95ー早計か?
「ラウのその肩の鳥さんは、いつもそこにいるのか?」
「あい、いちゅもとまってましゅ」
「鳥さんが?」
「あい。いちゅもいっしょれしゅ」
「ふふふ、仲良しなんだね」
「あい。みみれしゅ」
「え? 名前があるの?」
「あい」
「みみちゃんっていうの?」
「しょうらよ、みみ。かわいいれしょう?」
「とってもかわいいわ!」
ミミが、キョトンとしている。良い感じだ。そのまま分からないフリをしているんだぞ。今日のミミは鳥さんだ。鳥さんに成り切るんだ!
「ぴよよ」
「まあ! 鳴いたわ」
「本当だ、鳴いたね」
ああ、俺はとっても不安だ。ミミがボロを出さないと良いのだけど。
庭園の中央辺りにある四阿で、俺達はジュースとオヤツをいただいた。
アフタヌーンティーのケーキスタンドには、サンドイッチ、スコーン、ケーキがのっている。子供でも食べやすいように小さめにしてくれている。
こんなの前世の雑誌とかでしか見たことがないぞ。うちにもあるのか? あるのだろうな、きっと。
「おにいちゃま、けーきれちゅ!」
「ああ、リーヌはどれが食べたいかな?」
「りーぬは、いちごのけーきがいいれちゅ」
「そうか、リーヌは苺が好きなんだね」
「あい! とってもしゅきれちゅ」
王子がメイドに合図をしてくれている。ケーキ皿に取り分けられた、小さな苺のショートケーキが王女の前に出された。
「まあ! かわいいれちゅ!」
「美味しそうだね。リーヌ、食べられる?」
「あい、おにいちゃま。りーぬは、れでぃーなのれちゅよ」
アハハハ、小さなレディーだ。
ちびっ子の手には大きいフォークを持って、ケーキを食べようとする。が、その直前で止まった。表情が引きつっている。どうした?
「リーヌ、どうしたんだ? 食べないの?」
「れも、おにいちゃま。しかられまちぇんか? おかあしゃまに、しかられまちゅ……」
そう言って悲しそうな顔をした。食べる寸前に何か思い出したのだろう。
いかんな、いかん。側にいないのに、見ていないのに、それでも母に叱られると思うんだ。これって、それだけ普段から叱られているってことだろう? いかんよ。
このまま育ったらどうなるんだ? 歪んでしまわないか? 自分の気持ちを抑えて殺して、王妃に叱られないようにと気をつけて。そんなことをしていたら真面な大人にならないぞ。
ああ、だから前の時にああなったのか? いや、そう決めつけるのはまだ早計か?
「リーヌ、食べて良いんだよ。母上が叱ったら、僕が母上を叱ってあげるよ」
「おにいちゃま、ほんとう?」
「ああ、お食べ」
「あい!」
王子のこの言葉に俺は引っ掛かったんだ。『僕が母上を叱ってあげる』
王子はもう母が間違っていると思っているのではないか? と思ったんだ。
「ラウはどれがいい?」
「ぼくもケーキがいいれしゅ」
「色々あるよ」
「えっとぉ……」
なんでも良いんだけどさ、食べやすいのがいいな。あんまり甘ったるいのは嫌だし。
「しょの、ちーじゅけーきがいいれしゅ」
「ラウは甘いのが苦手なのかな?」
え? チーズケーキを選んだだけだぞ?
「しょんなことないれしゅ」
「そう? 一番プレーンなのを選んだからさ」
へえ、よく見ているんだ。まだ6歳なのに。俺より大人じゃないか。
「ぴよ」
「みみは、らめらよ」
「ぴよよ」
「らから、みみはたべられないれしょ」
「ぴよ?」
本当に、こんな時でも食いしん坊なミミだ。見ていて食べたくなったのだろう。
だからリンリンにあれだけ言われているのに、もう忘れたのか? 食べたらお腹が痛くなるぞ。
「ぴよぉ……」
「ね、らめ」
おう、思い出したか。でも桃ジュースがあったら貰ってやるよ。
「ぴよ!」
お、嬉しそうだ。てか、ミミ。俺とミミだと念話が使えたはずなんだけど。
『しょうらったみゃ! わしゅれてたみゃ!』
ほら、とっても不安なミミだ。
「しゅみましぇん、ももじゅーしゅはありましぇんか?」
と、メイドさんに聞いてみる。
「ございますよ、お持ちしましょうか?」
「しゅこしらけ、おしゃらにいれてくらしゃい」
えっと、分かったかな?
「ラウ、お皿になのか?」
「あい、みみがももじゅーしゅが、しゅきなのれしゅ」
「まあ! みみちゃんが!?」
「鳥さんが桃ジュースなの?」
「あい。ももじゅーしゅしか、のみましぇん」
「へえ~」
ほら、メイドさんが小皿に桃ジュースを入れてくれたぞ。
「ぴよ!」
俺の肩からパタパタと飛んで、テーブルに下りたミミは桃ジュースを突き出した。
「かわいいわねー!」
「アハハハ! そうして飲むんだ」
「あい」
ピヨピヨと小さな声で鳴きながら、桃ジュースを夢中になって飲むミミ。迫真の演技だ。
王子と王女がミミを見て笑っている。俺達を世話してくれているメイドさんまで笑顔だ。
こうしていると、とっても平和だ。未来に起こるかも知れないことが、有り得ないことの様に思えてくる。
あんなことを起こさせないように、俺が阻止するつもりだけど。
でも、今の王女を見ているとそうは見えない。
それでも今回は下位の占術師のジョブになった王女。
それが5歳の『鑑定の儀』の時に発覚して、それを王女自身がどう受け止め、王妃はどう接するかだ。
王子はもう6歳だから『鑑定の儀』は終えているのだろう。