80ーピーチリン
それよりさ、ミミ。これじゃあ時間が足らないだろう? まあ、奇跡的にも魔王に会えた事は凄い成果なんだけどさ。ちゃんとまた来るって言ってきたしな。
なにより、オムツも問題だ。俺は転移すると、出ちゃうらしいぞ。
「あばー」
「みゃみゃみゃ! しょうみゃ! らうみぃ、でちゃったみゃ!」
仕方ないだろう? 俺だっておフクを呼びたいのを我慢しているんだ。
「しょんなもんらいじゃ、ないみゃ! みみは、きもちわるいみゃ!」
「あぶ」
いや、何言ってんだよ。気持ち悪いのは俺だ。ミミは何ともないだろうが。
「でちゃったのに、みみにのるみゃ!?」
「ぶぶぶ」
仕方ないじゃないか。ミミに乗らないと帰れないんだからさ。
「すぴーどあっぷみゃ!」
おっと、ミミの飛ぶスピードが速くなったぞ。アハハハ! なんだよ、まだ手加減していたのか。
速くなったものだから、組んでいた腕を戻してミミの羽に掴まる。
風圧は風属性魔法で防いでいるから大丈夫なんだけど、ビューッて感じだからさ。語彙力がないけど。
速くなったからちょっぴり不安定になったんだ。
ミミがスピードアップした事もあり、帰りはあっという間に精霊界に戻ってきた。
「ふふふふ」
むむむ、精霊女王が笑っているぞ。これは見ていたのだな?
「だってラウったら……ねえ」
「あぶ」
ねえって何だよ。ねえって。あれか? 魔王の顔面に着地した事か?
「それも驚いたけど、それより出ちゃったのでしょう?」
「あうー」
そっちかよ、そうなんだな。これがまた、出ちゃったんだ。大きな方でなくて良かったよ。
「みみは、ぴーちりんたべるみゃ」
「あぶぶ」
はいはい、待ってるよ。オムツを早く替えて欲しいんだけどね。
「いしょいで、たべるみゃ。いっこらけみゃ」
「あらあら、ミミったら」
ミミがピーチリンの木まで、ピューッと飛んで行って生っている実を、嘴で器用に捥いだ。そのまま、一心不乱に突き出した。
「みゃー! やっぱぴーちりんは、ちょうおいしいみゃ!」
はいはい、そうかよ。良かったね。ミミは大活躍してくれたからな。
ゆっくり食べな。待ってるからさ。オムツ替えたいけど。
「ラウったら、どうして転移すると出ちゃうのかしら?」
「あばー」
な、そこだよ。どうしてだろう? あれか? 無意識に力を入れてんのかな?
「ふふふふ、そうかも知れないわね」
てか、精霊女王めっちゃ笑いを堪えてないか? 身体がプルプルと震えてないか? 本当は爆笑したいとか?
「だって、ラウったら。とっても面白いのですもの。あんなに緊迫した状況なのに出ちゃったって……ねえ。しかもちゃんと話せなかったでしょう?」
「あぶぶ」
そうなんだよ、やっぱ時間が短いんだ。
「あら、それもあるけど。貴方達が騒いでいたからよ」
「あうあー」
ああ、それもあるな。なにしろお初だからな。どこに転移するのかも分からなかったのに、魔王にピンポイントで転移できたんだ。
だからテンション爆上がりだった。次はもう少しちゃんと話そう。
「まあ! 本当にまた行くつもりなの!?」
「あぶ」
おう、当然だ。今日のあの話だけだと通じていないだろう? また行くぞ。行くって言ってきたし。ちゃんと話せるまで通うつもりなんだ。
「ふふふ、まあ良いわ。ちゃんと時間も守っている事だし。もし守らないなら、強制的に回収しようかと思っていたのよ」
「あば?」
マジか? そんな事ができるのか?
「できるわよ。だって精霊女王ですもの」
ええー、それってどうなの? 万能すぎやしないか? まあ、それだけ心配していてくれたのだという事だな。
「ふぅ~、おいしかったみゃ。めっちゃおいしかったみゃ。しゅっごく、おいしかったみゃ」
「あぶぶ」
ミミ、満足か。
「まらたべたいけろ、みみはがまんのれきるしぇいれいみゃ」
意味不明だな。じゃ、帰るか。俺はオムツを替えてもらいたい。
「じゃあ送るわね」
精霊女王がそう言うと、こっちに来た時と同じ様に光の川が流れるような景色が変わった。そして、ポフンと俺のベッドに到着だ。
「あばー」
有難う! また宜しく頼むよ!
「はいはい。危険な事はしないと約束してね」
「あぶ」
おう、もちろんだ。そして俺はおフクを呼ぼう。
おフクー! 出ちゃったよー!
「あぎゃー! ふぇ、ふぇ、ふぎゃー!」
「はいはい、あらあら珍しいですね。出ちゃいましたか?」
「あばー! ぶきゅー!」
「オムツ替えましょうね」
ふぅ~、おフクに濡れたオムツを取ってもらって、やっとスッキリした。
気持ち悪かったんだ。出ちゃってからしばらく我慢していたからさ。
「あら? もしかして少し時間が経ってますか?」
「あぶ」
ちょっとだけね。
「冷たくなってますね。我慢しないで直ぐに呼んでくださいね」
「あう」
いや、呼んでもおフクが来られない場所にいたんだ。まさか魔王に会っていたなんて言えない。ま、喋れないんだけど。
おフクにオムツを替えてもらって、即行で俺はお眠だ。
疲れちゃった。気持ちがだけど。とってもテンション上がったし。
て、隣を見るともうミミが大の字になって爆睡していた。
こいつ、本当に良い根性している。大人しいと思ったら寝ているんだから。
ピーチリンを食べて満足したか?
でも、今日は有難う。また頼むよ。
俺もミミの隣で眠りについた。