89ーポポンと花が咲いた
誰が誰のお気に入りだって?
「らうみぃが、しぇいれいじょうおうの、おきにいりいみゃ」
「ぼくはミミみたいに、ねてないからね」
「ひろいみゃ! おこしてくれても、いいみゃ」
そんなのもうとっくに諦めたんだ。赤ちゃんの頃は、さすがに何度も起こそうとしたさ。精霊女王も一緒にだ。それでも起きなかったのはミミだ。
「みゃみゃみゃ! しょんなことないみゃ!」
「しょんなことあるよ」
「そうね、いつも起きなかったわよね」
ほらみろ。精霊女王だって起きなかったと言っているだろう。
「みゃみゃみゃ、しょんなことないみゃ」
「あるよ」
「あるわね」
ミミが何故か小さくなっちゃった。小さく見えるじゃなくて、本当に俺の肩に乗れるくらいの大きさになっちゃったんだ。
別に責めていないのに。
「いちゅものことらから、きにしてないよ」
「きにしゅるみゃ! みみは、きにしゅるみゃ!」
また、ゴゴゴーと大きくなった。今度は俺が乗れるくらいの大きさにだ。忙しい奴だな。
「またみみが、ちゅれていくのみゃ?」
「うん、おねがいね」
「ぴーちりん、たべれるみゃ?」
「うん、きっとね」
「ならいいみゃ。きょうりょくしゅるみゃ」
なんだと? やっぱピーチリンのためなのか。
俺はさ、俺の気持ちに寄り添ってくれていると思いたかったよ。
「らうみぃ、なにわけのわからないことを、いってるみゃ?」
「なんれもない」
「あらあら、ふふふふ」
精霊女王は笑って見ている。いつもそうだ。怒る事はしない。俺を否定したりもしない。
ちゃんと俺の意見を聞いてくれて、相談に乗ってくれる。
そして俺に不足している事を教えてくれるんだ。それを努力して克服しなさいと励ましてくれる。
そのお陰で魔王にも会いに行けるようになったんだ。
精霊女王に言われて、必死で魔素を防ぐシールドの練習をしたもの。
「らから、らうみぃはおきにいりみゃ」
「しょう?」
「しょうみゃ、みみはしかられるみゃ」
それはミミが、ちゃんとしないからだろう? 普通にしていたら、叱られたりしないって。
「みみは、おりこうみゃ。ちゃんとしてるみゃ」
「あらあら、そういう事にしておいてあげましょうね」
ほら、オイタをしているんじゃないか。きっと起きないとかだろうけど。
とにかく、魔王に会いに行く時みたいに、途中までミミに乗せて欲しいんだ。でないと、俺はあの国までなんて転移できない。
そうだ、転移だよ。もっと長距離ができるようになりたいぞ。
「ラウ、それはもっと成長して魔力量を増やさないと無理よ」
「しょうなの? いまれも、おおいとおもったのに」
「そうね、多いわね。でもまだまだ増えるわ」
ほう~、まだまだ増えるのか。
思わず、キララ~ンと眼が光ってしまったと思う。それを精霊女王が見逃すはずがない。
「また、何を企んでいるのかしら?」
「なにもかんがえてないよ」
「そう? 何をする時も、先に私に相談して頂戴ね」
「うん、たよりにしてるよ」
「あら、そう? そうかしら? ふふふ」
あれれ? 精霊女王が少し嬉しそうなんだけど。周りに小さなお花がポポンと咲いてしまっているぞ。それはどういう事なのかな?
「ふふふ、だってラウが頼りにしてるって、言ってくれたからよ」
「ええー? あたりまえなのに」
「あらあら、そうなの? 当たり前なのね?」
「うん。いちばんたよりにしてるよ」
「あらあらあら~」
またまたポポポンポンと、精霊女王の周りに小花が咲いた。いや、今度は咲き乱れた。
俺が頼りにしてると言っただけで、こんなに喜んでくれるなんて嬉しいじゃないか。
「いちゅもありがとうね」
「まあ! ラウったら、なんて可愛いのかしら!」
当然、ポポポポポンと小花が咲く。もう精霊女王の周りは花だらけだ。
「らうみぃ、じゅるいみゃ」
「ろうして?」
「らって、おきにいりみゃ」
はいはい、それは何度も聞いた。でもさ、本当に世話になってるじゃないか。
魔王に会いに行く時は、いつも精霊女王の力を借りているんだぞ。
「みみらって、きょうりょくしてるみゃ」
「みみも、ありがと」
「みゃみゃみゃ! みみはてんしゃいらから、いいみゃ」
意味が分からないぞ。天才とは関係ないだろう? それを言うなら、使い魔だから良いだろう?
「みゃ? しょうみゃ?」
「うん、そうだよ」
「あらあら、ふふふ」
精霊女王が母親みたいな目になっているぞ。
「約束よ、黙って無謀な事は絶対にしない事」
と、念押ししてその日は帰された。精霊女王の力を借りないと駄目なのに、勝手にはしないさ。
俺は、そのまま朝までぐっすりだ。もちろん、ミミも爆睡だ。
翌朝、おフクの声で目が覚めた。
「坊ちゃま、寝付けなかったのですか?」
「え? ろうして?」
「今朝は起きられるまで何度もお声を掛けたのですよ。ですからまだ眠いのかと思いまして」
「あー、らいじょぶ。しょんなことないよ」
「そうですか?」
そんな話をしながら、おフクに着替えさせてもらっていた。俺ってまだ3歳だから自分でお着替えもできやしない。俺は立っているだけだ。
俺のその日の体調はどうかと様子を見ながら、おフクは手際よく着替えさせてくれる。
「ふく、げんきらよ」
「はい、良かったです」
おフクはちょっぴり心配性だ。