12:飛行して大空へ
「クマ見て! とり飛んでる! とって食べよう!」
「ヒマちゃ~ん。大人しくせな・・・落ちてまうやろ?」
現在オレたちは、聖獣カロンの背に乗り、上空を飛んでいる。
もちろんカロンは、巨大な白虎の姿だ。
その上にオレを先頭に、ヒマ、エマの順番に乗っているのだ。
それはカロンがオーガの創設中の村に、案内してくれるという話になり、それでは背中に乗せて、飛んで行こうという話になったからだ。
当然その話に、オレ含めヒマもエマも、大喜びした。
空を飛ぶ経験なんて、飛行機ぐらいでしか、したことはないからな。
ヒマとエマに至っては、空を飛ぶ経験なんて、初めてのようだ。
ヒマは空を飛んでいるという出来事に、興奮して大はしゃぎしている。
今も並んで飛んでいる鳥を、捕まえようと、手を伸ばしてとても危険だ。
そんな今にも落ちそうなヒマを、エマがしっかりと後ろから抱きしめている。
「ほら・・・飴ちゃんやるから大人しくしい。どの味がいい?」
オレはチュパで始まる名前の、メジャーな棒付き飴を、ヒマに見せつつ落ち着かせる。
そこには箱の中に、ラズベリー、コーラ、ストロベリー、プリン、ラムネ、グレープ、ストロベリークリームの順に、飴が並んでいるのだ。
「ヒマ、ストロベリー!」
「エマはどれにする?」
「わ、わたくしにも・・・よろしいのですか!?」
『ちょっと・・・。ボクの背中で何か食べないで欲しいんだけど』
そんなオレたちに、カロンが苦情を申し立てはじめる。
「大丈夫や。飴や飴~。落ちるもんちゃうから。口の中に入れて舐めるだけや」
『舐める食べ物なの? いったいどんな食べ物かな?』
どうやらカロンは、飴を知らないようだ。
この辺りでは砂糖が高価なため、飴は出回っていないのかもしれない。
「砂糖を味付けして固めたものや」
『それは砂糖なのかい? 砂糖は魔力回復の効果があるから、ぜひボクも欲しいところだけど・・・』
確か猫は糖分を、消化することが出来なかったはずだが、白虎であるカロンに、飴玉なんて与えてもいいのだろうか?
「えっと・・・。猫は砂糖とかだめとちゃう?」
『心外だな・・・。ボクは聖獣だよ? ボクと普通の猫を一緒にしないでくれるかな』
そう言えばオレもこの子熊ボディーで、色々と食べることができるし、味もわかる。
聖獣は普通の動物とは、違うのかもしれない。
「それじゃあ色々味があるんやけど、カロンは何味がいいんや?」
オレは飴の味の種類をカロンに説明し、どの味がいいか尋ねた。
『ボクはコーラには聞き覚えがあるんだ。ユーキがよく飲みたいと呟いていたからね。どんな味のものか気になっていたんだよ。だからコーラ味を貰おうかな』
ユーキはコーラを飲みたがっていたんだな・・・・。
それで神様が願いを叶え、オレに届けさせたのか?
「いいぜ! ヒマ悪いけどこれ、例のにょろにょろのやつで頼むわ・・・」
「わかった!」
オレはヒマに頼んで、【見えざるにょろにょろの手】で、包を外した飴をカロンの口もとに、運んでもらうことにした。
『へ~・・・。ヒマはこんなことも出来るんだね?』
口元に飴がやってくると、カロンは感心したようにそう言った。
【見えざるにょろにょろの手】は、キノコくらいしかむしれない微妙なスキルだが、地味に便利なスキルでもある。
『あむ・・・・。これがコーラの味かい? 悪くないね・・・・ん? でもこれ・・・』
カロンは飴を口に含み、そう味の感想を述べた。
『ずいぶんとと贅沢な味じゃないかい? これどうしたんだい?』
「コンビニで売っとったで~。ログアウトして買うてきた」
『コンビニ? ログアウト? ボクはフォボスが何を言っているのか、よくわからないよ』
その反応から察するに、やはりカロンはログアウトした後のリアル世界を知らないようだ。
「クマさまはたまにわけのわからないことを言ったりしますからね・・・・」
「え? オレそんなに頻繁に、意味不明なこと言っとる?」
自覚はないが、オレは頻繁に、向こうの言語を使っているらしい。
『もしかしてその言語はユーキの元いた世界の言語知識かい? この不思議な食べ物といい、君は向こうの世界とこっちの世界を、行き来しているんじゃないだろうね?』
「さあ・・・どうやろな? 行き来はしとらんと思うけど・・・・」
そんなオレをカロンは、ジト目で見つめる。
オレ本体の中年のおやじは、向こうの畳部屋にいるので、オレはあちらのリアル世界と、こちらの異世界を行き来しているわけではない。
なので嘘は言っていないはずだ。
ログアウト後にこの子熊が、何処に消えるのかは謎だが・・・・。
「そんで・・・目的のオーガの村にはいつ着くん?」
『街からかなり近い位置にあるよ。ここから飛んで四半刻の場所にある村だからね。ちなみに歩いても、二刻と半刻程度で到着するよ』
要するにその村は、飛行して30分、徒歩5時間の距離にあるらしい。
徒歩5時間で近いという感覚は、どうも現代世界に慣れたオレには理解できない。
オレ的に近くと言うのなら、精々10分くらいまでだ。
『見えて来たよ。あの村だ・・・・』
30分は早いもので、色々と話をしているうちに、あっという間に過ぎ去った。
そしてカロンが言うように、つくりかけの村らしき場所が、徐々に見えてきたのだ。
あれが新しくつくられている、ヒマの故郷である、オーガの村なのだろう。
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