01:【プロローグ】~藤田孟
「すみませんクマさん!」
インターホンが鳴り、誰か客が来たのかと扉を開けてみた。
するとそこには、平謝りする、田中がいたのだ。
「なんでやねん!?」
オレはそんな田中に、すかさず突っ込みを入れる。
「えっと・・・連れて来ちゃいました・・・・」
「はあ?」
すると田中はそんな締まりのない、わけのわからない反応を示したのだ。
ふと田中のいる場所の向こうを見ると、見覚えのある男が立っていた。
「すまんな突然・・・・」
そこには髭を生やした年配の、スーツを着た偉そうな人物が、ボディーガードとみられる黒服の男とともに、たたずんでいたのだ。
「藤田孟というものだが、君が佐藤熊太郎くんかね?」
そう・・・・。彼こそが昔熊太郎が勤めていた、会社の会長、藤田孟だったのだ。
「かかかかか会長!? いったいどないなご用事で!?」
熊太郎は会長がここへ来た目的を、よく理解していた。
だが会長がここへ来ると言うイレギュラーな事態に対応できず、動揺していたのだ。
「君は孫娘のユーキの居場所を知っているそうだな?」
そう言いつつ会長がオレに見せたのは、オレが以前ゲームの中の異世界で撮影した、ユーキの写真だった。
つまり田中が藤田会長に写真を見せたところ、藤田会長にオレの居所を問いただされ、答えてしまったということこだろう。
そこで案内する羽目になったということだ。
「ここでは何ですから・・・狭いですが中でそうぞ・・・」
「うむ・・・・。おじゃまさせてもらうよ」
そう言うと藤田会長は、ボディーガードの男を一人外に残して、オレの部屋の中に入ってきた。
田中もすかさず、その後に続いた。
「田中からはどこまでお聞きに?」
オレは藤田会長を部屋の中に案内し、お茶を出すと、すぐさまそう尋ねた。
「ユーキがゲームの世界にいるなどという、ふざけた話までだ・・・」
すると藤田会長は、怖い顔でオレを睨みつつ、そう答えたのだ。
オレが田中の顔を見て確認すると、田中はすぐさま相槌をうち、その内容を肯定する。
確かに大事な孫娘が異世界の、しかもゲームの中にいるなどという話を聞けば、信じられないだろう。
最悪その男と同棲でもして、一緒に暮らしていると思われかねない。
「田中の説明に間違いはありません・・・・」
オレは藤田会長に、腹を据えて説明するための、覚悟を決めた。
「ほう? へたをすればきみたち二人が・・・どうなるかはわかっているな?」
「ひええ~!」「・・・・」
その藤田会長の脅しに、田中は怯えるが、オレは視線を外すことはなかった。
まず取引相手の目を見よ・・・・。
それが藤田会長が勧める、営業の基本だったことを思い出したからだ。
「それでは説明したまえ・・・・」
まるで会議のプレゼンをする前のような、緊張に包まれながら、オレはどう説明したものかと思案する。
そして答えを出した。
「それではそうですね・・・・。貴方しか持ちえない、すぐには複製不可能なものを、ここにお出しください」
「それはなぜだ?」
「その品物を貴方のお孫さんの、ユーキさんが持っている写真をお見せしますよ」
会長しか持ちえない唯一のものを、異世界のユーキが持って写真を撮れば、それがユーキが異世界にいる、証明になると考えたからだ。
それがすぐに複製不可能なものであれば、さらに信憑性は跳ね上がる。
「わかった・・・・。ではこれを使うがいい・・・・」
しばらく思案した末に、藤田会長は懐からある手帳を取り出した。
その手帳の表には【ゆうきたん成長の記録】と書かれていた。
なんや・・・・。これユーキのアルバムやん。
「そうだな・・・・。この部分を見せながら撮影してもらおう・・・・」
それは藤田会長に抱っこされている、満面の笑顔の、幼いユーキの写真だった。
その横には玩具の刀を、真剣に構えるユーキの写真もあった。
これ本人恥ずかしがるやつやないやろか?
もしかしてこれ本人に見せたら、オレ殺されるんちゃうやろな?
「ユ、ユーキさんは美人なので、子供のころも可愛いですねぇ・・・・。でもこの写真見せたら・・・・」
「そうだろ! わかるか君にも!?」
オレがその写真を、本人に見せられない理由を説明しようとすると、藤田会長は妙なスイッチが入ったようで、延々と孫娘の自慢を始めた。
その手帳のようなアルバムをめくりつつ、この部分はどう可愛いとか説明を始めやがった。
「ちょっ! ちょお藤田会長! いったん落ち着きましょ!?」
「何だきみは!? ユーキが可愛くないというのか!?」
オレは埒が明かないので、そんな藤田会長を止めようとする。
すると藤田会長は、そんなオレにご立腹の様子だ。
「ちゃいますがな! 藤田会長はユーキさんを探しに来たんとちゃいますか!?」
「お、おお! そうだった・・・・。それではさっそくユーキがこのアルバムをもった写真を見せてもらおうじゃないか!?」
オレがきちんと説明すると、どうにか藤田会長は、納得してくれた。
だがここでまたアルバムがどうのとか、言おうものなら、ややこしい事態になりかねない。
そう考えたオレは、話を進めることにした。
そしてさっそくアルバムを、アイテムボックスに納めて見せた。
「ぬ!? 今のはマジックか!?」
「安心してください。お孫さんのアルバムは必ず返しますんで、そのままでしばらくお待ちを・・・」
「うむ・・・そうだな・・・・」
ちょいちょい取り乱す藤田会長をなだめつつ、オレはゲームの中にダイブした。
そして修羅場へと、突入するのだった。
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