96ー大人な王子
俺は王子に聞いてみた。大切なことだから、教えて貰えるか分からないけど。
「れんか」
「うん、ラウ、何かな?」
「れんかのじょぶは、わかっているのれしゅか?」
「難しいことを知っているね。僕はもう『鑑定の儀』を受けたから分かっているよ」
「しょうれしゅか」
でも、これ以上聞くべきかどうか迷ったんだ。だって、聞かなくても知っている。それを王子自身がどう思っているのかを知りたいんだ。
「僕は『英雄』だったんだ」
あれれ、思っていたより随分あっさりと教えてくれた。しかも平然としている。
王子はティーカップを静かにプレートに戻して俺に言った。
俺と王女はジュースだよ。なのに王子はお茶だ。それに、まだ6歳なのにこの所作だ。6歳だけど、歴とした王子なんだ。
「早く父上をお支えしたいと思っているんだ」
ほう、王子が言うことや考えはまるで大人だ。
憂いのある表情までする。こうなるまでに、王子は悩んだりしたのだろうか?
王を支えると言った。だけど、いずれは王子は王位を継ぐんだ。
「僕は、父上ほどの洞察力をもっていない」
おいおい、6歳の子供が洞察力だって。そんな言葉、俺は分からないフリをしないといけないじゃないか。だって俺はまだ3歳のちびっ子だから。
「れんか、もうしゅこし、やしゃしくおしえてくらしゃい」
「ああ、ラウ。ごめんね。ふふふ、ラウなら理解できるかと思ったんだ」
なんでだよ、それは買いかぶり過ぎだ。王子は俺を、一体どんなちびっ子だと思っているんだ。
「いつも叔父上が自慢しておられるよ。ラウは天才だってね。ふふふ」
父か! 根源は父なのか!? どこで誰に自慢をしてるんだ。
せめて城の中では、誰にでも『氷霧公爵』の仮面を被っていてほしい。
「とうしゃまは、おおげしゃなのれしゅ」
「アハハハ、そうかなぁ」
「ぴよ」
なんだよ、ミミ。だから念話が使えると言ったじゃないか。
『しょうらったみゃ。もっと、ももじゅーしゅがほしいみゃ』
駄目だぞ。飲み過ぎたらお腹が痛くなるぞ。
『みゃみゃ!? ももじゅーしゅれも、いたくなるみゃ?』
飲み過ぎたらな。ちょっと大人しくしていてくれよ。
『みゃみゃ? しょうみゃ? みみは、やくにたつみゃ?』
今のところ、間に合っている。
『らうみぃ。ちゅめたいみゃ』
はいはい、それよりも王子だ。
俺が相手をしないし、桃ジュースももらえないと分かったからか、ミミは俺の肩に乗ってきた。
いつもの定位置だ。そこで大人しくしていてくれ。
「みみちゃん、かわいいわね~」
おっと、王女がミミに手を出した。ミミ、突くんじゃないぞ。知らん顔しているんだぞ。
『みゃみゃみゃ!? ミミをしゃわろうなんて、なんてにんげんみゃ!』
いやいや、ミミは今鳥さんだからな。
『みみは、しぇいれいみゃ!』
だからぁ、今は鳥さんになっているのだろう?
『みゃみゃ! わしゅれてたみゃ。みみはとりしゃん。みみはとりしゃん」
自分に言い聞かせている。な、そんなところが不安なんだ。リンリンなら絶対に忘れたりしないぞ。
『みゃ! りんりんより、みみのほうがてんしゃいみゃ!』
「ぴよ!」
一応、鳥さんみたいに鳴いて、ミミが俺の頭を突き出した。痛いからやめろ。
「あら? とりしゃんはなにをしているの?」
「もっと、ももじゅーしゅがほしいんら」
「まあ、しょうなのねー。もっとのむ?」
「らめらよ。おなかをこわしちゃうから」
「しょうなの!? とりしゃんなのに?」
「アハハハ! ラウは楽しいね!」
何故か王子に爆笑されてしまった。だけど、こうして笑っていると年相応になる。こんな時間も必要だろう? だってまだ子供なんだから。
ずっと気を張り詰めていたら、もたないぞ。
「ラウ、これからは時々こうして来てほしい」
「え、けろ……」
「叔父上には僕からお願いしておくよ」
「とうしゃまがいいといったら、いいれしゅ」
「そう? ラウは嫌じゃない?」
「あい、いやじゃないれしゅ」
「そうか。ならお願いしよう」
嬉しそうにしてくれる。俺が来ることで気晴らしになるなら、喜んで来るぞ。
「りーぬも、またらうと、あいたいれちゅ」
「そうだね、リーヌもまた一緒にお散歩しよう」
「あい! おにいちゃま、やくしょくれちゅ」
「アハハハ、ああ。約束だ」
可愛い兄と妹じゃないか。兄妹の触れ合いも少なかったのかも知れない。
これから多くなると良いな。このまま歪まずに、育ってくれたら良いのだけど。
「殿下、ラウがご迷惑をお掛けしていませんか?」
王と父がやってきた。あれ? 母は? もしかして王妃とまだ一緒なのかな? きっとそうなのだろう。女同士ってとこか?
「叔父上、迷惑なんてとんでもないです。父上、リーヌとラウとまた会っても良いですか?」
「ルシアン、勿論だ。君達は従弟なのだから」
「陛下、しかし……」
「だから、ライ。兄上だ」
「それは……」
父が困っているぞ。こんな父も珍しい。家にいる時みたいな甘々な父ではないし、一応周りの眼もあるからと思っているのだろう。
「とうしゃま、またきてもいいれしゅか?」
「ラウ、そうなのか?」
「あい」
「そうだな……殿下、そう頻繁には連れて来られませんが。それでもよろしいですか?」
「ええ、もちろんです。叔父上、ありがとうございます」
俺が緩衝材になるなら、それもいいさ。と、この時は思ったんだ。