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第23話 推しと救った世界にて

「特異点、か…」

「どういう意味が込められているのか、いつか教えてくれるといいのですがね」


 アルカナの残した言葉の意味を考えていた瞬間、穏やかで優しいそよ風が頬を撫で、勝利の祝福をしてくれているように陽の光が俺たちを照らしてくれた。アルカナが消えた場所をぼんやり見ていたらその奥にフッと目がいった。雲一つない蒼穹を背景にアルビオンが悠然と広がっている。先ほどまでにあった物騒な戦闘音は消え、遠くで鳥のさえずりに交じり水のせせらぎが聞こえる。

「綺麗ですね…いい眺めです」

 アルビオンを眺めながらユイカちゃんがそう呟く。達成感と安堵に満ちた表情に、慈愛に溢れ優しい光が宿った煌めくライトグリーンの瞳。しなやかで艶やかな水色の髪の毛が、陽の光に照らされてより輝きを放ちながらそよ風になびく。白とオレンジを基調とした戦闘服からピンと伸びた綺麗な背筋。薄く紅潮している頬っぺた。その全てが見惚れてしまうほどに綺麗で、見ているだけで幸せな気持ちが溢れてきて鼓動が早まる。側にいてくれるだけで感情があふれ出し、幸福感で心が震える。世界がより一層明るさを増した。


「うん…最高に綺麗」


 アルビオンの事を言っているのだろうが、ついにユイカちゃんに見惚れながら、思ったことが口から自然と零れていた。

(ユイカちゃんが一番綺麗だよ)

 なんてキザな事を思ったが真正面から言えるわけもなく、そっと心の中にしまいながら、前を向く。

 大地には陽の光を反射する深緑の葉が生い茂っている。世界樹のはるか遠くの方には島が浮いているという非現実的な光景も広がっているが、その雰囲気すらも調和されているように景色の一部として溶け込んでいて、この世界の雄大さがより強調されている。

 これからこの世界で生きていくのだと、改めて実感できた。


「フフッ、夢叶君は素直ですね」

「ふぇ?」

「視線には敏感ですから…」


 少し照れたようにそして嬉しそうに微笑む。

 どうやら見惚れながら言ったことは完全にバレていたらしい。流石ユイカちゃん。むしろこれは必然だった。前々から視線には敏感だと言っていたのだから。

 その事を理解した瞬間、顔から火が出ているのではないかと錯覚するほどに熱くなった。顔どころから全身が熱い。脈打つ鼓動が加速し、耳をつんざくように自分の心音が響き渡る。

「あ、その…タハハ」

 手で顔を覆いながら笑って見せることが限界だった。恥ずかしい!!何時も素直に想いは言ってはいるけど、心の声が漏れて出たことがしっかりと聞かれていると流石に羞恥心が込み上げてくる。手で覆い隠したところでユイカちゃんの恥ずかしそうで少しうれしそうな表情が瞼に張り付いていて、今も鮮明に見えている。かわいい!!

 人を好きになるってこんなにも感情が揺れ動くものなんだと改めて実感できてしまった。こんな俺を見てユイカちゃんはどう思っているのか、今どんな表情をしているのか、そして…『そもそもなんでユイカちゃんの俺に対する好感度が高いのか』という前々からの疑問が頭の中を駆け巡る。羞恥心に支配された思考ではその疑問はただループし続けるだけで処理が完了せず、ただひたすらに恥ずかしさが加速度的に増長させていくだけであった。

 いつか教えてくれるその日まで、じっくり待つとしよう。

 数分後、ようやく少し落ち着いたところで手をどかしてユイカちゃんに視線を戻すと先ほどまでと少し恥ずかしそうではいるが、かなり満足げな表情で笑っていた。かわいい!


「では…そろそろ帰りましょうか」


 俺の表情を確認すると、手を軽く振りながら促すと上機嫌に歩き出した。歩く背中を見るだけでも心が弾んでいるのがよくわかる。かわいい。かわいいが止まらない。

 ユイカちゃんを見ているとすべての疲れが吹き飛んで、何でもできてしまうと思うほどに癒される。さっきまでの苦悩や羞恥心も薄れたような気もする。

「うん!そうしよう!」

 遅れないようにその背中に小走りで近づく。1メートルくらい離れ、隣に並ぶような感じで歩く。少し顔を見合わせたら自然と互いに微笑んでいた。

 最高に幸せな時間だ。好きな人の隣を歩きながら感じるそよ風が心地いい。


 遠くからかすかな歓声がふっと聞こえてきた。アルビオンの城門の方からだ。

 視線を移すと結界の奥、戦いを見守ってくれていたアルビオンの人々から歓喜が上がり、勝利を喜んでいた。飛び跳ねて全身で喜びを爆発させている人、膝をついて感涙している人、隣の人と抱き合ったり固く握手をしている人など喜び方は様々。でも一様にしてこの戦いの勝利を喜んでくれている。

