02:チュートリアルフィールド
「はいは~い! 私たちはこの異世界に、召喚された聖獣を導く妖精だよ!」
「チュートリアルフィールドにようこそ!」
「ようこそ!」
オレが広大な平原で立ち尽くしていると、数匹の光る虫みたいな生き物が、草むらから飛び出してきた。
どうやらそれは、異世界では定番の、妖精というファンシーな生き物のようだ。
そしてここはチュートリアルフィールドなのだという。
チュートリアルフィールドとは、ゲームの初心者が基礎的な知識や、操作方法などを学ぶ場所のはずだ。
ならば今オレの聞きたいことを、妖精たちが答えてくれるはずだ。
「私の名前はルビーだよ!」
「私はアクアマリン!」
「ボクはアメジストだよ!」
そして妖精は自己紹介をしてきた。
どうやら妖精たちは、それぞれ宝石にちなんだ名前のようだ。
赤い妖精はルビー。
青い妖精はアクアマリン。
紫色の妖精がアメジストだ。
「オレは熊太郎や! よろしくな!」
オレもとりあえず元気に自己紹介しておく。
このキャラクターの名前、フォボスはオレの柄じゃない。
どうせなら会社と同じ様に、クマとよばれたいものだ。
その方がオレにはしっくりとくる。
「よろしくねクマ! 何でも聞きたいことがあったら聞いて~!」
「クマよろしく!」
「何でも聞くのだクマ!」
いきなり呼び捨てか・・・・なんか気安いなこいつら・・・・。
だがずいぶんとよくできたAIだ。
その妖精たちの動きは、とても作り物とは思えない程自然だった。
今までプレイしたゲームで、これほどリアルなものが、果たしてあっただろうか?
オレは感心しながら、その妖精たちを見た。
まあ今はそれはいいか・・・・。
オレはログアウトの方法を知りたいのだ。
「ログアウトできひん! このゲームどうやってログアウトするん!?」
オレは涙目でそう妖精たちに訴えかけ、尋ねた。
「え~! 始めたばかりなのにもうログアウトするの!?」
「ログアウト早くない!?」
「クマ、ヘタレ!」
「ヘタレちゃうわ!」
すると妖精たちにがっかりされ呆れられた。
確かにゲームを始めた直後に、ログアウトするのは早いかもしれない。
だがオレはログアウトできずに、不安にかられているのだ。
「そんなんええから、早よ、ログアウトの方法教えて!」
オレはさらに口調を強くして妖精たちに尋ねる。
「それじゃあ右手にあるスマホを使いなよ」
「そうそうスマホ!」
「スマホを使うの!」
「はあ? スマホ?」
オレは懐疑的な気持ちで、自らの右手を見た。
「うお! スマホおおおおお!」
するとオレの右手には、いつのまにかスマホが握られていたのだ。
しかもそれはどこからどう見ても、見慣れたオレのスマホだ。
よくもまあここまでオレのスマホを、再現できたものだと感心する。
スマホケースに出来た割れ目までもが、完全に再現されている。
ちょっと引く・・・・。
「ステータス画面・・・?」
そこには二足歩行の子熊の、3D画像が描かれており、なぜかちょい悪顔だった。
名前 フォボス
年齢 0歳
種族 熊の聖獣
HP 32
MP 445
STR 2 (標準男性の数値 11)
AGL 52 (標準男性の数値 8)
MAG 89 (標準男性の数値 6)
スキル
土魔法 : 【操土】【ストーンバレット】
「なんか貧弱やな・・・。クリエイト魔法専門やからしゃあないか・・・」
そこにオレのステータスが表示されていた。
そしてその右にはいくつか項目があった。
サーチ、アイテム、装備、魔法、クエスト、の順番に項目があり・・・・・その一番下に、なんとログアウトがあったのだ。
「ログアウト!!!」
オレはすぐさまログアウトの文字をタップした。
「またね~クマ!」
「ばいば~クマ!」
「さらばクマ!」
そんな妖精たちの別れの挨拶を聞きつつ、オレの視界は白く染まり、何かに吸い込まれる感覚がしてくる。
「ぶふぁああああ!!」
そして目の前には飲みかけの、ペットボトルのお茶とポテチが座卓の上に、それから見慣れた畳部屋・・・・。
オレはいつの間にか、オレの自宅の元の部屋に帰って来ていたのだ。
しかも大声だしちゃって、少し恥ずかしくなってくる。
「何このゲーム!?」
オレは再びスマホに目をやり、聖獣の伝説の画面を見る。
そこには先ほどと同じ様に、ステータス画面が出ており、左側には二足歩行の子熊の絵がある。
先ほどまでログアウトの文字があった場所には、今はログインと書かれていた。
「これをタップしたら・・・・またさっきのゲームの中に・・・・?」
オレは怖いもの見たさで、そのログインの文字を、徐にタップした。
すると再び目の前が白く染まり始め・・・・。
「おうっふ!!?」
再びオレは広大な平原の真ん中に、立ち尽くしていたのだ。
「帰ってきたねクマ!」
「「クマお帰り!」」
妖精たちは再び現れると、出迎えの挨拶をしつつ、オレの回りをぐるぐると飛び回り始めた。
何処までも続く広大な平原、照りつける太陽、時々頬を撫でる冷たい風。
今オレは畳部屋でスマホを、見ているはずだ。
そのオレがまるで本当に平原にいるかのような、リアルな体験をしているのだ。
本当に不思議なゲームだ。
ここまでの体感を、あのスマホでどうやって、再現しているというのだろうか?
