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第21話 推しが魅せる戦い


 振り返るとフィールドの境界線にユイカちゃんが見える。光の壁が粒子となって消えてきて、もう少しで完全に崩れ去り無くなりそう。薄くなる壁の向こう、俺を見て拍手をしながら微笑んでいるユイカちゃん。間が合うと小さく頷いてくれた。かわいい!この微笑みのおかげでバルバロスとの戦いを勝利できたといっても過言ではない。生きててよかった…この瞬間のためにこれまでの人生があったのかもしれない。

 勝利の実感が溢れてきた。今の快晴の天気の様に晴れ晴れとした気持ちがじわりと心に広がっていく。この世界に来て戦うべき相手に初めての勝利し心が震え、猛烈な達成感が全身を包み込む。内から止めどなくエネルギーがあふれ出し、呼吸が荒くなり─

「…っっしゃあぁぁっ!!!」

 躍動する感情に身を任せ、天にこぶしを突き上げて咆哮をあげた。蒼穹へと木霊した。

「ユイカちゃん勝ったよおぉぉぉ~!!!」

 見ていていたが一番に勝利の報告をしたかった。手をぶんぶん振りながら全速力で駆け寄る。近づく頃には壁は完全に消え去っていた。壁がなくなり歩み寄ってくるユイカちゃん。少し呆れたように肩をすくめつつも、微笑みながら迎えてくれた。全ての疲れが消し飛んだ。


「お疲れ様でした。夢叶君の勇姿…しっかり見てましたよ」

「ありがとう!!ユイカちゃんのおかげで勝てたよ!」

「私は何もしてませんよ?ただ応援していただけです」

「それが一番力になるんだよ~応援してくれてありがとう!!」


 そう伝えると前髪を触りながらまた微笑んでくれた。その最高にかわいらしい仕草と表情が見れて、俺の心の中は幸せでいっぱいになっていく。動いて熱くなっている体は、更に内側からじわりと熱くなり、疲れも吹き飛びエネルギーに満ち溢れている。

 大好きな人に応援してもらうのは生まれて初めて。現実世界だけではなく小説やアニメなどの様々な物語で『好きな人に応援してもらえるのは最高の力になる』と言われていた。それを今ようやく実感することができた。最高の気分。生きててよかった!


 その時、殺気と微かなエネルギーの流れを感じ、はっと目を向ける。

 50メートルほど離れた場所。レーザー光線を放ってきたディアボロがこちらに手をかざしている。右手には、地面をえぐったあのレーザー光線と同じ白光が集束してきている。先ほどの時よりも明らかにエネルギー量が桁違いに高い。もう発射体勢に入っている!

 バルバロスを倒したことで危機は去ったと勝手に思い込んで、油断した。滾る戦いに勝利して浮かれてしまった事を反省しつつ、瞬時に海神ノ玄武と大盾を発動させ防御姿勢に入る。俺達のスピードならおそらく避けられるはず。距離が多少遠いため今すぐに斬りに行けないが、レーザー光線を避けつつ距離を詰めて斬れば勝利。完璧なプランだ。

「避けてもいいが、貴様らの後ろはどうなるだろうな?」

 発したその言葉を理解した瞬間、全身の血が凍ったかのように寒気が突き抜けた。

 俺達の後ろにあるのは、『最終防衛ラインの結界』。それもダメージがかなり入り、壊れかけの。ただでさえさっきの攻撃でひびが入っていたのに、さらに威力を増しているであろう光線を食らえば壊れるどころかアルビオンにまで被害が及ぶ可能性すらもある。


「貴様の防御はあくまでも自身の身を守ることに特化している。その盾も2人が入れてせいぜい。自分たちは守れるかもしれないが、吹き飛ばされた上でアルビオンへのダメージは避けられないだろう。まぁその程度の盾では、私の【スティル オブ ジェノサイド】を防ぐことは不可能だと思うがな。どちらにせよ…貴様らは大切な存在を守ることはできない負け犬となる。自分たちの身だけ守って、守る物が壊されては意味がないだろう」


 避けれはするかもしれないが、例え俺たちが無傷でこのまま敵を倒してもアルビオンを守れない英雄など、今の人類には求められていない。非難は出るだろうし、下手をすれば人類側からの追放すらもありえる。そうなればこの先の道は苦しくなり、夢が途絶える。