 最前列にはアルベール王の姿が見え、目に涙を溜めつつも泣くのを懸命にこらえながら気丈に振舞い拍手を送ってくれている。視線が合うと小さく頷いて何か話すように口を動かしていた。読唇術の心得がない俺でも『ありがとう』と言っているのがわかった。

 勝利を誰かに祝福してもらえたのは人生で初めて。誰かを救うことができたと思えたのも初めて。別にこの街や人々や世界を救うとか思っていないとか、ヒーローみたいになるつもりはないとか言って、少し粋がるような心境だと思い込んでいたけど、この光景を見れて『救うことができてよかった』と心の底から思えた。みんなの喜びようが嬉しくて、胸が熱くなる。込み上げてくるものがあって少し涙腺が緩むのを感じた。


「人生で初めてです。誰かを救ってこうやって歓声を浴びて、救われて喜んでくれている姿を目の当たりにするのは」

 嬉しそうに口元が緩んでいる。元の世界では正体を隠しながら戦い続けていたと言っていたから、俺と同じように初めてなのだろう。込み上げてくる感情を抑えるためか、胸辺りの服をぎゅっと握るようなかわいらしい仕草をした。

「俺もだよ~。なんかこの歓声にどう反応したらいいかわからないけど…嬉しいね」

「えぇ。ずっと自分たちのためだけに戦ってきて、歓声や救われた人の喜びなんか考えたこともなかった。でもいざこうやって目の当たりにすると…嬉しいものですね」

「うん!救えてよかったよ!俺たちの、カッコいいヒーローみたいな姿を見て、元気にもなってもらえただろうし。きっとこれでまたみんな、前を向いて生きていってくれるよ」


 町を出るまでに感じていた絶望感やどんよりとした重苦しい空気は消えていた。希望と夢に思いを馳せる人々の歓声が響き渡っていた。

「えぇ、そうですね。ではヒーローとして格好悪い所は見せられませんね。威風堂々とした姿で、結界を回復させて見せましょう」

「オッケー!せーの」

  声に合わせて、剣を魔法陣へと突き刺す。地面に突き刺すのと何ら変わりなく、なんの突っかかりも強い抵抗もなく、魔法陣へと深く突き刺さった。

 その瞬間、全身をそよ風が包み込み、魔法陣の光りが猛烈に強まった。体の底から優しく心地の良い暖かさが湧き上がり、全ての疲れが吹き飛ぶほどにエネルギーが溢れてくる。

 直感的にこれが【マナ】なのだと理解できた。憧れていた未知の力が自分の体に宿っている…目の前に無限の可能性が広がっていくような不思議な高揚感に包まれて、期待に胸が膨らむ。アルビオンを救うと同時に、魔法を使うという夢に一歩近づくことができたのだ。

 地鳴りのような重低音が響く中ではっきり自分の鼓動が聞こえる同時に、耳を澄ますともう一つの鼓動が聞こえてきた。聞こえている方向はわからないが、不思議なことに誰の鼓動なのかはわかる。

 ユイカちゃんの鼓動だ。

 チラッと見るとユイカちゃんもこちらに視線を向けていて、目がばっちりあった。どうやら俺の鼓動が聞こえているようだ。目が合って普通にドキッとしたらそれも聞こえていたのだろう、嬉しそうに満足げに微笑んだ。かわいい!

 それにしても自分のこのドキドキとした鼓動を聞かれていると思うと緊張と恥ずかしさでドキドキが加速する。

 そんな一人でアワアワしていると魔法陣にも新たな変化が起きた。ひびが入っていた部分が光に包まれ、新たに作り出されていく。結界全体が色鮮やかに、輝きを増す。きっとこれが本来の姿だったのだろう。

 数秒後、そよ風は収まり、魔法陣の猛烈な光も弱まり前と同じような優しい光に戻っていく。音もなくなり、静寂が訪れた。どうやらこれで魔法陣の修繕が終わったようだ。剣を魔法陣から抜く。

