94ー三人で
「ラウ、外に行かないか? 中庭の庭園を案内しよう」
「えっちょぉ……」
「ラウ、ご一緒しなさい」
「あい、とうしゃま」
ヒョイと椅子から下りる。
「リーヌもおいで。兄様と一緒にお散歩しよう」
「あい! おにいちゃま!」
兄妹仲は悪くないみたいだな。
「りーぬ、おててちゅなごう」
「ええ、らう」
おっと、ちょっぴり可愛いと思ってしまった。小さなふよふよした手だ。女の子って手も柔らかい。少し力加減を間違えたら、壊してしまいそうだ。
この歳の王女には罪はない。将来、あんなことを起こさなかったら良いんだ。起こさせないようにするつもりだけど。
王子に連れられて中庭に出る。しっかりと丁寧に手入れされた庭園があって、奥には四阿が見える。
ちょうど、庭園を一番良い角度で眺められるように作られている。庭園に植えられた花もそうだ。
城を訪れた人達から綺麗に見えるように、四阿から全体を眺められるようにと植えられている。これは庭師は大変だ。
広いし、人の目線も意識しないといけない。と、いっても一応俺の家の庭師も、そうして庭を作ってくれている。
だから母は四阿から見る庭が、とってもお気に入りだ。
少しピリつく雰囲気の部屋から外に出できて、やっとちゃんと息ができたような気がしてしまう。
それほど王妃がいると、その場の空気がピリピリとする。
「ラウ、緊張しただろう?」
「あい、しゅこししました」
「母上があんな感じだから」
もしかして、王子に対してもいつもあんな感じなのか?
「母上は何に拘っているのかと、僕は思うんだ。ラウや叔父上や叔母上とは親戚なのにね」
「あい」
「初めてラウと会った時にオルゴールをいただいただろう?」
そうだった、母がオルゴールを持ってきていたんだ。蓋をあけて音楽を流すと気分が軽くなる効果があると聞いた。
「あれもね、リーヌが生まれたら触らなくなっちゃって」
あれ? もしかして王子はあのオルゴールの効果に気付いていたのか? なんだかそんな感じの言い方だよな。
「叔父上と叔母上には感謝しているんだ。でないと僕は、もっと縮こまっていたと思う」
やっぱりそうだ。気付いていたんだ。なんて聡明なんだ。それに、6歳でこんな話ができるなんて。
俺って前世の6歳の時って何してただろう? 前世だけじゃない、前の時だってそうだ。6歳なんてまだまだ遊びたい盛りじゃないか。
「れんかは、いまもれしゅか?」
「ん? 何かな?」
「いまも、ちゅらいれしゅか?」
「ふふふ、ラウはまだ3歳なのに本当にお利口だ。僕はもう慣れちゃったから大丈夫だよ」
「えぇー……」
慣れたといってもまだ6歳じゃないか。両親に甘えたい時だってあるだろう? 母親になんて特にそうじゃないか?
「れんかもまら、ころもれしゅ」
「ラウ」
「れんからって、ころもれしゅ」
「ラウ……ありがとう。大丈夫だよ」
儚げな笑顔を見せる王子。俺と手を繋いでいる王女はご機嫌でニコニコしている。まだ話が分からないのだろう。
一緒に手を繋いで外に出るというだけで、こんなに嬉しそうにしている。
「れんかもてを、ちゅなぎましょう」
「え? 僕もなの?」
「あい。みんなれてを、ちゅなぎましょう」
「ふふふ、そうだね」
俺に手を出してくる。いや、そうじゃない。
「れんか、ちがいましゅよ。りーぬとれしゅ」
「ああ、そっか。そうだね、アハハハ」
そうだよ。王女が一番小さいし、妹じゃないか。
「リーヌ、兄さまとも手を繋ごう」
「まあ! おにいちゃま、いいのでちゅか!?」
「うん、手を繋いで行こう」
「あい!」
ほら、とっても嬉しそうだ。心無しかツインテールのリボンまで、嬉しそうに揺れているように思えてしまう。
きっと、こんな触れ合いもないのだろう。王妃はあんな性格だけど、王子と王女は仲良くして欲しい。
「リーヌの手は小さくて温かいね」
「おにいちゃまのてもれちゅ。ポカポカちまちゅ。えへへ」
「これからは、もっと手を繋いで遊ぼうね」
「あい! うれちいれちゅ!」
可愛い妹じゃないか。こんな風にしていると、将来あんなことを起こすなんて想像できないぞ。
3人で手を繋いで庭園の中を歩く。色とりどりの花が咲き乱れている。可愛らしい花から、豪華な花まで色々だ。
「きれいね~」
「本当だね。こんな風に庭を見たことって、あんまりなかったな」
「おにいちゃま、しょうなの?」
「うん」
気が休まらなかったのだろうか?
ただ、手を繋いで歩いているだけなのに、王子と王女は嬉しそうに微笑む。
「ラウのお陰だ」
「ぼくは、なにもしてないれしゅ」
「ふふふ、そんなことはないんだよ。いつも叔父上は僕を気に掛けてくださる。叔母上も城にこられた時は必ず顔を出して下さる。ラウもそうしてくれると嬉しい。僕はラウのご両親に救われているんだ」
たった6歳だ。6歳の子供がこんなことを言うなんて、王妃は何をしているんだ?
王妃としての体面はあるだろう。だけど、それと子供とは別問題だ。俺は少し腹が立ってきた。
前の時だって、裏で王妃が嗾けていたとしたら? 関わっていたのは確かなんだ。なら、王妃が誘導していたとしてもおかしくない。
「ラウ、どうした?」
「あ、なんれもないれしゅ」
つい考え事をしてしまった。難しい顔をしていたかも知れない。