5 課外授業
最終学年で今年最後の課外授業があると、皆ウキウキしている。
年3回あると言うがキラにとっては初めてのことだ。訳が分らず、スタントンに聞くと、
「5人から6人のグループを作って、岩山まで行って竜を討伐するんだ。小さい地竜が一杯いる。それをどのグループがどれだけ獲ったかを競う。危険もあるけど愉しいよ。今年のクラスは12人だから6人のグループ編成になるだろうな。もうグループは決まっているはずだ。」
何でも二週間もその授業に割くそうだ。持って行く物や準備が兎に角大変だとスタントンは言っていた。
最終学年は5クラスだから、全部で10グループくらいだろう。
平均で竜の討伐数は4頭らしい。5頭取れれば上位に食い込めるとスタントンは意気込んでいた。
光魔法のレベル上げにもなるそうだ。
キラ達のグループは、女子が2人と後はキラとスタントン、士爵の長男のベンゼルという男の子と公爵の側室の子供、デストロルという子供だ。
公爵の子供と言うことで気位が高いかな、と思っていたが案外そうでもなかった。引っ込み思案で気の弱そうな子供だった。
6人の中で先頭に立って計画を練っているのは女子の二人だ。
一人は男爵の子供でルシアーヌ、もう一人は伯爵の3女でフェリーヌと言った。
彼女達は魔力も少なく、属性も水だけだ。貴族の女子は、魔法が使えると結婚の条件が良くなるのだと言った。
「私は王族との縁組みを期待されているの。両親の思いを受けて大変。」
フェリーヌがそう言っている。貴族とは大変な物だ。
ベンゼルという男の子は魔法剣士になることが決まっていると言っていた。魔法剣士になって手柄を上げ魔法騎士になれば、彼の代で職位が上がるそうだ。彼の家は長男が生れる度に魔石を埋め込んでやっと生き残った子が彼だという。
持ち物は皆で分担することになった。食料類は女子で、鍋釜などはキラの担当になった。他の物はそれぞれ男子に振り分けられた。
学校から魔法袋の貸し出しがあったのでキラはそこから借りることにした。養父は多分持っていないだろうと思ったからだ。
家に帰って、養父に課外授業のことを言うと、慌てて商会へ走って行った。
暫くすると、セレスティンが養父と一緒に帰ってきた。
「キラ君、君の担当は何だって?」
「エート、鍋や釜、器です。でも、魔法袋は貸して貰えました。」
「ああ、君に気を遣わせてしまったね。そんなことはしなくて良かったんだ。商会が総てそろえておく。気にしなくて良いからね。」
子供達だけでそろえて自分たちだけでやらなくても良いのだろうか?
誰にも言わないで自分でそろえれば良かったのだろうか。しかし、キラには鍋1つもそろえることは出来ない。何となくズルをして居るようで気持ちが落ち着かなかった。
直ぐに魔法鞄を持ってセレスティンが戻ってきた。
「これに総て入っている。君が借りてきた魔法袋は返しておくよ。どれ。」
仕方なくキラは魔法袋をセレスティンに渡す。
セレスティンが持ってきた魔法鞄はピカピカの新品だった。これからこの鞄はキラの専用だから、暗唱言葉を決めなさい、と言われキラは父の名前にした。
誰にも分らないようにしないといけないそうだ。
鞄の底に小さな魔石があり、それに手を置いて父の名を言うとビリリと痺れを感じた。それでこの鞄はキラの物になった。
自室で一人になってから、セレスティンが持ってきた物を確認する。
大型の鍋、中型の鍋、小型の鍋、皿、コップ、カトラリー、包丁、まな板、お玉、料理屋でも開けそうな位入っている。
「こんなに使わないと思うけど。折角用意してくれたから持っていくか。」
