78ー魔王城
「しゅっぱちゅみゃ!」
ミミが前と同じ様に俺を背中に乗せてくれる。ちゃんと落ちない様に固定してくれてだ。
「らうみぃ、まえよりしっかりかじぇまほうをちゅかうみゃ。かじぇがあるからみゃ」
「あぶ」
おう、了解だ! 精霊女王の世界と違って普通に風があるからだな。
「気を付けるのよ! 私も見ているけど、長くいては駄目よ!」
「あばー!」
ミミが大きく羽ばたいて上空へ浮かび上がる。そのまま、風を切る様に飛んだ。
「あばー!」
スゲーな! 前に精霊女王の世界で、飛んだ時とは全然違う。
見る見るうちに景色が変わって行く。
「てんいみたいなもんみゃ。しぇいれいはちゅかえるみゃ」
「あばば!?」
説明されても全く理解できないんだけど、とにかく精霊が精霊界から移動する時に使うものらしい。そのミミの転移らしきもので、俺達の世界へと飛んでいるんだ。光がどんどん流れて行く。
そのうち、何か膜をトプンと突き破った感覚があって真っ暗な世界に変わった。俺達が住んでいる世界に出たんだ。
空には俺のよく知っている大小二つの月が出ている。今夜は月の光で明るい位だ。
眼下にはもう大きな山脈が見えてきた。あの山脈が俺達人間が住む国と、魔族が住む国を分けている山脈だろう。
万年冠雪のある大きな山脈だ。人を寄せ付けない険しさがあり、この世界を分断している。実際にあの山脈を超えた人類はいないという。
「あぎゃー!」
「らうみぃ、こうふんしすぎみゃ!」
「あばばば!」
だって、凄いじゃないか! あっという間だ! 一瞬でここまで来たのか!?
前の時にこの山脈付近まで来るのに、どれだけかかったと思っているんだ。
「みゃみゃみゃ、みみなら、らくしょうみゃ」
「あぶー!」
アハハハ! 本当にミミは凄いんだな! よく分かったよ。なのにどうしていつもあんな感じなんだ? とっても残念だぞ。
「みゃ!? しょんなことないみゃ! みみはいちゅも、かっちょいいみゃ!」
「あぶぶー! キャッキャ!」
思わず手を叩いて笑ってしまった。
「らうみぃ、てをはなしたらだめみゃ!」
「あぶ!」
おう、忘れていた。でもミミが固定してくれているから平気だろう?
「みみがこわいみゃ!」
「あばばー!」
何が怖いんだよ! 怖くないさ! 爽快だ! これはずっと飛んでいたいなぁ。
「なにいってるみゃ! ほら、みえてきたみゃ。まじょくのくにみゃ」
「あぶ」
ミミにそう言われて、前を見る。それまで空気が澄んでいたのに、一気に重苦しい空気に変わる。魔族の国の上空にまで暗く霞んで見える。
これが魔素なのか? いや、瘴気なのか? 俺には分からないけど、良くない物だという事だけは分かる。
「もう、しーるろをはるじゅんびしゅるみゃ!」
「あば!?」
もうなのか!? 俺のシールドは数分しか持たないんだぞ。今から張ったら、魔王とほんの少ししか話せないじゃないか!?
「みみにのってるあいだは、みみがしーるろをはってるからへいきみゃ。けろ、まおうじょうは、しゅぐしょこみゃ!」
重苦しい空気の世界、その中央に高くそびえる城らしき建物が見えてきた。
尖った屋根が空に向かって高くそびえる城だ。周りが暗いから、黒く見えるけどそうじゃないらしい。いや、屋根は真っ黒だ。
きっとこの地で採れる鉱石を使っているのだろう。それでも壁に大きな棘のある蔦が絡みついていて、不気味で気味が悪い。無意識に背筋が寒くなる。
よく見ると蝙蝠の様な黒い何かが、城の周りを飛んでいる。月明りで逆光になっていて、黒いシルエットだけが分かる。
「ぶぶぶ」
思わずブルブルッとしたら、ミミが慌て出した。
「らうみぃ! でるみゃ!?」
「あばー」
なんだよ、そっちかよ。違うぞ、武者震いだ。
「びっくりしたみゃ。みみのうえでしたらいやみゃ」
「あぶ」
おう、極力考慮する。だけどあれはコントロールできないからな、確実ではない。
「みゃみゃみゃ! はやくかえるみゃ!」
「あばばば」
アハハハ! 大丈夫だって! 寝る前にしたからさ。
「わらってないれ、しーるろはるみゃ」
「あぶ」
ミミの背中でシールドを展開する。
「いくみゃ! てんいみゃ!」
「あばー!」
おうッ! 魔王城のどこに魔王がいるのかも分からない。だけど城の中に、ぼんやりと灯りがついている部屋が見えた。そこを目掛けて転移したんだ。
瞬きるする暇もなく周りの景色が変わる。屋外から部屋の中へと転移した。
「あばばばー!」
ボフン! と、何か柔らかいものの上に俺は着地した。いや、落ちた。お尻からボフンとだ。
柔らかいぞ、ベッドの上らしい。
「ぶふッ!」
ん? 声がしたぞ? 誰かいたのか!? 逃げないと! 魔王じゃない奴だったらまずいぞ!
「らうみぃ! なんれここみゃ!」
いつの間にか小さくなったミミもいた。空で待っていてくれれば良いのに。パタパタと羽ばたいて、叫びながら飛んでいる。
「らうみぃ! らうみぃ!」
「あぶばー! あばばー!」
ミミと二人で大騒ぎだ。ここは何処だ!? 今のは誰の声だ!?
「なんみゃ!? らうみぃ、ろこにしゅわってるみゃ!?」
「あばば!?」
え? と俺は自分のお尻の下を見ると、真っ黒で高級そうな服を着た男性が俺のお尻の下敷きになっていた。しかも顔面だ。おれは誰だか分からない魔族の顔面に落下したらしい。