91ー鳥さんじゃない
「みみ、らめらよ」
「わかったみゃ。みみはてんしゃいみゃ」
また言っている。天才は今関係ないぞ。
「らうみぃ、しょうみゃ?」
「そうらよ」
「ええー。けろ、みみはてんしゃいみゃ」
「なにかいわれても、ぴよっていうんらよ」
「みゃみゃみゃ、とりしゃんみたいみゃ」
鳥さんじゃないか。何を言っているんだ。
「とりしゃんじゃないみゃ。みみは、しぇいれいみゃ」
「らって、とりしゃんにみえるよ」
「しょれはみみが、てんしゃいらからみゃ」
また言っている。はいはい、分かったよ。ミミは天才だー!
「らうみぃ……とってもうしょっぽいみゃ」
「ふふふふ」
「ミミちゃん、とにかく喋ったら駄目よ。ピヨよ」
「わかったみゃ。めんろうみゃ」
「あら? 何か言ったかしらぁ?」
ほら、母が怖い眼をしているぞ。
「みゃみゃみゃ、なんれもないみゃ。みみはちゃんと、しゅるみゃ」
「はい、お利口さんね」
母ったら、威圧感がとんでもないぞ。
でも、ミミにはちゃんと言い聞かせておかないと、ポロッと喋ってしまうのが目に見えている。
「ミミは不安だわ~」
シャララ~ンとリンリンが姿を現した。母の肩に止まっている。
やっぱリンリンもそう思うか。俺もそう思う。とっても不安だ。
「りんりん、みみはちゃんとしゅるみゃ」
「そうかしら~、ミミは直ぐに忘れちゃうから~」
「みゃみゃみゃ!? わしゅれないみゃ」
「じゃあ、みみはとうしゃまによばれたら、ろうしゅるの?」
「みゃ? ちちしゃまに、なんみゃ? てきくみゃ」
ほら、ほぉ~ら、分かってないじゃん。
「らめらよ、しょんなときれも、しゃべったららめ」
「しょうみゃ!?」
「うん、ぴよっていわなきゃらめ」
「みゃみゃみゃ! しょうなのみゃ!? びっくりなのみゃ!」
やっぱ分かっていなかった。全く、全然分かっていない。
「あらあら、ふふふふ」
母よ、笑っている場合じゃないぞ。ちゃんと言い聞かせないと。
「ミミ、誰に何を言われてもお城から出るまでは『ピヨ』しか言っちゃ駄目なのよ~」
「リンリン、しょうなのみゃ?」
「そうなのよ~」
「そうよ、ミミちゃんは鳥さんなのだから」
「らからみみは、とりしゃんじゃないみゃ」
「分かっているわよ、でも鳥さんの振りをしていてちょうだいね」
「しょうなのみゃ!?」
今更だ。そこから言い聞かせないといけないのか。
「ミミちゃんはお城にいる間は鳥さんなの。お願いね」
「わかったみゃ。まかしぇるみゃ」
本当に分かったのか? 不安だ。だって、ミミだから。
城へ到着し馬車が止まる。
前を走っていた馬車から父が下りてきた。そのまま俺達の乗っている馬車までやって来る。
「アリシア、ラウ、行こうか」
「はい、あなた」
おや、もう『氷霧公爵』の仮面をつけている。
家にいる時の父とは、纏っている雰囲気が違う。母もそうだ。凛として背筋が伸びている。
俺はおフクに抱っこされて後を付いて行く。
案内されて通されたのは0歳の時にも来た部屋だ。王の執務室ではなく謁見室の方だ。
部屋に入ると王と王妃がいた。その間に小さな女の子が座っていた。
ふんわりとした茜色のワンピースに、同色のリボンでツインテールに結んでいる。
王妃と同じ、茶色の髪に栗色の瞳だ。この国では、ごく平凡で一般的な色。
王と王子は違う。ブロンドの髪にスカイブルーの瞳だ。王家の色とまで言われている。
高位貴族の中には、同じ髪色と瞳の色をした者だっている。だけどその者の家系には、必ず過去に王家の血が入っているのだそうだ。
父はプラチナブロンドの髪にアイスブルーの瞳、俺はプラチナブロンドの髪にブルーゴールドの瞳だ。
母は違うんだ。栗色の髪に、明るい栗色の瞳をしている。なのに俺は微妙に違うけど、父と同じ様な色を持って生まれてきた。
その色がどうした? と思うだろう? 俺もそう思う。
だが、王妃にとってはそうじゃないんだ。たかが色だけど、されど色なんだ。
王子は良い。王の色を継いでいるから。だけど、王女は違う。髪色も瞳の色も王妃の色を継いでしまった。
その上、この後生まれてくるはずの俺の妹だ。全く父と同じではないけど、ブロンドの髪にゴールドの瞳をしている。おまけに聖女のジョブを受ける。
それがトドメだったのだろう。
王妃の嫉妬心が膨らみ妬み出した。本当に馬鹿らしい。
そんな事で人の命を奪って良いと思っているのか?
「ラウ、どうしたの?」
おっと、また考え事をしてしまった。
「かあしゃま、しゅこしきんちょうしましゅ」
「まあ、そうなの?」
「あい」
「ラウ、久しぶりだ。会えて嬉しいよ。緊張しなくて良い。伯父様のところへおいで」
相変わらず、物腰の柔らかい王だ。俺には優しい。大好きな弟の子だから。
「あ、あい」
呼ばれたから仕方ない。俺はトコトコと王のそばへと行った。
すると、ヒョイと抱き上げられた。そうなるだろうとは思ったよ。
「大きくなったな。もっと城に遊びに来てくれれば良いのに」
「陛下、それは無理です」
「ライくんも他人行儀だな。兄上で良い」
「しかし、陛下」
「良い良い。私が良いと言っているのだ。何なら昔の様にルー兄と呼んでくれ」
「陛下、さすがにそれは」
これも0歳の時に同じような事を言っていたな。弟大好きな兄ちゃんだ。
俺を膝の上に乗せて、父のその反応を楽しむかの様に柔らかく微笑んでいる。