 敵までは距離があり、俺の攻撃は範囲外。距離を詰めるために踏み込んで影を伸ばしても、レーザー光線の発射に間に合わない。しかも悪い事にあのディアブロの言っている事は事実。雫ノ大盾では1人、2人が入るのが限界程度の大きさしかない。レーザー光線の範囲はおおよそ10メートル。どうやっても必ず後ろの結界に被弾してしまう。

 せめて少しでも防御範囲を広げようと咄嗟に前に踏み込もうとした瞬間、俺を制するように美しいユイカちゃんの手が伸びた。綺麗な腕。


「私に任せてください」


 そのまま3歩出て、兵士に向けて右手をかざす。

 ちらりと見えた美しい横顔には不安の色はなく、いつものように絶対なる自信が浮かんでいる。ライトグリーンの瞳には星空が浮かんでいるように輝きが増していて、目の前の標的を視界に捉えていた。かわいい!こんなにも近くで見れるなんて幸せで胸がいっぱいだ!美しい可憐な腕までの距離が少し近くてドキッとしたし、相変わらず可愛い得意顔とそのカッコいい様子に胸が撃ち抜かれキュンして、心臓がバクバクと音を鳴らしている。


 俺の3歩前にユイカちゃんがいることで、後ろ姿を見る事になったのだがスッと伸びた背筋と健康的で吸い込まれるような綺麗なうなじ。風で少し揺れる水色のベリーショートに、陽の光で煌めくつむじ。陽に照らされてほんのりと赤くなった耳。色っぽい!!どれもこれも美しいし、謎に色っぽいし、初めて見る場所だから心臓がドキドキしまくる。ドキドキしすぎて鼻血が出そう。漫画描写でそんなシーンがあったけど自分が体験しそうになるとは。


(かわいいし綺麗だ…美しいとはユイカちゃんのためにある言葉だよね!うんうん、そう思うよ!こんなにも素晴らしい景色が見れるなんて…エヘヘ、幸せだなぁ~)


 そしてユイカちゃんのこの表情を見た瞬間に『危機は去った』…そう感じた。


 かざしていた右手に変化が。光が一気に集中し纏われ、一瞬にして巨大な筒状へと形作られていく。20センチほどの銃口、長さ1メートルを超える長方形の砲身。その先端の上下にレールのようなものが2メートルほど伸びている。ファンタジーゲームとかでよく見る『レールガン』の形状へと変化。

 それに目を奪われている間にユイカちゃんは準備を済ませていた。膝を軽く曲げて左手で右手を支え、まっすぐレーザー光線の兵士に向ける。いつの間にか光で作り出されたシューティンググラスも装着。カッコいい!

 渦を巻くようにレールガンに光の粒子が集束。ユイカちゃんの瞳と同じライトグリーンの光。エネルギーをチャージしているのかキュイーンという磁励音が聞こえ、集束した光の粒子はレール部分で球体になり纏まる。周囲には電気のようなものが走り、パチッパチッと音を鳴らしている。カッコいい!

 高エネルギーなようで近くにいるだけで少し熱い。真夏の太陽を浴びているように肌がヒリつく。

 ハッと我に返る。

 今からユイカちゃんは敵と交戦し、俺はそれを見守る。アークに来てから3回戦いを見てきたがどれも応援できる状況ではなかった。一緒に戦ったり少し離れた場所にいたりで。でも今は違う。初めてユイカちゃんを間近で応援できる機会が巡ってきたという事だ!

 こうしちゃいられない!急いで影から隠していたアイテム『推しうちわ』を取り出す。

「頑張ってユイカちゃん~!応援してるよ~!!」

 ユイカちゃんの顔写真がプリントされ、可愛らしいフォントで『ユイカちゃん』と文字入りされているほか、『ずっと応援してるよ!』、『指ハートして』、『尊い』、『ずっと好きだよ』などが書かれているうちわを取り出した

 エレクトロン・アカデミーは約1年で終了してしまったのでグッズはほぼない。アクキーとポストカードくらいだ。なので、このうちわは俺のお手製。視界に入って邪魔しないように少し離れてから、うちわを軽く振る。

 振っているだけでめっちゃ楽しい!推しのライブでうちわを振っているファンの気持ちがわかった。人生で初めて間近で推しを応援することができて感情が込み上げてきて、涙で視界がぼやけそう。声が詰まりそうになりながら必死に耐える。

