第13話 推しと始まりの戦い
部屋の中に朝日が入ってきたのか、閉じている瞼に優しい光が刺激される。
昨日は最高の体験ができた。今ゆっくりと意識が覚醒する中で昨日の出来事がはっきりと目に浮かぶ。ユイカちゃんと会ってご飯を食べたり買い物をしたり。まるでデー…いきなり心臓に負担をかけるのはよくない。
目を開けたくない。もしかしたら夢や幻だったかもしれないから。
本当の俺はアークなんかに召喚されていなくて、『エレクトロン・アカデミー』の打ち切りの絶望に充てられて、泣き疲れて寝落ちしているのかもしれない。
そう思うと怖くて仕方がない。だって普通ならあり得ない体験をしてのだから。
ふっと鼻をくすぐる匂い。目をパッチと開いた。
「おはようございます、夢叶君」
カーテンの隙間から漏れる朝日に照らされた頬っぺたが、うっすら赤くなっている。部屋着姿の最高にかわいい微笑みのユイカちゃんが目の前に、確かに存在していた。夢でも幻でもなかった。本当の出来事なんだ。最高だ。
「おはよう!ユイカちゃん!」
今日もまた、奇跡の1日が始まる。
昨日よりも平和な日にしたいなぁ…という淡い期待を持ちながら立ち上がるがその数分後、そんな淡い期待は一瞬で打ち砕かれることになるとは知らず。
朝食を食べて少しだらりとしていた時、耳をつんざくけたたましいサイレンのような音が鳴り響いた。宿全体を揺らすほどの大音量で、窓ガラスが割れんばかりに音。アルビオンの全体に響き渡っているのではないだろう。
外を覗くと、待ちゆく人との表情が青ざめているのが見えた。中にはガタガタ震えその場にうずくまってしまっている人やその場から全速力で離れていく人も。何が起きているかはわからないが明らかな異常事態。ユイカちゃんも俺も表情が険しくなった。
「何か始まったみたいだね」
「この慌てようはただ事ではないですね。王城へ行きましょう」
町中から王城へと向かう途中では、騎士たちが住民への避難誘導をしていたがパニックになっている住民たちは中々統率が取れずにてんやわんやしていた。スピーカーからの避難指示に混じり、悲鳴や怒号が流れて町全体が混沌と化していた。人波をかき分けて王城へとたどり着けば騎士たちが慌ただしく駆けまわっていた。
「第1結界が突破された!!住民の避難を急がせろ!!!」
「ガイアカグラへの避難経路が確保できない!?隠匿魔法が破られている…クソッ!!」
「ランスロッド団長がクロノグロリアへ行っている留守の時にタイミングが悪すぎる…まさか…!敵に情報が漏れた…この時を狙われていたのか」
「隠匿魔法どころか結界魔法すらも破られている…何がどうなっているんだ!!」
「第2結界にディアブロが接近!!このままの速さでは今日中にはアルビオンにたどり着いてしまう…魔導士、ネクロマンサー、モンクに連絡して部隊へ招集させるんだ!!」
入ってきた俺達には目もくれず、駆けまわり異常事態を収めようと奮闘している。中にはチラッと俺たちへと視線を送る人もいたが、すぐに目を逸らし何も触れて来ない。声をかけても軽くあしらわれてしまう。これが今のパラディンに対する信頼度なのだろう。悲しい。
勝手に話を聞くに、ディアブロによる敵襲。隠匿魔法が見破られ結界に総攻撃を受け、このままでは突破されるのも時間の問題…ピンチだね。また知らない単語も出てきたし。
「君達!!」
アルベール王にでも直接話を聞きに行こうと思った矢先、後ろから声をかけられた。振り返れば俺たちを案内してくれた門番さんだ。走り回っていたのか肩で息をしていてヘルムの間から汗がしたたり落ちていた。この人はパラディン派だったから話をしてくれるはず。
「門番さん!」
「よかった、探したよ!急いで王の間へ!アルベール王がお呼びだ。来てくれて」
話す間もなく速攻でアルベール王の元へと連れられた。全速力で走り、数分もしない内にたどり着いた。
「失礼します!!パラディンの2人を連れてきました!!」
勢いよく開かれた扉の先では昨日とは打って変わり、多くの人が集まっていた。金の装飾が施された豪華な服装。おそらくは王族とか貴族などの上流階級の人たち。
一斉に険しい視線が集まる。こういうには慣れていないのでソワソワしちゃう。
「来てくれたか、パラディンよ」
静寂の中でアルベール王の嬉しそうな声が響く。
だが周囲の反応は冷ややかで完全にアウェーな空気。まぁでもしょうがない。
「これが此度のパラディンか。まだ少年少女ではないか…」
「本当にこの2人に頼むのですか?ランスロッドの方がまだ信頼できます」
「しかも2人…前は隊を組んでいたのに。避難を優先した方がいいのではないか?」
口口に発せられたのは、やはり期待は微塵もしていない諦めの声だった。予想通りだから何とも思わないし、正直どうでもいい。期待させていなくても、自分たちのやるべきことをするまでだ。俺たちが目的はこの国からの信頼を得る事ではなく、大切な人を守るという事。どうなっても止まることはない。
「王様─俺達に敵を殲滅する許可を!戦闘の許可をください!」
周囲がざわめく。誰からも信頼などされていない。漏れる言葉は疑念の声。表情は曇り、冷たい視線を向けるばかり。でもこの状況を、全てを変えてみせる。
次々に上がる声を無視して玉座の間に王の声が響く。
「今、アルビオンはディアブロによって攻め込まれている。どうかパラディンよ…敵を殲滅し、ユグドを救ってくれ」
玉座を降り、深々と頭を下げてくれた。最後の望みと鬼気迫るその声は、空気を震わせ、魂が込められ強い意志を持った勇ましいものだった。そのお願いしかと受けました。
「任せてください!」
「期待に応えてみせます。私たちの…パラディンの実力を示します」
ユイカちゃんも気合が入っているようで、ライトグリーンの瞳に爛々と輝く闘志の炎を宿していた。見るもの全てを飲み込みそうな瞳と、気迫によって周りにはオーラのようなものが見える気がする。『エレクトロン・アカデミー』でも戦う前の気合の入っているユイカちゃんは描写されていたが、直接見た方がやっぱり何倍もかっこいい!
こんなユイカちゃんの隣で戦えるのだから俺も恥ずかし所は見せられない、そう気合が入った。
この世界での戦いが始まる。