鍋が一つあれば、何とかなるのに。皿は大きな葉っぱがあればそれで良いし、木の棒に肉をさして焼けば、それだけで何も要らない。キラはそう考えてしまうが、貴族の野営の仕方は違うのだろうと諦めた。
課外授業の当日になった。
生徒達はワクワクしているようだ。グループごとに馬車に乗り、それぞれに担当の教師が剣を持ち、防具を着けて一緒に乗り込んでくる。
「いくら課外授業と言っても、危険はあるからね。気を引き締めて、はぐれないようにしなさい。」
教師は緊張している。毎年3回も経験していても、魔獣の沢山いる所へ行くのだ。何かあれば、貴族の子供を危険に晒すことになって仕舞う。
「皆、必ず一人では行動しないように。だが、魔獣は倒せれば倒すように。君らのレベル上げにもなるからね。」
子供達は、魔法使い用のステッキを持ち、魔法使いのローブを着ている。
キラも今回用意して貰った。このローブは防具になるそうだ。ステッキは魔法の通りが良くなって魔法の威力が上がるんだとか。
使ったことが無いので今回試せれば良いと考えていた。
普段は制服など無い、普通の服を皆着ていたのは魔法学校の生徒だと知れれば危険だからだそうだ。人攫いがいる世界だ。
学校まで馬車の送り向かいが付いていたのは、そういう訳だったのか。
まだ魔法が十分に使えない子供ばかりの学校だ。高等魔法学校に入れば、皆堂々と魔法使いのローブを着ているそうだ。
馬車で半日ゆられ、休憩を挟んでまた馬車での移動。結構大変だ。
道路が整備されていたので、揺れは気にならないが、ずっと座りっぱなしは、身体が硬くなってしまって疲れる。
夕方になり野営の準備だ。まるでキャンプ場のような処でそれぞれ準備し始めた。キラはなにをしたら良いのか分らない。うろうろしていると、
「キラ君、貴方、お鍋の担当でしょ。こっちへ来て火をおこして頂戴。」
「は、はい。」
竈はここに元々設置されていた。それに小枝を入れ火を付けるようだ。火打ち石は持ってきていない。またうろうろしていると、
「貴方、魔法を使えるでしょ!火くらい付けれないの。」
オオ、そうか。魔法があった。直ぐに火が付いた。
「凄く便利だ。魔法って。」
呆れたような顔でルシアーヌがキラのことを見ている。
「ルシア、余り厳しく言わないで。キラ君はついこの間魔力操作を覚えたばかりなんだから。キラ君凄く上手に火を付けられたわね。偉いわ。」
何となく子供扱いされているような気がする。そう言えばキラはまだ8歳だった。皆より2歳も下だった。聞けば良いんだ。
「次はなにをすれば良いのか教えて。」
「そうね薪を運んできて。あそこに見える小屋が薪小屋よ。」
薪を運んで次は鍋を出し、鍋に水を入れる。これも魔法だ。まな板と包丁を出して、料理の下準備の手伝いをする。貴族の子供なのに随分手際が良い。これまで何度か経験しているせいなのだろう。
他のメンバーは何をしているのか見て見ると、テントの設置をしていた。
食事の準備が終わり皆で食事をする。テーブルまでここの設備に整っていた。
野営と言うよりはお手軽キャンプだった。
後片付けは男の子の担当だった。片付け終わったら皆でゆっくりし始める。
「ベンゼルのテントは新品か?」
「この度、新調した。温度調節が付いて最新式さ。」
「へえ、凄いな、俺のはまだ旧式だ。もうそろそろ買い換えて貰おうかな。」
「でも、ベンゼルのは女子に取られるさ。僕達はスタントンの方だ。」
「仕方がないか。女子には機嫌良くして貰わないと。後で怖いからな。」
男の子だけで、クスクス笑っていると女子がトイレから帰ってきた。
「ベンゼルのテントを私達が使わせて貰うわ。」
「ほらな、」
またみんなで笑い始めた。キラは愉しかった。こんな風に同年代の子供と話したことがなかった。