01:《プロローグ》~奇妙なゲーム
オレは佐藤熊太郎、会社員だ。
会社ではおもに事務職を務めている。
まあオレの会社の場合、事務職は何でも屋とそう変わりないがな。
ある時は人数不足を補うために、違う部署に派遣され。
営業でもないのに、営業をやらされることもある。
「クマちゃんお疲れ!」「クマさんまたよろしく!」
「ああ。また何かあれば気軽によんでくれ」
だがそのためか、会社では顔も広く、それなりに人気者だ。
ところがいまだに独り身で、今のところ浮いた話の一つもないのが現状だ。
まあそれでも、あまり寂しいことはない。
仕事がない時でも、ラノベとスマホゲームさえあれば、大概退屈しない毎日を送れる。
今日も20時過ぎに退社し、地下鉄で自宅のマンションを目指すのだ。
地下鉄ではいつも手持無沙汰になるので、スマホゲームで時間をつぶす。
だが最近このゲームも飽きて来たな。
そんな時ある新作ゲームの、広告を見たのだ。
「聖獣の伝説?」
聖獣の伝説は文字通り、聖獣となり、聖獣として語り継がれる伝説をつくっていく体感RPGのようだ。
「体感RPGか・・・・。面白そうやないけ?」
オレはなぜかそのゲームに強く引かれた。
さっそくそのゲームを、スマホにインストールすることにする。
体感RPGとは、3Dで描かれた、リアルなRPGである場合が多い。
いつものゲームのように、しばらく遊べば飽きるだろうが、退屈しのぎには丁度いいだろう。
『まもなくA坂。降り口は左側です。開くドア、足元に・・・・・』
「ああ・・・もう着いたんか・・・」
結局ゲームのインストールが、完了することなく、駅に到着してしまった。
なので聖獣の伝説は、自宅に帰宅した後に、ゆっくりとプレイすることにする。
帰りにコンビニに立ち寄ると、いつもののり弁とお茶、ポテチとビールを購入して、自宅であるマンションの一室に帰宅した。
シャワーを浴びて汗を流し、晩飯ののり弁を食べ終わったら、さっそくゲームのインストール状況を確認する。
「お! もういけるやん!」
すると聖獣の伝説のインストールは完了していた。
レトロなドット絵で描かれた題名に、リアルなフィールドの背景が、このゲームのタイトル画面だ。
「本当にリアルやな。ほんもんの風景みたいや」
スタートをタップすると、さっそくキャラクター選択画面が出てきた。
このゲームで選択できる主人公は、ランダムで変更されるらしい。
そして今回選択できるのが、以下のキャラクターだった。
イアペタス
エウロパ
フォボス
「イアペタスは虫か~。しかもスカラベとか・・・・。聖獣なのにいきなり獣でもないキャラきたでぇ。ないわ~・・・・ちょっとないわ~」
オレはそうつっこみながらも、イアペタスについての詳細を見ていく。
イアペタスはリアルなタイトル画面と、打って変わってレトロなドット絵で、まるでコガネムシみたいに描かれている。
こいつは土魔法が得意で、その土魔法がクリエイト系の魔法なのだそうだ。
つまり何か作るのが得意なキャラだな。
個人的にクリエイト系の魔法は好みだが、虫はあまり好きじゃない。
「エウロパは羊か~。絵は可愛いけど趣味じゃないな・・・」
エウロパは聖魔法とよばれる、癒し系の魔法が得意のようだ。
つまり僧侶系なわけだな。
だが趣味じゃないので却下だ。
「最後にフォボスと・・・・」
フォボスは熊の聖獣で、火魔法が得意なようだ。
怪力で体力があり、戦闘面では申し分がないとか・・・・。
「う~ん。火の魔法は強そうだけど、他の魔法は選べんのかいな?」
オレは戦闘系の魔法よりは、クリエイト系の魔法が好きだ。
なので魔法で選ぶならクリエイト系の魔法だ。
「お! 出来るやん!」
するとフォボスの魔法が、火魔法以外にも選択可能なのがわかった。
勿論オレが選んだのは、クリエイト系の土魔法だ。
『土魔法はイアペタスが得意な魔法です。フォボスが土魔法を習得すると、何か弊害が発生する可能性があります。それでもフォボスに土魔法を習得させますか? それともイアペタスに選択しなおしますか?』
するとそう警告文が出てきた。
「このゲームえらいイアペタス推してくるな・・・・だが断る!」
オレは迷いなく土魔法でフォボスを選択した。
「キャラができたで~! ゲームスタートや!」
そして右下に現れた、ゲーム開始をタップしたのだ。
「え??」
すると急に目の前が白くなり始め、何かに吸い込まれるような感覚がした。
そしてオレは、そのまま意識を・・・・
「はあ!?」
気づくとオレは、見知らぬ平原に立ち尽くしていた。
「まさかこれ・・・・聖獣の伝説のゲームの中なのか!?」
そこは見渡す限り、どこまでも平原が広がるフィールドだった。
まるでテレビで見た、アフリカのサバンナの平原のような風景だ。
「リアルすぎんだろ! いったいどういう技術だ!? もうこれ仮想現実VRゲームだろ!」
これまで数々のゲームをプレイしてきたが、ここまでリアルなゲームは体験したこともない。
しかも、まるでアニメで見た、未来の仮想現実VRゲームのようではないか。
スマホでいったいどうやって、ここまでの仮想現実を、実現しているというのだろうか?
「これは・・・・熊の手だな・・・・」
自らの両手を見ると、それはオレが選択した、熊という生き物の手であることがわかった。
動かして裏表見て見るが、かなりリアルに再現されている。
次にお腹や足元に視界を移す。
すると確かにそれは毛むくじゃらな、熊のものだった。
「頭でか・・・・子熊やな」
頭を触って見ると、その頭は大きく、体とのバランスが悪い。
どうやらオレはこのゲームの中に、子熊の聖獣フォボスとして、入り込んでしまったようだ。
そしてふとあることに思い当たる。
「でもこのゲーム・・・・どうやってログアウトするんだ?」
普通こういうリアルなゲームの場合、どこかにログアウトのような表示があり、それをタップすることで、ゲームを終了することができるはずなのだ。
だがこのゲームにはログアウトのような表示もなければ、ステータス画面らしきものもない。
そよそよと吹く風が頬を撫で、それがまるで現実であるように、オレに訴えかける。
それがより一層、オレの不安を駆り立てた。
オレはただその広い平原に、無言で立ち尽くすしかなかった。
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