02:聖獣の眷属
「わたくしエマニュエル・ヘスティア・ヴァルキュリアは、貴方さまの盾となり、剣となるためにはせ参じました! どうかわたくしめを、貴方さまの眷属にしてください!」
エマはそう言うと、オレの前に膝をつき、まるで騎士のような礼をした。
現在オレはヒマとともに、大商人のサロモンの馬車に乗り込み、エオセーヌ領にあるパルォダルの街を目指していたのだ。
その目的はユーキと名乗る冒険者に会うためだ。
それはオレに最初に与えられたクエストが、勇者ユーキにコーラを渡すことだからだ。
そんな旅の中オークの群れに囲まれ、その乱戦の中現れたのが、目の前のエマだったのだ。
まあオークはとっくに全滅して、あちこちに屍を晒しているがな。
オレはエマの名前の中にある、ヴァルキュリアの名前に見覚えがあった。
それはステータスの眷属の欄にある推奨眷属、【ヴァルキリア一族】という名前と一致しているのだ。
おそらくエマはその【ヴァルキュリア一族】なのだろう。
【ヴァルキュリア一族】は文字だけの設定的な何かだと思っていたが、実際に存在していたようだ。
だとしたらオレはヒマとの眷属契約を切り、エマと眷属契約を結び直す必要があるのだろうか?
ヒマとの眷属契約は、安全なチュートリアルフィールドに入るためのものだったし、ここでヒマとの眷属契約を切ったとしても、困ることなどあるのだろうか?
念のためにオレより眷属に詳しい、【ヴァルキュリア一族】であろうエマに、確認してみるのがいいだろう。
「エマよう・・・・。一つ聞きたいんだが・・・・?」
「何でしょうかフォボスさま?」
「例えばだが・・・・聖獣が眷属契約を切った場合どんなリスクが生まれるんだ?」
オレがそうエマに質問すると、エマは少し考えるような仕草をした後に口を開いた。
「前例がありますが・・・・そうなった眷属は二度と眷属にはなれず、仕えた聖獣の記憶も失うそうです・・・・」
「なんやと!?」
オレはエマのその言葉を聞いて、強い衝撃を受けてしまった。
なんということだろうか?
そうなるとオレが間違ってヒマの眷属契約を切ったら、ヒマがオレのことを忘れてしまうことになる。
そんなのは嫌だ。ぜったいに耐えられそうにない・・・・。
あのヒマがオレののことを忘れるなんて絶対に嫌だ!
仕方ないがここは、エマにはっきりとオレの気持ちを、話すほかあるまい・・・・。
「悪いエマ! 眷属は諦めてくれ!」
オレはいまだに騎士の礼をとって、格好付けているエマに、頭を下げつつそう告げた。
「ごめんなさい!貴女とは付き合えません!」とかそういう感じだ。
「はあああ!? 何でですか!? わたくしに至らぬ点が・・・!?」
するとエマは慌てふためき、オレにそう詰めかけてくる。
「えっとなエマ・・・・」
「はい! 何でしょうフォボスさま!?」
「オレの眷属はもうおんねん!」
「はあああああ!?」
オレがそう告げると、エマは顎が外れんばかりに、大きな口を開けて声を上げる。
そして絶望的な表情となる。
「そこにいるヒマがそうだ!」
そしてオレは、すでにゴリメタルマークワンを降り、オレの横にいるヒマを指し示しつつそう言った。
「こんちゃ!」
するとヒマはエマに、元気よく挨拶をした。
「ではわたくしは二番目の眷属と言うことに・・・?」
「いや・・・・悪い・・・・。その二番目は無理なんだ。なぜならオレは眷属を一人しか持てないからな」
残念だが未熟なオレの眷属欄には、一つしか名前が入る欄がないのだ。
もちろんその欄には【ヒマーリャン】と既に書き込まれている。
「そ、そんな・・・・。そ・・・それではわたくしのこれまでの苦労は・・・・いったい何だったのでしょう?」
そう言ってエマは、地面にへたり込んでしまう。
それはもうこの世の終わりのような表情だ。
「まあオレなんかの眷属に拘らなくていいんじゃないか? まだ若いんだし、その強さなら冒険者で頂点狙えるんじゃねえか!? 人生たまには方向転換も必要だぜ!」
オレは励ますように、そうエマを諭してみた。
「駄目ですよそれじゃあ・・・・。里のいい笑いものになってしまいます・・・・。今までに一人しかいないんですよ? そんな恥晒しなヴァルキュリアは?」
一人いたんだ・・・・。
「これじゃあ納得いきません! そこのヒマとわたくし・・・・! どちらが真に、聖獣フォボスさまの眷属に相応しいか、勝負してください!」
そしてエマは突然起き上がったと思うと、憤慨しながら、そんなことを要求してきた。
「あのなあエマ・・・・。なんでヒマがオレの眷属になれたと思う?」
そんなエマにオレは、静かにそう問うた。
「さあ・・・・。強いからでしょうか?」
「はあ・・・・。なんでもかんでも自分の物差しで測ろうとするなよ?」
オレはヒマが強いから眷属にしたわけではない。
確かに知らないで、たまたま眷属にしたかもしれない。
だが今・・・・エマかヒマかと聞かれれば、オレは間違いなくヒマを選ぶだろう。
「フォボスさまは何がおっしゃりたいのでしょうか!? わたくしに何か足りないところがあるとでも言うのでしょうか!?」
オレのその言葉に、エマはさらに憤慨して、そうまくし立ててくる。
「ああ足りねえな・・・・」
「いったい何がでしょうか!?」
「それは可愛さだ・・・・」
オレは静かに目を閉じ、エマにそう答えたのだ。
「は、はあ・・・・? 可愛さ?」
するとエマは呆れたような、困惑したような表情で、そう口にした。
オレはヒマを実の娘のように、可愛いと思っている。
もうそれは目に入れても、痛くないと言ってもいい。
「可愛いは正義や!」
「可愛いは・・・正義?」
オレはもう・・・・ヒマにメロメロさ・・・・。
そんなヒマにエマが勝てる要素は、これっぽっちもない!
例え勝負してエマが勝ったとしても、ヒマに軍配が上がる!
それが可愛さというものだ!
ヒマの可愛さには、勝てないことを悟ったのだろう。
エマはorzのポーズとなって、戦意を喪失した。
「これからは自分の人生を歩み? な? 人生まだまだ長いんやから・・・・」
オレはそんなエマの肩に手を置き、そう諭すように言った。
「ほなさいなら・・・・! ヒマ行くで!」
「あい!」
そして出発寸前の、馬車に乗り込もうとするオレとヒマ・・・・
ガシ!
「そんなので納得するわけないでしょう! わたくしは諦めませんよ! 地の底まで貴方たちに付いて行きます!」
するとエマはオレの肩を掴み、そんなことを宣言した。
それはもう怖い顔で・・・・。
そういうとこやエマ!!
「それとわたくしはヒマがFランク冒険者であることをつかんでいます。わたくしはこれでもBランク冒険者ですよ? 色々と貴方たちに教えて差し上げられます!」
そしてエマは得意げにそう言った。
「え? エマお前Bランク冒険者だったの?」
確かCランク以上の冒険者の協力があれば、あの依頼を受けられるはず。
あの聖獣アマルテアの手がかりになりそうなあの依頼が・・・・。
なんというタイミングの悪い娘だろうか?
もっと早くに現れてくれれば、今頃あの依頼を受けられていたというのに・・・・。
「はあ~・・・・」
「何ですかフォボスさま!?」
オレは余りの残念さに、エマの顔を見つめながらため息をついた。
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