87ー甘やかすから
ここで少し王妃と王女を、見極めておきたいものだ。
俺はそんな事を考えながら、まだ短い腕を組み片手をペトッと額につける。
何かを考えている時の俺の癖だ。これは赤ちゃんの時から変わらない。
「あら、ラウ。また何か考えているのかしら?」
「かあしゃま、おうじょれんかは、ろんなひとれしゅか?」
「そうね、すこ~し我儘かしら?」
「あれは王妃様が甘やかすからだ」
そういう父も、俺には激甘だと思うのだけど。
でもそれって、片鱗が出てきているではないのか? いかんな。早く矯正しないと駄目だぞ。
「わがままは、らめれしゅ」
「そうね、王妃様が猫可愛がりされているみたいだから。陛下も困っておられたわ」
それはよくないね。前の時だって王妃があの王女を作ったんだ。
なんでも自分の思い通りにならないと癇癪を起す。俺達家族の事はどうにもできなくて、それでも嫉妬し妬んでいたのだろう。
そして俺達家族や関係する者達を排除しようと動いた。あの魔族との戦に乗じてだ。
自分達のジョブや見た目を、俺達家族と比べて勝手に嫉妬していたんだ。
アコレーシアなんて俺の婚約者じゃなかったら、殺されたりする事もなかっただろうにと思ってしまう。だからといって、諦めるつもりは全くない。
そんな事にならないように、王妃や王女を矯正しようと考えている。それに魔族との戦だ。
魔王とはもうマブダチになった。だから、そう簡単には戦にはならないだろうと思う。戦はするなとこれまで散々言ってきたからな。
それでも、心配だ。だって戦を吹っ掛けるのが、例のあのデオレグーノ神王国だから。攻めてこられたら、応戦しない訳にはいかなくなるだろう。
やっぱ行っとくか、デオレグーノ神王国に。
「みゃみゃみゃ? らうみぃ、なにかんがえてるみゃ?」
「なんれもないよ」
ミミは余計な事を言うから要注意だ。俺の気持ちが決まってから話そう。
「みゃ? みみはらうみぃの、ちゅかいまみゃ」
「うん、しってるよ」
「なんれみみに、はなさないみゃ?」
「らから、なんれもないって」
「ほんとうみゃ?」
「うん、ほんとう」
いかんな、いつになくしつこいぞ。ミミより先に精霊女王に相談したいんだ。それと、魔王にもだ。
俺だけの力だと難しい事でも、あの二人の力を借りれば大丈夫な事だってあるだろう。
使えるものは何でも使う。いや、頼る。
背に腹は代えられない。必ず魔族との戦を回避するんだ。
若しくは、俺が召集されないようにする。これは無理だと思うんだ。だってきっと今回も大賢者だと鑑定されちゃうだろうから。
「らうみぃ」
こら、言うんじゃないぞ。まだ秘密だ。
「しかたないみゃ」
「あら? また2人で何を話しているのかしら?」
ほら、ほぉ~ら、母が反応しちゃったじゃないか。
母は鋭いんだから、気をつけないと。だからミミ、内緒だぞ。
「わかってるみゃ。みみもちょっと、たべるみゃ」
「みみは、たべたらだめだと、いっているのでしゅ」
「ふふふ、そうね」
近々王妃に会えるのなら丁度良いじゃないか。その事も今度精霊女王に相談してみよう。
「しょれがいいみゃ」
あ、こんな時だけ俺の思っている事を読んだな。
「みみは、てんしゃいらからみゃ」
はいはい、分かったよ。
「とうしゃま、おしろにはいつ、いくのれしゅか?」
「まだはっきりとは決めていない。早くても3日後だ」
「とうしゃまもいっしょれしゅか?」
「なんだ、ラウ。私が一緒だと嫌なのか?」
「ちがいましゅ。いっしょがいいれしゅ」
「そうかそうか! 父様も一緒がいいか!」
ヒョイと父の膝の上に乗せられた。俺が何歳になっても、父は俺には甘い。
こんなに甘いのに、俺は我儘に育たなかったぞ。
一体どんな育て方をしたら、人を殺そうとまで考えるまでになるんだ?
「ラウ、それはまた今度教えてあげるわよ~」
「りんりん」
「あら、リンリンまでラウと内緒話なの?」
「あら、そんな事はないわ~。ラウったら可愛いのですもの~」
「まあ、リンリンったら」
ふぅ~、本当に母は要注意だ。それだけよく俺の事を見ているって事なんだろうけど。いや、これは俺が何を為出かすのか気を付けているって感じか?
0歳児の時に色々やらかしちゃったからか? そんな事はないな。お利口な0歳児だったぞ。
「しょんなことないみゃ。なんかいも、でちゃってたみゃ」
「みみ、それはしかたがないよ」
「しょうみゃ?」
「そうなんだよ」
だって0歳児なんだぞ。我慢できないっての。でもいつもかっちょよく決める時に、出ちゃってたんだよな。ほんと、俺って決まらない。
「殿下、そろそろ仕事に戻りましょう」
「アンジー、まださっき来たばかりじゃないか」
「もうお茶飲んだッスよ」
「私は飲んでいない」
父とアンジーさんも相変わらずだ。良いコンビだよ。これで『氷霧公爵』と『銀花男子』なんて呼ばれているなんて信じられない。家ではとっても愉快な二人だ。
「ふふふふ」
「ほら、ラウに笑われてますわよ」
「ラウ! 父様はまだラウとアリシアと一緒にいたいのだ!」
「れも、とうしゃま。あんじーしゃんがこまってましゅよ」
「そうッス! 困ってるッス!」
「アンジー!」
アハハハ、この二人はいつも同じような事をしている。