばかりの笑顔になっていて、気が付いたら互いに照れくさそうに笑いあっていた。

 やっぱり好きな人と一緒に入れるのは最高だ。何でもできてしまうと思うほどに絶対的な自信が溢れる。元の世界では味わうことがなかったけど、きっとこれが『甘酸っぱい青春』なのだろう。まだこの先の言葉は紡ぐことができないけれど、いつの日にか言えると信じて、今はこの『特別な言葉』を胸の奥にしまうとしよう。


「では私も…勇気を出しましょう」

「はい?」

「夢叶君だけに押し付けてしまうのは私の信義に反しますので…」


 そう言って一度深く息を吸い、意を決したように一歩踏み込んだ。その距離は1メートルから縮まり、約70センチ。互いの小さな息遣いがはっきりと聞こえてしまうほどに近い。

(はわぁぁぁああああ…ち、近い!!!)

 1メートルというテリトリーよりもさらに近づいてくれる破格の距離にどぎまぎして、声にならない叫び声を心の中で絶叫してしまった。落ち着いてきていた鼓動は再加速し、轟音のような鼓動が耳をつんざくように鳴り響く。血の流れが激しさを増し、全身が熱い。緊張して額から汗が垂れてきて頬を伝って落ちていく。

 この近さで留まり続けているのは初。心臓がバクバクと音を立てるのも無理はない。 


 帽子から覗く艶のある水色髪のベリーショート。まっすぐ向けられたライトグリーンの瞳とそれを縁取る長いまつ毛。健康的で光を薄く反射している滑らかできめ細かな肌は、少し赤く染まっている。その全てがいつもよりも鮮明に、それでいて輝いて見える。

 ほんの一歩、されど一歩。この近づいた距離は、決して小さなものではない。


「この距離を縮めようと思ったのは夢叶君、貴方だからです。素直すぎるくらいに素直に想いを伝えてきて、その想いを持ってどこまでも誠実で笑顔にさせたいと思ってくれて。実直に夢を叶えるために全力を尽くしていく姿も、わがままも悲しみも喜びも共に分かち合い、ありのままの私も全部受け入れてくれるその心も…そんな貴女だから近づくことができました。これからもこの距離を縮めていければいいと思っていますので…だから変わらずに、そのままでいてください。これからもよろしくお願いします─夢叶君」


 微笑みながらまっすぐ見つめられたライトグリーンの瞳は冬の星空のようにどこまでも透き通り、純粋で優しく煌めいて暖かく包み込んでくれた。

 美しくて綺麗でどんな言葉ではその全ての魅力と、その美しさを言い表すことのできはしないが、これだけは言える。この最高の笑顔を見られて、この想いを受けられたことは人生の宝であり、誇りであり、最高に幸せだ。一生忘れる事はない。

 だから俺はこの想いに応えていかなくてはいけない。答えていきたい。


「勿論!俺は変わらないから安心して。たまに素直すぎちゃうこともあるけど、このまま変わることはないよ。約束する!これからもよろしくお願いします─ユイカちゃん」


 最高の笑顔で嬉しそうに小さく頷いて返してくれた。間違いなく今が人生で一番幸せな時だ。この幸せがずっと続いてほしい、ずっと側にいたいと叶う事のない夢を、わがままながら願わずにはいられなかった。これからの戦いがどうなるのかはわからないけど、ユイカちゃんと一緒ならどんな困難も乗り越えることができる。

 最後は離れ離れになるとわかっていても、必ず勝ってユイカちゃんを元の世界に帰す。考えただけで寂しくて泣きそうになるけど、その決意は揺らぐことはない。それまでに、この限られた時間を余すことなく生きる。

 奇跡に満ちた俺たちの戦いは、始まったばかりだ。


 人生最悪な日に、人生最高の出会いをした。

 全ての行動に意味があるという人がいるが俺の場合は─『これまでの人生はこの最高の出会いと時間のためにあった』。

 今はまだ序章に過ぎない。でもそんなことは関係ない。不安に思うことなどない。

 好き人が─ユイカちゃんが一緒にいてくれれば、どんなことでも乗り越えていける。


 さぁ…夢を叶えに行こう。


ご一読いただきありがとうございました!読んでいただけて嬉しかったです。

いつかこの物語の続きも書く予定ですので、その時はよろしくお願いします。あとあらすじに書いたとおり、後日この作品の改変版を投稿していきます。全体の2~3割程度の違いにはなりますが、違いを楽しんでいただけたら幸いです。

重ね重ねになりますが、ここまで読んでいただきありがとうございました!

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