「おらああああ!!」
「どこ行くのクマ?」
「暴走?」「混乱?」
その解放感からか、無事にログアウト出来るという安心感からか、オレは縦横無尽に、平原を走り回る。
体が軽い!
その走る速さは、まるでバイクにでも乗っているような速度だ。
飛び跳ねれば、とんでもない高さまで飛び跳ねられる。
まるで忍者にでもなった気分だ。
それにこれほど走っているというのに、ほとんど疲れる様子もない。
妖精3人も飛び回りながら、その後についてくる。
「キノコ発見!」
そして足元に見覚えのない、白いキノコを発見する。
その見た目はマッシュルームに近いが、あれよりかなり大きい。
そしてほのかに緑色のオーラを、放出しているように見える。
「何やろ? 不思議なキノコやな?」
オレは屈みこみ、その不思議なキノコを見つめる。
「手元のスマホでサーチしてみて! 確認できるよ!」
「サーチで確認できるよ!」
「サーチで入手もできる!」
サーチ・・・・? なんのことだ?
そう思いつつ、再び握られていたスマホを見る。
どうやらこのスマホ、意識すると右手に現れるようだ。
そしてステータス画面の右側の項目から、サーチを見つけてタップしてみる。
するとスマホは、カメラモードのような画面になる。
その画面で白いキノコを覗き込むと、なんと白いキノコの詳細が表示された。
「ほう? 回復ダケか! 癒しの効果があるキノコやな!」
その画面の下には手のマークがあり、そこにゲットという文字が書かれていた。
もしかしたらこのアイコンをタップすることで、アイテムが入手できるのかもしれない。
「ゲットをタップと・・・・」
オレはさっそくそのアイコンをタップしてみた。
『回復ダケを入手しました!』
「おおお! 入手できたで!」
すると回復ダケを入手することができた。
「入手するとアイテムボックスの中に移動するんやな」
サーチを解除して、アイテムの項目を選択すると、アイテムボックスを確認できるようだ。
先ほど入手した回復ダケは、アイテムボックスの中に、所持数とともにアイコンとして描かれていた。
ブウゥゥゥゥン・・・・
「なんやあのでかいトンボは!?」
羽音がする方をみると、頭上に30cmくらいの大きさの、巨大なトンボが飛んでいるのを発見したのだ。
まるで古代の図鑑に出て来そうなトンボだ。
さっそくサーチで情報を確認する。
「ドラゴンフライか・・・。まんまやな。やっぱり生き物は入手できないんだな」
珍しいトンボなので、入手しようとしたが、どうやら生き物は入手できないようだ。
ブブ~ン!!
「なんや!? 向かってくるんか!?」
するとドラゴンフライは、オレに向けて突撃をかましてきやがった。
「えいや!」
ドカ! バラバラ~・・・・
しかしドラゴンフライはもろいようで、少しオレが小突くと、バラバラになって、地面に散らばってしまった。
「あ・・・今度は入手できた・・・・」
試しにドラゴンフライの死体を入手しようとしてみる。
するとドラゴンフライの死体が、アイテムボックスに入った。
どうやら生き物の死骸であれば、アイテムボックスに入れられるようだ。
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