77ー精霊界
俺が知らなかっただけなのかも知れないけど、前の時には精霊女王なんてワードは出てこなかった。
もう一度、チャンスをもらえたのだと思う。それはとんでもなくラッキーな事なんだ。ラッキーなんて軽い言葉じゃ合わないけど。
今回俺は精一杯やると決めたんだ。
だからさ、母上。心配しないで欲しい。ちゃんと帰ってくるからな。
その日の夜、精霊女王に呼ばれた。さあ、決行だ。
流石のミミも今日は起きていた。いつも起こしても起きないのに。
「みゃみゃ! みみはしょんなに、ひろくないみゃ!」
「あぶぶ」
はいはい、そういう事にしておいてあげよう。
精霊女王が言うには、この精霊女王の世界から自分の身体に戻り、実体を持ったまま精霊界へと移動する。
何故なら精霊界を経由すると、時間の進み方が違うらしい。
例えば、精霊界を経由して魔王城へ行く。1時間かかる場所だったとしても、こっちの世界ではほんの数分にしかならないらしい。どういう原理でそうなるのかは知らないけど。
魔王に会うのが目的なのだから、精神だけでは駄目だ。ちゃんと身体ごと向かう。
その間、おフクにバレないようにと精霊女王が融通してくれた。本当、世話になるね。
「ラウ、良いかしら。一度身体に戻るわよ」
「あい!」
「まあ、良いお返事だわ」
ふふふ、だって張り切っているからな。念願の魔王城だ。俺のやり直しの第一歩だ。
ふと、身体が重くなった様な感覚を覚えた。次の瞬間には俺のベッドの中だった。身体に戻ってきたんだ。
それからは精霊女王にお任せだ。俺はなんにもできない。
「まかしぇるしかないみゃ」
「あぶ」
ミミも出来ないのか?
「あれは、しぇいれいじょうおうと、しぇいれいおうしかできないみゃ」
「あぶー」
ほう、ならとっても貴重な体験をしているんだな。
「ありしあしゃまは、いちどらけあるみゃ」
「あば!?」
なんだって!? じゃあ母は精霊界に行った事があるのか!?
「なんら、しらないみゃ?」
「あぶぶ」
初耳だぞ。母は一体何をしているんだ?
「しぇいれいじょうおうに、あうためみゃ」
「あぶぶ」
そんな無茶をしていたのか!? 母はどうしてそこまで……?
「ちちしゃまのためみゃ」
「あばー」
父の為なのか。父の為に何をしようとしていたんだ?
「ラウ、それはあなたがもっと大きくなったら、直接アリシアから聞きなさい。ミミもそれ以上は駄目よ」
「あぶぅ」
「わかったみゃ」
なんだか聞くのが怖いような気もするぞ。
「ラウはアリシアそっくりだわ。本当に親子で無茶をするんだから」
やっぱ母は無茶をしたんだ。そりゃそうだよな。母から精霊女王に会おうとしていたのだろう? どうやって精霊界に行ったんだ? 今の俺の状態とはまた違う。
「そうね、違うわね。でも、私はそんなあなた達の気持ちを尊いと思うわ。だから協力しているのよ。使い魔だってそうだわ。アリシアの気持ちに打たれて、使い魔を出す事にしたの」
「あぶ」
じゃあ、前の時には使い魔っていなかったのか?
「エレメンタラーだもの、アリシアには付いていたわよ。でもラウやライナスにはいなかったわね」
「あぶぅ」
そうだよな、俺には確実にいなかった。使い魔がいたなら、もしかしたらあの最後を回避できたかも知れないだろう?
「それはどうかしら? あの時はあの結末に動いていたもの」
俺が初めて聞く話をしながら、精霊女王は精霊界へと連れて行ってくれた。精霊女王が腕をフワリと動かすと俺の身体の周りにキラキラと光る粒子が纏わりついた。そのまま視界が代わり、周りの景色が光る川の流れの様になって動いていた。
その間、精霊女王は話してくれていたんだ。俺が恐怖心を持たないようにしてくれたのかも知れない。
光りが途切れると、そこは輝く樹が沢山生えた世界だった。樹だけじゃない、緑の葉を伸ばしながら花々が咲き乱れている。
少し離れた場所には、光の粒子を放ちながら小川が流れている。
空気が違う……いや、何もかもが違う。何もないのに、キラキラと光ってみえる。眩しさに眼が眩む様な感じまでする。
その輝く様な景色のずっと向こうに大きな樹が見えた。
その幹は遠くからでも太いと分かるほどで、枝葉は上空へ向かい天に届くかの様に伸びている。低い雲を突き抜け、何処まで伸びているのか先端が見えない。あれが世界樹なのだろう。
精霊界に到着したんだ。その樹が例のピーチリンだ。ミミだけじゃなく、精霊はみんな大好きピーチリン。
「みゃみゃみゃ! いっこらけたべたいみゃ!」
「ミミ……」
「らって、ひしゃしぶりみゃ!」
ミミを見ていると、心が和むぞ。ちょっと俺は緊張していたみたいだ。いつの間にかギュッと手を握りしめていた。
本当にピーチリンが大好きだな。
「あぶー」
「しょうみゃ? しゅぐたべるみゃ!」
はいはい、一個位良いぞ。ゆっくり食べな。待ってるからさ。
「みゃみゃみゃ! らうみぃ、いいこみゃ!」
「あらあら、ミミ。終わってからの方が美味しく食べられるわよ」
「みゃ!? しょうみゃ!」
「ええ、終わってからゆっくり食べる方が良いと思うわ」
「しょれもしょうみゃ」
なんだよ、どっちでも良いけどさ。どうするんだ?
「しゃきにいくみゃ!」
「あぶ!」
よしッ! じゃあ、行くか!