 推しを間近で応援できる…こんな日が来ることをずっと待ち望んでいた。

 チラッと俺の方を見るユイカちゃん。一瞬何をしているのか理解できなかったようで目を見開いて固まった後、前を向く。


「うちは…。まったく…あなたという人は本当に…」


 少し呆れたような、でも少し恥ずかしそうで嬉しそうな声色。言葉とは裏腹に、見えた口元は少しだけ微笑んでいた。


「笑止。最大までチャージした私の【スティル オブ ジェノサイド】と真正面からやり合おうなどと思うとは…気が狂ったようだ。いや人間程度の下級生物では力量差もわからないということか。スペリオルでも円卓の騎士でもないから油断しているだろうが、今はスペリオル定員の関係で仕方なく円卓の騎士ではないが、実力は引きを取らぬどころか勝っている。一席空いた今は次期円卓の騎士が確定したといっても過言ではない。よく覚えておけ!我が名は『博愛のズール』!アルビオンもろとも消し去ってくれる!!」


 人の声とはかなり異なっている、電子音声のような少し高い声。

 その声色は自信と血気に満ちている。

 だが─

「そういうのはどうでもいい」

 先ほどまでとは違い、露骨にテンションが落ちているユイカちゃん。その言葉の通り、相手の話は心底どうでもいいようで、吐き捨てるようにそう呟いた。その声色今まで聞いたことの無いほどに冷たく、氷点下をも下回るかもしれない程。自分に向けられたら…一生立ち直れない…無理。泣く。号泣する。想像するだけで人生の終わりを感じるレベルで恐ろしい。

 冷めた反応にズールの殺気がより鋭くなる。表情は見えないがおそらくは憤怒の色に染まって真っ赤になっているに違いない。ユイカちゃんから目を離せないのでズールがどんな感じのなのかはわからないが、殺気の鋭さから見ても怒りで震えているかもしれない。

 しかしユイカちゃんは止まらない。

「“この状況になってもわからない”とは、呆れたものです。亡きバルバロスと比べる事すらも烏滸がましい。実力のない自信はただの滑稽…それではスペリオルになれないのは当然ですね。まぁ…ディアボロのスペリオルと円卓の騎士への条件は全く分かりませんが」

 少し呆れつつ、そしてどこか失望感が漂う声色で淡々と容赦なく思っている事を告げるユカコちゃん。冬の早朝のような鋭い冷たさに、言葉を向けられていない俺の背筋が凍るほど。カッコいい。

「貴様ぁぁあああああ!!!!!!」

 大地を揺るがすほどの怒声が辺りに響き渡る。その言葉に反応するように荒々しい風が吹きつけ、つむじ風が巻き起こる。大気が震える。

「消し飛べっっ!!!!!」

 怒号と共に集束していた白光が溢れんばかりに弾けようとした刹那。

「それが最後の言葉ですか…お気の毒に」

 ポツリと呟いた短い言葉ではあったが哀れみと十二分に込められていた。そして一拍置いて。


「…【調停者の灯オーバードライブ・レイ】!!!」


 一瞬の静寂。力強く、全てを飲み込むようにはっきりとした口調で発せられた。

 呟きからの技名を力強く宣言した切り替えがカッコよくてドキッとした。痺れるくらいに綺麗な声も相まってクールで痺れるほど凛とし、胸がときめく。心が躍る。

 力強い宣言と怒号が混じった瞬間、互いのレーザー光線がほぼ同時に発射。

 その刹那、周囲は眩い光に包まれ衝撃波が襲ってきた。近くにいるため余計に光が眩しく感じる。影纏いで遮光していなければまともに見る事もできないほど。

 互いの技がぶつかった瞬間に更に強い衝撃が襲う。礫が舞い、空気が震えて鎧越しにも骨の髄まで揺れる。ユイカちゃんのベリーショートの水色髪が優雅に揺らめく。

 大気をも揺るがす衝撃が発生した─しかし、勝負は拮抗などしなかった。光線がぶつかった瞬間、衝撃波が起きた瞬間だけはその場でせめぎ合った。


一瞬のみ。

 

 ユイカちゃんが放ったライトグリーンのレーザー光線【調停者の灯オーバードライブ・レイ】がズールの【スティル オブ ジェノサイド】を飲み込み、かき消した。勢いそのままにまっすぐズールへと向かっていく。

 驚きはない。こうなることは“わかっていた”。

 長年の戦闘経験で無理やり培われた能力か、もともと備わっていた才能か、理由はわからないがユイカちゃんも俺もある能力が備わっている。

 それは─『自分と相手の実力がわかる』。

 少し触れて見れば、実力が自然とわかる。いわば自己認識能力の派生ともいえるもの。バルバロスに向かって話していたのはこれの事だ。世界が違うからこの感覚にずれが生じているかもしれないと思ったけど、戦っていく内にその感覚はずれていないどころか、より研ぎ澄まされていたことがわかった。

