84ー色んな理由
実際に魔王は何年くらい生きるのだろう? この魔王って、前の時の魔王と同じなのかな?
「我は数千年と生きているぞ。きっとその時も我だっただろう」
千年単位なのか。想像ができない長さだ。色々話をした事もあって、魔王は俺の事情を分かってくれている。
北の山脈を作ったのもこの魔王だ。悪さをする魔族が、人の住む国へ行かないようにと作ったのは本当だった。
「何が楽しいのか私には理解できないのだが、ごく少数だが自分達より弱い種族を甚振って楽しむ奴等がいるのだ」
魔王はそれが嫌らしい。俺にその話をしながら、溜息をついていたのを覚えている。
本当、それは趣味悪いね。それを阻止しようとあの山脈を作ったらしい。
それからは魔族の被害も少なくなった。だが、行こうと思えば魔族は越えられる。
その証に、人の国にも魔族は住んでいる。
人と区別できない姿に変化して、商売をしていたりするんだ。
そんな色んな事を話したり、色々教えてもらったりした。
魔族の襲撃までまだあと何年もあるし、魔王とマブダチになっちゃったし、良い感じじゃないか?
次はそろそろ例の魔族と戦を起こす国、デオレグーノ神皇国へ行くか? なんて少し調子に乗っていたんだ。そんな時に聞かされた、あの訪問の話だ。
いつ行くのかもまだ知らされていないのだけど、それでも俺はその事を考えると緊張する。
「坊ちゃま、起きたらお話しがあると奥様がお呼びでしたよ」
「フク、わかった」
じゃあ、母の部屋に行くか?
「奥様はこの時間でしたらきっと四阿ですよ」
「あー、しょうらね」
「行きますか?」
「うん」
まあ、まだ舌足らずだけど普通に会話ができるって良いね。今まであばーとか、あぶーとかだったから。それに自分の足で歩けるのも良い。
ふふふ、俺はしっかり自分で歩くのだ。てか、ミミ。そろそろ起きろよ。
「ミミを起こしましょうね」
「うん」
そうなんだよ。ミミはまだ寝ている。大の字で。
「ミミちゃん、ミミちゃん」
おフクがミミを揺らすが、全く起きそうもない。相変わらずだ。
「ミミちゃん、桃ジュースですよ」
これも相変わらずだ。ミミには取り敢えず桃ジュース。何をおいても桃ジュース。
「みゃみゃみゃ! ももじゅーしゅのむみゃ!」
いつものパターンだ。単純だぜ。チョロミミさんだ。
ミミを連れて、母の元へ向かう。四阿だろう? と、いうことは外に出ないといけない。
「フク、かいだんはこわい」
「はい、抱っこしましょうか? お手々を繋ぎますか?」
「おてて、ちゅなぐ。じぶんれ、おりる」
「はい」
階段の手すりを持ち、反対の手はおフクと手を繋いで一段ずつゆっくりと下りる。
幼児の目線だと、大きな階段って怖いんだぞ。
「ゆっくりですよ」
「うん」
「らうみぃ、とべばいいみゃ」
「みみ、らからとべないの」
「しょうみゃ? ふべんみゃ」
そういうミミは、俺の肩に留まっているんだけどな。
「みみは、しぇいれいらからとべるみゃ」
「とんでないのに」
「みみは、ちゅかいまらからみゃ」
全く意味が分からない。
ミミと俺の関係も、相変わらずだ。舌足らずな喋り方が似ている。それがちょっと癪だ。
ミミより流暢に喋れるようになってやるんだ。
四阿に行くと母が優雅にお茶を飲んでいた。庭の花を眺めながらお茶するのが、母は好きなんだ。
甘いものがある時には侍女と一緒にお茶をしていたりする。普通の貴族では侍女を同席させるなんて、考えられない事なんだ。だけど母は侍女と二人でウフフ、あらあらと喋りながら楽しんでいる。
邸の裏側には母の温室がある。父が母の為に建てた温室だ。
そこで母は貴重な薬草を育てている。まだ俺は中に入った事がない。
エレメンタラーのジョブを持つ母だからこそ、集められた薬草があるそうだ。精霊さんに頼んで、採取してきてもらうんだ。
これは前の時も同じだった。成長しても俺は温室に入った事がなかった。と、いうか前の時はそんな事興味がなかった。母が何かしているな~て、程度だ。
もっと関わっておけば良かったと後悔している。だって、俺の婚約者になる筈のアコレーシアはアルケミストのジョブを持つ筈なんだ。
要するに、錬金術師だ。しかも凄腕だった。
「回復魔法が使えても、魔力切れになったら使えないでしょう? だから念のために持っていてちょうだい」
そういって、ポーションを幾つか持たされていた。
低級、中級、上級ポーションの3種類だ。どれもアコレーシアお手製の物だ。
毒消しや状態異常を回復させるもの等、色々持たされた。俺は大賢者だったんだ。だから亜空間収納やマジックバッグを持っていた。
「亜空間に入れておけば、荷物にはならないでしょう?」
そう言って幾つも持たされた。上級ポーションを作る為の薬草なんて、なかなか手に入らない。それをどうやって入手していたのか? 母と仲良くなっていれば、それも簡単なのだと思うんだ。
可愛い婚約者だったんだ。俺みたいな愛想のない男を大切にしてくれた。
前の時だと7歳で出会ったんだけど、今回は3歳だ。いつ訪問するのかも母に聞こう。