 するとなぜか先ほどまで感じていた疲労感が消え去っていて、細胞一つ一つが覚醒して全身をマナが駆け巡っているような感覚がする。それでいて程よい暖かさに包まれて心地よくて、落ち着く。傷も塞がっていた。回復もしてくれるなんて凄いな。

 満足げな表情のユイカちゃんと目が合った。やり切った達成感からか、視線が交わった瞬間には互いに笑いあっていた。


  すると目に前に、光の柱が天に向かって一直線に伸びた。

 雲を貫くような光が収まるとそこには、台座とそれに突き刺さった光で作られたように輝く剣が出現していた。燃えるような深紅の刀身にオーラのようなものが纏われていて、揺らめき燦然たる光を放っている。神々しく、触る事さえも憚られるような異質な雰囲気。ゲームやアニメで見た勇者の剣のようだ。カッコいい。


「もしかして…?」

「人類が保有している聖剣─【レーヴァテイン】。我がユグドラシル家が管理している」


 いつの間に近くまで来てくれていたアルベール王が答えを教えてくれた。

 魔王ルシファーを封じ込めている結界を作り出している聖剣の1本、【レーヴァテイン】。静かなる圧倒的な迫力と醸し出されるオーラが肌をひりつかせる。聞いた時には気軽に見てみたいと思っていたが、いざ目の前にすると自然と頭が垂れる思いだ。神話に登場する伝説上の武器をこうして目の前にする機会が来るとは、つい数分前まで思いもしなかった。


「二人ともありがとう…っ!アルビオンを救ってくれて」

「救えて光栄でした!それよりもなんでレーヴァテインが?」

「私が顕現させた。『人類を脅威から救う勇者が聖剣に触れる事で真の力を呼び覚ます』…我が家に受け継がれている守護者アルカナからの言葉だそうだ。はるか昔は全てのパラディンが触れてから旅に出たそうだが特に変化はなく、祖父の代からの取り決めで脅威を退け成果を上げた者にのみ触れる事を許可している。君たちは『円卓の騎士』を退け、結界を守り、アルビオンを救ってくれた。この聖剣に触れる権利がある。さぁ…触れてくれ」

「ありがとうございます!ユイカさん先にどう?レールガンで結界守ってくれたし、アルビオンを救った功績は大きいし相応しいしカッコよかったし」

「フフッ、心の声が駄々洩れじゃないですか。自分の成果を謙遜して譲ってくれなくてもいいですよ。大切な初戦で頑張ってくれた夢叶君が相応しいと思うので、どうぞ」

「ありがとう!では僭越ながら失礼します!えいっ」


 ユイカちゃんに褒められて心は有頂天。正直レーヴァテインに触れる嬉しさを軽く凌駕してしまっている。恐るべし。緊張が解け、触ることを憚られていた気持ちは薄れた。スッと手を伸ばし、柄を握る─が。

「えっ…!?」

 その瞬間、鼓動が激しく脈を打つ。鼓動が耳をつんざき、全身を揺らすように打ち鳴らす。心までもが何か得体の知れない力に包まれていく感覚が全身を飲み込んだ。心地が良いものではないが、決して不快ではない。俺はこれに近い感覚を知っている。