 互いにこの感覚が備わっているのを知ったのは昨日の夜。何気ない会話からフッと話題になり、寝る前にこの話で盛り上がった。嬉しかった…この感覚っていまいち誰にも共感されなかったから。初めて共感してくれた相手がユイカちゃんなのがさらに嬉しい。

 俺達ほどではないが、バルバロスもある程度はわかっていたと思う。俺を相手にして一切油断せず、強固な防御力を誇っていて今まで傷一つつかなかった攻撃にも変化が見られダメージを受けるであろうと判断すれば明確にしっかりと反応してディフェンスしていた。言葉一つ一つを聞き逃さずに、その真意を知ろうとし続けた。敵ながら天晴。

 そういうわけで、これほどまでの実力差があることがわかっていないのはズールだけだった。それもわからずにただ喚いているズールの姿は、ユイカちゃんの言葉を借りれば。


「お気の毒に」


 そう言葉を呟いた瞬間、ライトグリーンの眩い光がズールを飲み込み、一瞬の静寂の後に強烈な光が轟音と共に周囲に広がり爆発。強烈な衝撃波が襲ってきた。

 一瞬で衝撃波は過ぎ去り、強烈な光も薄れていく。爆発が起きた場所もはっきりと見えるようになっていく。クレーターのような凹みの中央、石化した一つの屍。

 勝負は僅か数秒で終わりを告げた。


「ユイカちゃんの勝ち!圧勝だよぉ~!!」


 軽く様子を確認した後、右手のレールガンが見て満足そうに小さく頷くユイカちゃん。かわいいしカッコいい!一仕事終えた仕事人みたいに充実感が背中から伝わってくる。頼もしくて魅力的でカッコいい背中から目が離せない。全ての仕草がカッコいい!

「凄いっ!!ユイカちゃん、カッコいいよ~!」

 魅力的でカッコいい姿についに堪えられなくなって、うちわを振りながら思いが口から零れ落ちた。その言葉に反応してクルっと向きを変えて俺の方を向く。

「フフンッ…いえいえ」

 言葉では否定しているが表情はかわいらしい得意顔になっているし、なんなら腰に手を当てて胸を張っている。かわいい!言葉と行動のギャップに胸が高鳴る。

 基本的に褒められるのが好きなユイカちゃん。原作でもこんなシーンが何度か見受けられた。俺はその度に今みたいに胸を高鳴らせている。これが胸キュンと言うやつだろう。世界を越えて、ユイカちゃんから何度も胸キュンさせられるとは、夢にも思っていなかった。

「カッコいいし可愛いよ~一緒にいれて幸せです~エヘヘ」

 戦いが終わって緊張の糸が切れたせいか、同じ戦場で別々とはいえユイカちゃんと一緒に戦えたのは初でテンションも上がりまくっているせいか、心の声が漏れまくる。きっと今、鏡で顔を見たらへにゃへにゃの腑抜けた顔をしている。


「それが…例のうちわですね」

 俺が腑抜けている間、ライトグリーンの瞳でジッと推しうちわを見つめるユイカちゃん。決して恥ずかしいものではないけど、流石に本人に見られると恥ずかしくてドキッとする。

 これはアルカナがわざわざ言及してくれた、あちらの世界から持ってこれた数少ない宝物である、例のうちわ。『推しうちわ』。

 恥ずかしくてうちわで顔の半分を隠すけど、がっつり視線を感じる。チラッと見れば少しだけ頬がピンク色に染まっている気がしなくもない。でもこれは戦った後だから体温が高くなって顔が赤くなっているだけという可能性もあるから何とも言えない。

「えっと…あの…ど、どう、かな?」

「…誰にも見られない場所で使ってくださいね。少しだけ…恥かしい…ので…」

 そう言い終わるとクルっと後ろを向いて、前髪を触る。後ろから見たら耳が赤くなっているし、少ししか見えない頬っぺたもほんのり赤い。

(か…かわいいぃぃぃぃっっ!!!!あああああぁぁぁぁぁ~…)

 可愛らしい反応と言葉が胸の奥底までざっくりと深く刺さり、完膚なきまでに打ちのめされた。心の中がじわりじわりと熱くなり、鼓動が一気に加速する。全身の力が抜けそうになり地面に膝がつきそうになるが、なんとか耐える。


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