9ープレゼント
「今日はね、ラウにプレゼントがあるのよ。もう直ぐ来ると思うのだけど」
「あうぅ?」
プレゼントが『来る』? いやいや、言葉がおかしい。
プレゼントが自分で歩いてやって来るわけでもあるまいし。
「ふふふ、楽しみね~」
「あぶばぁ」
何が楽しみなのか? 俺は全く分からない。
母のそのニッコニコを見ていると、逆に不安になるのは何故だろう?
「ぶぅ、あばばばばー」
意味を成さない言葉を言いながら、俺は励んでいた。何をかって? ハイハイだ。
只のハイハイではない。高速ハイハイだ。
立てるかな? と、思ってチャレンジしてみたのだけど、それはまだ無理だった。
足に力が入らないんだ。筋力が足りてない。ならばと、ハイハイだ。
邸の廊下を高速ハイハイで爆走中だ。
因みに階段は諦めた。一度チャレンジしようとして、上から見た時に悟ったんだ。これはまた死ぬなと。
まだ赤ん坊の俺は、頭が重い。うまくバランスをとれないんだ。頭から真っ逆さまな未来が見えてしまった。
だから、邸の廊下を爆走中だ。
そんな俺を微笑みを浮かべて見ている母。
「ラウ、そろそろだと思うからお庭に出ましょうか?」
「ばぶぅ」
何で? プレゼントが自分から庭にやって来るのか? そんな訳ないじゃないか。
と、母に抱っこされて庭に出た時だ。
突然、突風がピュ〜ッと吹き周りが風のヴェールで覆われ視界を奪われた。
どこからか、パタパタと小さな音がしたかと思うと、俺の可愛い顔面に何かがビターンと張り付いたんだ。
「ぶぎゃッ! ぶぶぶぶッ!」
ぶぶぶッ! 何なんだ!? 前が見えねー!
痛い、ちょっと痛い。チクチクする。いや、フワフワもある。そのフワフワの所為で息ができない。
これ何だ? 何が張り付いているんだ? 生温かいぞ。
「まあ! ふふふふ!」
「奥様、笑い事ではありませんよ。坊ちゃまが息できませんよ!」
「あらあら、それは大変だわ」
本当に呑気な母だ。俺が腕の中で悶え苦しんでいるというのに、笑っているのだから。
フクが言ってくれなかったら、どうなっていた事か。
これからは、敬愛の意味を込めて『おフク』と呼ぼう。
「これ、離れなさい」
「ふゅぅ~、やっとちゅいたみゃ」
んん?
「いいから離れなさい。ラウが息できないじゃない」
そう言いながら、母が摘まんではがしてくれた。
「ちゅまむんじゃないみゃ、はなしゅみゃ!」
と、俺の顔面からパタパタと離れて行ったそれは……
「ふゅぅ~、とおかったみゃ。めちゃとおかったみゃ。ほんちょにほんちょに、ちゅかれたみゃ」
なんて喋っている……まん丸のもわもわとした白と黄色の鳥さんが!
母の手に大人しく留まって喋っている。驚いたのなんの!
「ぴぎゃ!?」
「うりゅしゃいみゃ」
「ぶぶ、ぶぎゅ、あばばばば!」
赤ちゃん語だ。訳すと……な、な、なんで鳥が喋っているんだー!? だ。
その喋る鳥さん、大きさは直径(それも変)15センチ位だろうか。体がまん丸で足が爪楊枝の様に細い。胸や体の大部分は真っ白なのだけど、羽と尾羽の表面、それに頭の天辺に薄っすら黄色が入っている。嘴が可愛らしい淡いピンク色をしていて、お目々がまん丸だ。
言葉を喋らないときは普通にピヨピヨと鳴いているんだ。
なのに、喋り出すと「~みゃ」と言う。鳥さんなのに。ネコちゃんじゃないのに何故に? しかも舌足らず。それは可愛いじゃないか。
「ラウへのプレゼントよ」
なんだと、これがプレゼントだと? プレゼントが歩いてどころか、飛んでやってきた!
触りたいぞぅ。と、思って手を出す。
「みゃッ!」
手を思い切り突かれた。敵対心バリバリだ。
「ぶぎゃッ!」
俺は赤ちゃんなんだぞ。そんな事をしたら泣いちゃうぞ。
「ふ、ふぇ」
「てをだしゅからみゃ」
「これ、落ち着きなさいな」
「けろ、ちゅかれたみゃ。なんか、のむものほしいみゃ」
「フク、お水あるかしら?」
「はい、奥様」
「ええーおみじゅみゃ? けちみゃ〜。ももじゅーしゅがいいみゃ」
何を言ってるんだ。この鳥さんは。見た目は超キュートなのに、態度は太々しい。
母が無言で、小さな鳥さんの顔面を指で弾いた。所謂デコピンというやつだ。パコーンと音が鳴った。
反動で鳥さんが、後ろに吹っ飛んじゃったぞ。まあ、鳥さんだから飛べるのだけど。
パタパタと羽を動かして、飛びながら文句を言っている。
「ぴぎゃッ! い、い、いたいみゃ! なにするみゃッ!」
「お利口にできないのかしら?」
「ぼうりょくはんたいみゃッ!」
「あら、まだ分からないのかしら?」
今にも、もう一度デコピンいっとくか? と、手を構えながら母の目がギラギラしている。怖いぞぅ。
「ご、ごめんみゃ! こわいみゃ。ちゅよいみゃ」
小さな体をブルブルと震わせている鳥さんに、また母が無言で圧を掛ける。
母の顔が怖い。目が笑っていない。ゴゴゴゴォッと、音が聞こえる気がするのは俺だけなのか?
そんなこんなで、庭の四阿にあるテーブル。そこでその小さな鳥さんは、ご希望通りの桃ジュースを貰って飲んでいる。いや、啄んでいる。
時々、ピヨピヨと鳴きながら。
これは一体何なのだ?
俺は母のお膝の上で、キョトンとしながらもその鳥さんに釘付けだ。
「あうぅ……ぶぶぶぅ」
「可愛いでしょう?」
確かに可愛いけど、俺の手を突いたぞ。それに、顔面に引っ付かれたぞ。
お読みいただき有難うございます!
今回はりんごジュースではなく、桃ジュースです。^^;
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