08:ピンチ!
12日後、オレたちは無事に王都に到着していた。
そして現在・・・・なぜか牢屋の中にいる。
「なんでやねん!?」
この牢屋は王宮の地下牢で、ヒマやエマも同じくつかまり、その辺に転がっている。
しかも全員魔封じの手枷とやらまではめられ、魔法も使えないようだ。
ようするにピンチである。
「ヘルプミイィィィィィィィ!!」
「クマうるさい!」
憤って叫ぶと、ふて寝していたヒマに、叱られてしまった。
しゅん・・・・。
遡ること二日前・・・・オレたちは王都の指定された宿に、到着していたのだ。
オレは案内された豪華な宿で寛ぎながら、あれこれとこれからのことを、エリザベスとアーシアに質問していた。
「国王からの呼び出しはいつぐらいにあるん?」
「たしか・・・到着して一ヶ月後と聞いています」
オレが尋ねると、エリザベスがそう教えてくれた。
「でもゼフリン伯爵が到着するまで、よびだしはないと思うよ?」
そんなことを言いだしたのはアーシアだ。
「それはまたなんでや?」
「クマちゃんの立場が、問題だからかな?」
今回の国王の謁見においてオレたちは、聖獣とその眷属という立場で謁見することになる。
それは国王や貴族から、弱みに付け込まれないようにするためだ。
もしオレがただの従魔で、ヒマやエマがただの冒険者という立場であれば、何か命令された時に、断れなくなる可能性があるからだ。
ところがこの国での聖獣の立場は、宗教上の理由で、現在曖昧になっている。
それは最近【創世神教】とかいう、胡散臭い宗教が、国王や貴族の間で、信仰されはじめたからである。
それまでは【女神教】が信仰され、聖獣はとうとい生き物とされ、国王ですらも、命令できない存在となっていた。
ところが【創世新教】では、人族至上主義を唱え、聖獣はただの珍獣と考えられているのだ。
国王は【創世新教】を信仰しているが、大多数の貴族はいまだに、【女神教】を信仰している。
そんな状況で、オレが国王の前でペラペラと喋れば、ろくなことにはならない。
そこでゼフリン伯爵が、オレの言葉を代弁し、のらりくらりと、この謁見を乗り過ごそうという考えのようだ。
ところがゼフリン伯爵にも用事があり、すぐにはこの王都に来られない。
どうやらゼフリン伯爵が、この王都に到着するのは、6日後になるようだ。
準備もあるために、王宮側もすぐにオレたちを、呼び出すようなことはしないという話だった。
ところがオレたちが宿泊して二日後のことだった。
「国王がお待ちだ! ただちに王宮に来るように!」
宿泊先に数人の騎士が訪ねて来て、オレたちにそう告げたのだ。
「早すぎではないですか!? なぜこんなに早くに!?」
「これは王命である! ただちに王宮に来るがいい!」
有無を言わせぬ状況でオレたちは、王宮に行くことになったのだ。
半ば連行されるような形で・・・・。
王宮は大きく見ごたえのある建物だった。
しかしオレたちには、急に呼び出された不安もあり、ゆっくりとその王宮を眺める余裕はなかった。
王宮に到着すると客間で待たされたが、それも数分のことで、その後、まるで急かされるように謁見の間に向かうことになった。
「お前らが聖獣フォボスとその眷属だな?」
王宮の謁見の間に行くと、太々しい態度の国王が、王座に座り、オレたちを見下ろしながら、そう尋ねて来たのだ。
オレたちは聖獣とその眷属であるという立場上、その場で傅かず、立ったままの謁見だ。
ここで傅くのは、騎士であるエリザベスとアーシアだけである。
「そうですが・・・・。こんなに早くに何の用でしょうか!?」
するとそれに答えたのは、エリザベスだった。
「控えよ! お前には聞いておらん!」
そう国王に言われたエリザベスは、もはや黙るしかなかった。
「我こそがガレーラッツェ王国、デンジャーラ・ガレーラッツェでああある!」
そして国王は立ち上がり、まるでミュージカルさながらの大げさな動きで、そう名を名乗ったのだ。
オレたちはその様子を、ただ茫然と見上げるしかなかった。
「ここに貴様らのアイアンゴーレムを出すがいい!」
そして国王はオレたちに、そんなことを命令してきたのだ。
そのアイアンゴーレムとは、当然ゴリメタルのことであろうと予想できた。
どうやらゴリメタルの情報が、国王の耳に入っていたようだ。
「嫌だといったらどうするんや?」
オレはそんな国王を睨みつつそう尋ねた。
「貴様らのいる床を見るがいい・・・・」
すると国王の近くにいた、魔術師らしき髭面の、背の高いおやじが、オレたちにそう口を開いた。
床を見るとそこには、魔法陣が描かれていた。
魔法陣の端には同じく若い魔術師がおり、4か所に魔法陣を囲むように待機していた。
「そこへ魔力を流せば、貴様らは魔法が使えなくなる。そして周囲を見よ・・・・」
老齢の魔術師が言うままに周囲を見渡すと、すでにこちらに弓を構えた騎士が数人いた。
気付くと周囲にはオレたちを囲むように、騎士が移動しており、すでに逃げ場もない。
どうやらオレたちは、はめられたようだ。
ここで暴れようとする気配を見せれば、魔法を封じられ、左右から弓矢で射られ、その上数の暴力で圧倒されてしまうだろう。
ドドド~ン!
「これがゴリメタルマークワンや・・・・!」
オレは国王に言われるがままに、ゴリメタルを出す他なかった。
カランカラン・・・!
するとその直後、金属音が響き、魔法陣が光を放ち始める。
「エマ・・・!」
見ると金属音の正体は、エマが落としたハルバートの音であった。
エマは自らのハルバートを見下ろしながら、呆然としている。
エマは身体強化により、その巨大なハルバートを、軽々と持ち上げていた。
その身体強化の効果が、魔法を封じられることで切れたのだ。
どうやら魔法陣が起動して、魔法を封じられ、身体強化が使えなくなったようだ。
「うあ! クマ!」
「ちくしょう! ヒマ!」
「クマさま!!」
その後あっという間にオレたちは、地面に転がされ、手枷をはめられてしまう。
「ふははは! そやつらを牢へ連れていけ!!」
国王がそう命じると、騎士はオレたちを担ぎ上げ、連行していった。
「すみませんクマ殿!」
「必ず助けるから!」
最後にそうエリザベスとアーシアの声が聞こえて来て、謁見の間の門が、遠ざかっていくのをただ見守った。
そして今にいたる・・・・。
「ヘルプミイィィィィィィィ!!」
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