93ー王子ルシアン
「ルシアン、来たか」
「はい、父上。叔父上、お久しぶりです」
「王子殿下、ご無沙汰しております」
少し伸びたキラキラとしたブロンドの髪に、利発そうなスカイブルーの瞳だ。王家の色を持つ王子だ。
父と母が立ち上がって頭を下げたので、俺もと思ったのだけど。
「ラウはここにいなさい」
「あい」
なにしろ王が俺を離してくれない。ずっと膝の上に座らせたままだ。
さすがにこれは違う。俺より、カトリーヌにこうしてあげる方が良いぞ。ふむ。
「へいか、ボクよりりーぬしゃまを」
「ん? ラウ、何だい?」
いや、だからな。俺よりカトリーヌをだね。
「りーぬしゃま、かわろう」
「らからりーぬは、りーぬなのよ」
えっと、それって様はいらないってことかな? いいのかな? と、思って母を見るとニッコリ微笑んだから良いのか?
「えっちょ……りーぬ?」
「しょうよ、らう」
「りーぬが、へいかのおひざにおいれ」
「え……いいのかちら?」
「うん、らってりーぬは、へいかのころもなんらから」
これで意味が分かってくれないかな? と、じっと王の顔を見る。
「アハハハ、ラウは本当にお利口だ」
そう言いながら、俺を膝から下した。そして、カトリーヌに手を差し伸べる。
「リーヌ、おいで。すまなかったね」
「とうしゃま、よいのでちゅか?」
「ああ、もちろんだ」
パアッと嬉しそうな顔をして微笑み、王の腕に身体を預けた。だってまだ2歳だぞ。そんなの甘えたいに決まっているじゃないか。
「ラウ、いらっしゃい」
「あい、かあしゃま」
トコトコと歩いて行き、母と父の間に座る。うん、これで良い。俺が陛下の膝の上に座っているなんて、おかしいじゃないか。
カトリーヌだってニコニコしている。さっきとは大違いだ。
「ラウ、久しぶりだ。前に会った時はまだ赤ちゃんだったね」
王の隣に座った王子が俺に微笑む。覚えているんだけど、ここで覚えていると言ったらおかしい。だって赤ちゃんが、覚えているはずないのだから。
「えっちょぉ……」
「ラウ、ルシアン王子だ。ご挨拶しなさい」
「あい、とうしゃま。らうるーくれしゅ、よろしくおねがいしましゅ」
「大きくなったね。会えてとっても嬉しいよ」
王子は変わっていない。前に会った時は、王妃の懐妊もあって少しピリピリしていた。でも、大丈夫そうだ。変わらず穏やかそうな人だ。
以前はビクついている感じを受けたのだが、今の王子にはそれがない。
「あい、りゅしあんれんか」
「アハハハ、殿下なんて呼ばなくても良いよ、ラウ」
「ルシアン、何を言っているのです。敬称をつけるのは当然ですよ」
「母上、ラウは従弟になるのでしょう? なら敬称なんて必要ないです」
おや、王妃に反論したぞ。まだ子供なのに、とっても堂々としている。王妃の小言なんて、それがどうしたといった感じだ。
「ルシアン! 母に口答えするなんて……」
「王妃、またそんなことを言っているのか? 何度言えば分かる」
「へ、陛下、しかし……」
「公の場なら別だ。だが、こうして身内だけの場なら敬称など不要だ」
「は、はい……陛下」
納得していない顔をしている。王妃は自分達が優位に立ちたいんだ。ジョブでは敵わないから、せめて立場だけでもとか思っていそうだ。
でも確か王子のジョブは上位職だったはずだ。今回も変わりなければだけど。
『変わりないわよ~。この子は悪さをしていないのですもの』
リンリンだ。姿は見えないのだけど、側にいるらしい。じっと母を見ると、肩の辺りがぼんやりと光って見える。ああ、そこにいるんだ。
『そんな風に見えるのも、ラウくらいだわ~』
そうなのか? まあ誰にでも見えたら姿を消している意味がない。
『そうなのよ~』
なんだかリンリンに、アシストしてもらっているみたいだな。
『あら~、そのために私は一緒にいるのよ~。ミミだけだと不安ですもの~』
「ぴよ!」
あ、ミミが反応したぞ。ちゃんと約束を守って『ぴよ』なんて言っている。
家なら『ミミは桃ジュースがのみたい』なんて、言ってそうだけど。
「ぴよぴよ」
なんだ、思っていたのか? 家に帰るまでちょっと我慢だよ。
「ぴよよ」
仕方ないな~って、感じか? 鳥さんなのに、とっても表情が豊かじゃないか。
それより、王子のジョブだ。なんだっけ?
『英雄なのよ~。大賢者と同じように上位のジョブだわ』
ほう、『英雄』か。なら前の時にあった魔族の侵攻にだって、出ていてもおかしくないよな?
『実際に自分も出ると言っていたのよ。でも王太子ですもの、王妃が反対したのよ~』
へえ~、そうだったんだ。俺は全然知らなかった。
じゃあ、王子は前の時もこんな感じだったのだろうな。良い人って感じだもん。
『ラウったら、簡単にそう思うのはよくないわ~』
え、そうなのか? 簡単に信じすぎなのかな?
『そうよ~』
おう、気をつける。
「ラウ、どうしたの?」
「あ、かあしゃま。なんれもないれしゅ」
おっと、リンリンと話していると、ぼーっとしているように見えただろう。
「ラウ、今日はカトリーヌとルシアンと仲良くなって欲しくて、君を連れてきてもらったんだ」
え、俺なのか? まあ、親戚なんだからそれは良いとしても。俺ってまだ3歳児だぞ。