 【影纏い】が発現した時だ。アルカナが言っていた、新たな力を得るとはこの事だ。すぐにその感覚は収まった。驚いて変な汗が出たくらいで体や能力にも変化はない。

「夢叶君、大丈夫ですか!」

「うん、大丈夫!ちょっと慣れない感覚がして驚いちゃった。ユイカさんも気を付けて」

 頷くと何の躊躇いもなく柄を握った。その瞬間、青白いオーラがユイカちゃんの全身を包み込んだ。そよ風が体に纏わりつくように、服と綺麗な水色髪のベリショが靡く。

 軽く眉間にしわを寄せて、ライトグリーンの瞳は瞬きせずレーヴァテインを見つめている。おそらく俺も同じ事になっていたのだろう。端から見てわかった。

 数秒後には収まり、剣から手を離す。


「確かに慣れない感覚でしたね。雰囲気としてはOREDRに目覚めた時と同じような感じですね」

「やっぱり。新しい力…異能に目覚めた時と同じなんだね。でも特に変化はないよ?」


 あれだけ力が漲るような感覚はしたのだが、変化はなし。むしろそれが不気味ではある。

「レーヴァテインに触れる事で得る力とは何ですか?」

 アルベール王に視線を向ければ嬉しそうに笑いつつも、覚悟が決まったように意志の強い瞳をしていた。

 自分を落ち着かせるように息を大きく吐き出す。


「レーヴァテインに触れる事で得る真の力…名を【アーク・オブ・シンギュラポイント】。その力が宿っている者のみが、魔王ルシファーを『完全に殺す事ができる』」


「おぉー!これに触れないと魔王が倒せないなんて、本当に勇者の剣みたい。カッコいい!」

「なるほど…だから人類は狙われているわけなんですね。他種族からも」

 勇者の剣みたいだと浮かれている間にユイカちゃんが核心を突く。

 昨日アルベール王に聞いて、濁された答えはもしやこれか。


「その通り。昨日の答えはこれが原因だ。レーヴァテインに触れなく魔王は倒せない。この世界には様々な種族が存在するが、その中で人類が一番弱い。力を持たない。そんな人類が持っていても『宝の持ち腐れ』だと評された。ディアブロからすれば他の種族の聖剣も大切だが、レーヴァテインさえ抹消できれば負ける事はなく安泰。その他からしてみれば、ルシファーを倒すならば必須。各方面から狙われて当然の立ち位置なのだ」

「欲しければ協力してくれればいいのに…」

「そう簡単にはいかないものだ。今まで協力要請に応じてくれた種族はいない。殆どが『人類はどうでもいい』と言うスタンスだ。メリットが少ない上、種族に誇りを持っているという種が多いから、そもそも他種族と共闘するという概念すらなかったようだが」

「もし魔王を倒すなら他の種族の聖剣も必要ですか?」

「他の聖剣がどういう力を秘めているかはこちらにあまり情報が入ってこないが、【最果て】の場所が記録してある聖剣もあると耳にしたことがある。おそらくは必要となるだろうね」

「なるほど…なら尚更、僕たちが頑張らないといけませんね!」


 そう言ってみせると、深刻そうに浮かない表情のアルベール王が少し微笑んでくれた。

 ユイカちゃんも胸を張りながら。

「夢叶君ならそう言ってくれると思っていました。過去に誰もできなかったことなら、自分たちがその先駆者になるまでです」

「ユイカさん…!一緒に頑張ろうね!」

 誰も成し遂げる事の出来なかった事なんて夢の前には関係ない。夢を叶えるために成し遂げなくてはいけないのだから。誰もしたことがないなら自分たちが“最初”になればいい。

「全てを背負わせてしまって申し訳ないね…」

「大丈夫ですよ。重圧とも思ってませんから。僕たちには絶対に守りたい夢があります。その夢はこの上なく重く、息をするのも苦しいくらいに全身に纏わりついてきます。でもそれを背負っているからこそ、希望や期待はいくらでも背負えます!任せてください!俺たちが魔王ルシファーを倒します!!!!!」

 そう力強く宣言し天に向かって拳を突き上げると、民衆の大歓声が蒼穹にこだまする。割れんばかりの歓声が雷鳴の様に大きくなり声の波となって押し寄せて一瞬で俺たちを包み込んだ。びりびりと肌が震える。何度もこぶしを突き上げてその声援に応えた。

 大地を揺らし、空気を震わせ、熱気が辺りを包み込む。

 こういうヒーローみたいなことを一度はやってみたかったんだ。満足した。

 自分たちの夢を叶える事が、結果としてこの世界を救う。この上なく重い夢を背負っているのだ。今更これくらいで重圧なんて感じない。

 全てを背負い救ってみせるという英雄的な考えにはなれない俺は、ヒーローとしての素質はないのかもしれない。そんな俺でも結果を出せば幻想を抱いてもらって、夢と希望を与える事はできる。それでいいんだ。無理に大きく見せようとしなくてもいい。自分にできる事をすればそれでいいんだ。

 でももう一つ、全く重く感じない理由は『好きな人が側にいてくれる』。これほどまでに心強い事はない。ユイカちゃんと一緒なら必ず叶えられる。そう信じているから。

 チラッとユイカちゃんを見れば視線がばっちり合った。この場にいるすべての人の思いが一体となった空間で、見あいながら互いに笑みがこぼれていた。


「そういえば」

「ん?」

「トリニティのバリアの中での会話は聞こえていましたよ。『最高の時間』…そう言ってもらえて嬉しかったです」

「…ふぇっーー!!?」


 歓声に包み込まれる中で俺の驚きの声は空に木霊し、はち切ればかりの勢いの心臓の高鳴りを感じた。満足げな表情のユイカちゃんから少しの間、目を離すことができなかった。



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