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16キラが消えた後

メイド頭のスージーは、キラが心配だった。このまま帰ってこないような気がしたのだ。異界の門をボブと二人だけでくぐって見えなくなってしまった。

「賢者様は、このまま王様の子供を弟子になさるのかね。3歳の幼児をこれからお世話しないといけない。気を引き締めて掛からないとね。」

そう言って屋敷に帰った。

「賢者様、お茶が入りました。」

「ん、スージー、キラは行ったか。」

「はい、ボブが付いていきました。良かったのですか?ボブは賢者様の従者ですよ。」

「構わん。ボブがいれば、道が分かるだろう。万が一の事があれば直ぐに引き返すように言ってある。」

賢者様がボブを付けてやったのですね。キラ様は、こんなに賢者様に思われているのを知っていたのかしら。もし知っていたとしてもキラ様はここを出て行ったでしょうね。若者には余りにも閉鎖された環境だもの。可哀想なくらいだ。

賢者様は幼い時からこの環境で育ってもいたし、王族も似たような物だからね。平民や下級貴族では耐えられないだろう。


「二ヶ月か。もうそろそろ中間地点まで行けただろうか。」

賢者は、キラが途中で帰ってくることを期待していた。

ボブがいれば、きちんと連れて帰ってくれるとも考えていた。これから王族の幼児の面倒を見なければならないが、あれは生まれ持った魔石では無かった。魔石の同化がやっと成功した五番目の子供だろう。

王は自身の力を賢者に押さえつけられるのを嫌がっていた。側室の子に次々と魔石を同化させていたが、どれも失敗していた。目に埋め込むのは一番危険な手術だ。同化できない確率も高い。

 キラのような額の真ん中に魔石を埋め込むのは不可能だ。あれは以前の賢者と同じだった。以前の賢者は非常に力が有った。自分の弟子をずっと探し続けて見付けたのが、今の賢者だ。だが、賢者にしては力が弱い。片側に魔石が付いていると言うことは、力が分散して仕舞うからだ。

真ん中に魔石があれば、効率よく属性が発現する。知力も格段に上がるのだろう。キラの本を暗唱した姿を、善望の眼差しで見ていた賢者だった。

だが、キラは自由を選んだ。

もしキラが如何しても弟子で居たいと言えば賢者は王を倒してでも願いを叶えただろう。だがキラは、嬉々としてここを出て行った。

執着があれば聖者には成れない。キラは執着が無かったのだろうか。もしそうなら、キラこそが聖者に一番近いだろう。以前の賢者にもなし得なかった聖者の道を究めることが出来るかもしれない。


「賢者様!ボブが帰ってきました。」

「おおー。帰ったか。ボブ、キラはどうした。何故お前だけで帰った?キラは死んで仕舞ったのか!」

「キラは、行って仕舞いました。元賢者だという骸骨の魔物を倒して。気味の悪い奴で、額に大きな魔石が付いた奴です。キラは骸骨の魔石を奪って、何かを貰って居たようでした。これを師匠に渡して欲しいと言い残して転移しました。」

ボブが賢者に渡した物は、元賢者からの手紙だった。

賢者が一人になってその手紙を開いてみた。

『お前を待っていたが、未だに現れずにいた。お前の弟子という子供にこれからを託すことにした。お前は不甲斐ない奴だったが、良い弟子を育てたな。よくやった。お前を認めよう。私はこれから、旅立つ。やっと願いが叶ったのでな。この異界の門は暫くしたら閉じるであろう。では、さらば。』

賢者は手紙を抱きしめて、一人で泣いた。

「この国に異界の門は無くなってしまった。騎士達のレベルを上げるのはもう出来なくなってしまったか。もし私にも力があったなら、異界の門を作れたかも知れないのに。残念なことだ。王はこれを知ればがっかりするだろうな。あの異界の門を欲しがっていたからな。だが、小さい物なら私でも作れるかも知れない。これから挑戦してみるのも良いかもしれない。」

賢者の目には新たな目標が出来て輝いて見えた。




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