79ー魔王
足を伸ばし何かの上に座ったまま、はて? と、腕を組んで考える。またこのパターンだ。俺は別に狙っていないぞ。
でもさ、なんだか知らないけどよくお尻の下に敷いている。
おっとぉ、しまった……俺って転移したら何かが出ちゃうらしい。
「あぶぶぶぶぅ~」
ブルブルッと震えた。今度は武者震いなんかじゃない。エヘッ、出ちゃった!
これって条件反射になってしまってないか? といっても、今回は大きい方じゃないぞ。でもオムツが生温かい。
泣くか? いや、ここで泣いてもおフクはいない。
「なんだか生温かいぞ……」
馬鹿な事を考えていると、そんな声と共にヒョイと抱き上げられた。
俺の脇に手をやり、プラ~ンと抱き上げて見ている。俺を抱き上げたのは男性だった。
闇を吸い込むかの様な漆黒の長い髪、頭の両側には丸く一巻きした立派な角がある。
そして陶器の様な白い肌に、睫毛の長い切れ長の眼は真っ赤な瞳をしていた。所謂、超絶イケメンだ。
「お前はどこから来た?」
「あば?」
なんだよ、お前っていうお前は誰だよ?
「ぶふッ!」
おや? 笑われちゃったぞ。て、事は俺の考えている事が読めるんだな?
「私は魔王だ。お前は人間の子か?」
「あばー!!」
「みゃみゃみゃ!!」
やったぜ、ミミ! 魔王だってよ! 大成功じゃないか!
俺は抱き上げられたまま、手足をブンブンと動かして喜んだ。
「みゃみゃ! らうみぃ、しゅごいみゃ!」
俺の周りを飛んでいたミミを、片手でブンッと掴んだ魔王。俺もまだ片手で抱えられている。
おっと、逃げられないぞ。ホールドされちゃった。
「お前は……精霊か!?」
「みゃみゃみゃ! はなしゅみゃ! らうみぃ! らいじょぶみゃ!?」
いや、ミミの方がヤバイって。思いっきり掴まれているじゃないか。
うまく転移して魔王に会えたというのに、俺とミミは大騒ぎだった。
折角来た意味も忘れて、ギャーギャー騒いでいた。テンション爆上がりだ。
「こら、落ち着け」
「あぶぶぶ」
「らうみぃ、でんじゃーみゃ! でんじゃーみゃ!」
ミミはガシィッと掴まれているものだから、羽を動かす事もできずに騒いでいる。
俺はというと、ちょっと魔王がイケメンすぎて引いていた。何だこいつは? 黒いシルクの様なパジャマを着ていて、それさえも似合っている。
こんなに整った容姿の人がいるのかと、ジィ~ッと見ていたんだ。
えっと、そうだ。魔王と言っていた。
大成功じゃないか。と、今更状況を把握したんだ。
「あば!」
ヒョイと手を上げる。よろしくな! て、挨拶だ。突然来てすまんね。
「グフフッ」
また顔を背けて吹き出している。どうやら、いきなり殺されるという事はなさそうだ。
「どうして人間と精霊がここにいる? しかも赤ん坊だろう」
「あぶぶぶ」
おう、そうだぞ。俺はラウだ。よろしくな! と、また手を上げた。
「アハハハ!」
とうとう声を上げて笑い出した。なんだ、笑い上戸じゃないか。悪い奴ではなさそうだ。
「ラウか。精霊はなんと言う?」
「みみみゃ! らうのちゅかいまみゃ!」
まだ手から抜け出そうと、もがいているミミ。まあ、諦めなって。ちょっと冷静になろうぜ。
「ほう、使い魔か。この瘴気の漂う世界によく来られたものだ……もしや、転移か?」
「あぶ」
そうだとまた手を上げる。魔王に会いに来たんだ。相談があるんだよ。
「私にか? 相談とは? 赤ん坊に相談される事などないぞ」
「あぶあばー」
あるんだよ。てか、取り敢えず下ろしてくれないか? ちょっと苦しくなってきた。
「ああ、すまんな」
すまんだって。謝ってくれたぞ。そして俺とミミを、優しい手付きでベッドの上に下ろしてくれた。
「ぶぶぶ」
「ふぅ~、びっくりしたみゃ。ももじゅーしゅが、のみたいみゃ」
「あば」
「らうみぃは、なんてむちゃをしゅるみゃ」
え、そうか? 計画通りだろうよ。しかも魔王に会えたんだ。ピンポイントで大成功じゃないか。
ミミの方がびっくりするわ、この状況で桃ジュースって何だよ。
「ええー! らうみぃにちゅいていけないみゃ」
「あぶぶ」
「みみはもうちゅかれたみゃ。ももじゅーしゅを、ようきゅうしゅりゅみゃ」
「何を言っている。私に会いに来たのだろう?」
「あばー」
そうだった。魔王に相談だ。これから16年後くらいに、人の国に攻め込むのは止めて欲しいんだ。
と、俺は前置きもなしに直球で話した。だって時間がないからな。
「16年後だと? そんな事は分からないだろう?」
「あぶぶ」
分かるんだよ。俺は一度それを経験しているんだ。一度死んでやり直しているんだからな。
「何!? そんな事があるのか? お前は何か加護を持っているのか?」
「あぶ?」
加護? そんなの持ってないだろう? 知らねーけど。
てか、それより時間がないんだ。俺は濃い魔素と瘴気に弱いからさ。
「ああ、人間だからな」
「あぶ」
「らうみぃ、もうやばいみゃ」
考えておいてくれよ。また来るからさ。
「は? 何なんだ、お前は?」
「あぶあー」
「らうみぃ、かえるみゃ!」
また来るからさ! じゃーなー! 邪魔したな!
と、またミミと転移して上空に戻った。あっという間だった。これは時間が足らないぞ。まともに話もできやしない。
大きくなったミミの上に俺は座っていた。両足を伸ばして腕を組んで座っている。飛んでいるというのに。
「らうみぃ、てをはなしたららめみゃ!」
「あぶ」
大丈夫だって。ミミが固定してくれているからさ。