第22話 推しと成る特異点
尊いに当てられて悶えていたら、アルカナが急に目の前に出現。優雅に足を組みながら光の椅子に座っている。
『そろそろいいかな?』
はぁ…せっかくいい雰囲気だったのに全くアルカナときたら。意外と出番多いし。
うちわをしまい、ユイカちゃんとの二人きりの時間が終わってしまったことに名残惜しみながら、ため息をついた。
「ハァ…なんでしょう?」
少しがっかりしたようにため息をつきながらアルカナへと向くユイカちゃん。軽く眉間にしわが寄っているし、目つきが鋭い。味方であり、神と言う上位存在にもかかわらず、ユイカちゃんも俺も揃って少しだけアルカナに冷たい。いや、アルカナの出てくるタイミングが悪いせいだ。俺たちは悪くない!特にユイカちゃんは悪くない!
『まぁまぁそんなに落ち込ま─』
「落ち込んでなどいません!で、用は何ですか?あなたが出てきたという事は、何かしら進展があるのでしょう」
『御名答。でもまずは勝利を祝いたい。おめでとう!滑り出しは上々。見事第一関門は突破という感じかな』
そう上機嫌に言いながら拍手を送ってくれる。
「こちらこそ、どうもありがとうございました。死ぬかと思ったよ!という重要なルール説明を敵から受けるってどういうことだよ!もう少し人類側には寛容になってほしいよ!」
『僕に言われてもね。まぁ愚痴はおいおい聞く、かもしない。本題に入ろう』
文句に意にも返さず強制的に話題に終わらせると、指を鳴らした。
するとユイカちゃんと俺の体が優しい青白い光りに包まれ、数秒光ったらすぐに消えた。特に変化はない。影も変わりなく操れるし、力が漲ってパワーアップしたとか、それもない。
『円卓の騎士を倒したという事で僕からのプレゼント…人呼んで【アルカナの加護】を付与した。これで君たちはアルビオンの魔法陣を回復させることができるようになった』
「魔法陣回復できるの!よかった…心配してたんだ。正直、魔法陣が回復しなかったらまた攻められて元の木阿弥なんじゃない?って思っていたからさ。どうやって回復できるの?」
『メチャクチャ簡単。自分の武器を魔法陣に突き刺せば回復する。結界能力も隠匿魔法も元通り…いや、今まで以上のものになる。この地が再び襲われる心配はほとんどないと言える。これで脅威は過ぎ去り、アルビオンは救われる。おめでとう』
そう楽し気に声を張りながら優雅に拍手を送ってくるアルカナ。
救われた─そう改めて宣言された時、ようやくその実感が胸の中に広がり、達成感に溢れ、体全体が熱くなった。湧き上げるエネルギーが全身を覆いつくし、無意識に口元はついにやけた。ユイカちゃんもホッと胸を撫で下ろしているようで、軽く微笑みながら嬉しそうに軽く頷いている。
「やったね、ユイカちゃん!」
「フフッ、まだ刺していませんから少し気が早いですがね。ですが…二人で様々なものを救えました」
そう微笑みかけてくれた。かわいい!ユイカちゃんと協力して目的を達成できたのは格別の喜びだ。一人で戦っていても味わうことのなかった感情。誰かと一緒に戦うのがこんなにも楽しくて、心強くて、生きていてよかったと思えるものだと想像すらできなかった。しかも一緒に戦ってくれたのが大好きな人だとは。
この世界に来てから何度目かの『生きていてよかった』、そう思えた。
「早く刺して魔法陣を回復させねばいけませんね」
「アルカナ、手短に頼むよ!」
『僕たち以外の時間は止めてあるから心配しなくてもいいよ』
「「え?」」
さも当然のようにけろっとした様子で“時間を止めている”と言い放ったアルカナに驚きすぎて、二人の声が重なった。
「時間、止められるの?」
『うん、そうだよ。説明する時だけだから大したことではないさ。わざわざ止める時間をくれるなんてルーラーも優しいね。そういう事でゆっくりと説明ができるというわけさ』
時間停止という文字通り神の所業を本当に大したことではないと思っているらしく、あっけらかんとした様子で答える。神基準、恐るべし。
でも魔法陣がまた効力を発揮するのであればこの土地は安泰。初めて2人で誰かを救うことができた。ただ単に自分たちの道を突き進んでいく途中にたまたま救える存在があるとどこか他人事のように思っていたけど、今になって救えたことの喜びと達成感、安堵が胸の中にじわりじわりと少しずつ広がっていっているのを実感した。
『そしてもう一つ…君たちは聖剣【レーヴァテイン】に触れる事で能力を得る。聖剣については、アルベール王から軽く聞いて知ってるよね?』
「魔王ルシファーを封じ込めている、というやつだよね。にしてもレーヴァテインってカッコいい名前だね」
「レーヴァテインは北欧神話に登場する武器ですね。主に剣として描かれていますが詳細は記されていないため杖だったり槍だったりしていますが…この世界では剣なんですね。そして…『世界樹』とは関わりが深い武器ですね」
またも俺の知らない知識をさらっとスマートに披露するユイカちゃん。北欧神話にも知識があるなんてカッコイイ!神話か…残念ながらそのジャンルの知識はほとんど持っていない。自分でもわかるくらいに輝いている尊敬の眼差しを向けてしまう。
ユイカちゃんは視線に敏感だから気付いていると思う。現にほんの少しだけ、一瞬こちらを見ようとしてやめるような素振りを見せたから。
『加護を受けていない者が聖剣に触れても何も起きやしない。魔法陣に武器を刺しても回復しない。イメージとしてはゲームとかによくある設定で、特定の敵を倒したら特別な報酬がもらえたりするだろ?この敵を倒せば特殊な力を得る、伝説の武器がドロップする、あるいは次のクエストを出現させるためのキークエストになっていたり…みたいな』
「あまりテレビゲームはしたことがなくそういうのは疎いので、私にはよくわからないシステムですね」
「えっ!ユイカちゃん、ゲームに疎いの!?いつか一緒にやろうよ~教えるよ~」
「フフッ、ではお言葉に甘えてその時はよろしくお願いします。楽しみにしてますよ」
少し目を輝かせていて、社交辞令でもなく心の底から楽しみにしているのがわかる。
その目の輝きに胸がときめき、全身がジワリと熱くなった。嬉しくて一瞬で満面の笑みになっていた。
「俺もだよ~!その時はよろしくね!約束だよ!」
「えぇ、約束です」
『一緒にテレビゲームをする』─その夢がいつか叶う時が来るのか、今は誰にもわからない。これから先、別の次元の住人である俺たちがこの世界以外で交わることができるのか。きっと神であるアルカナだろうと知ることのできないだろう。でもそんな叶うかもわからない約束が叶う事を信じて、その夢に思いを馳せる。
『今回はアルビオンの魔法陣及びレーヴァテイン限定だけど、他にも加護は存在する。その加護を受けるためには円卓の騎士やその他脅威となる存在を打ち倒す必要がある』
「でもそう都合よく相手が毎回来るとは限らなくない?」
『その心配はいらない。パラディンであり、バルバロスとズールを倒した君たちはより有名になる事だろう。噂は広がり、これから君たちの動向は人々からは注目され、ディアボロから警戒される。そんな君たちが動けば、自然と相手の方から動き出すはずさ』
「成程。それもそうか。ミッションとクリア報酬…本当にゲームみたいだね」
「まぁ神々の戦いの代理戦争なので神視点から見ればある意味で、ゲームなのでは?」
「たしかに!」
そんなやり取りをユイカちゃんとしたがアルカナは構わずにマイペースに口を開く。
『でも素晴らしいスタートを見せてくれて感謝しているよ。これからも君たちの活躍に期待しているよ。世界の【特異点】となれ…これはまだ、始まりに過ぎないからね』
そう少し意味深な事を言ってアルカナは姿を消した。相変わらず自分勝手だ。




