75ーミミの寝起き
翌日、俺はいつもより遅い時間に眼が覚めた。精霊女王の世界に行って、ミミに乗ったから少し疲れていたのかも知れない。初飛行だったのだ。
その目覚めがまたあれだよ。出ちゃって眼が覚めたんだ。本当、どうにかならないものか。
おフクー! 出ちゃったよー!
「ふ、ふ、ふぎゃー! ぶきゅー! あぎゃー!」
「あらあら、はいはい、オムツですね」
「あぶあー!」
おフクはもうよく分かっている。朝一で俺が泣けば、オムツだと分かっている。
「よく眠っておられましたね」
「あぶぅ」
「お腹空きましたか?」
「あうぅ、ああーちゃ?」
「奥様はもう食べられましたよ。ですのでこちらにお食事を持って参りますね」
「あうあー」
え、俺ってそんなに寝ていたのか? と、自分でも驚いたくらいだ。
よく寝たよ。これで出ちゃったりしなかったら、もっと寝ていたかも知れない。
おフクが俺の離乳食を持ってきてくれた。ベビーチェアに座らせてもらって、俺用の小さなスプーンを持って食べる。
「あぶあぶ」
「よーく噛んでくださいね」
「んまんま」
「はい、良かったですね」
ほら、凄くないか? おフクったら俺と会話しているぞ。
そんなところに母がやってきた。
「ああちゃ!」
思わずスプーンを持っていた手を、ブンッと上げてしまった。当然、スプーンに残っていた離乳食が飛んじゃった。
「ラウ、おはよう。スプーンを振り回したら駄目よ」
「ああーちゃ」
「ふふふ、ほっぺにも付いているわ」
優しく俺のほっぺを拭いてくれる。ふふふ、平和な朝だ。
「んまんま、ああちゃ」
「そう、沢山食べるのよ」
「あい!」
あーんと大きなお口をあけて、スプーンでハムッと……ハムッとだな。普通に口に入れているつもりが、ほっぺに付いてしまう。大きなお口を開けているのになぁ。
「あら? ミミはまだ起きていないの?」
「あぶ」
そうだ、忘れてた。静かだと思ったら、ミミはまだ俺のベッドで大の字になって眠っていた。
いつもの、桃ジュース飲むと言わないと思ったら。
「ラウ、もしかしてあなた達……」
「あば?」
「いえ、なんでもないわ。まさかね……」
なんだ? なんだか含みのある言い方だな。母は何を思っているんだ?
「ああちゃ?」
「ふふふ、なんでもないわよ。ミミを起こそうかしら」
スタスタとベッドの側に行った母は、パシッとミミを叩いた。いきなりだ。容赦ないな。
「あら? 起きないわね」
「あぶぶ」
ミミは起きないんだよ。いつもそうだ。なにしろ精霊女王に呼ばれていても、起きないんだから相当なもんだ。
母は何度かミミを叩いた。それでもミミは起きない。
もしかしてミミも疲れているのかな?
そう思いながら、モグモグと食べる。もしかして、桃ジュースと耳元で言ったら起きたりして。プププ。
「あーぶぶぶ」
「坊ちゃま、余所見しないで食べましょうね」
「あう」
余所見していると、お顔が凄いことになってしまう。口の周りだけじゃなくて、色んなところに付いてしまう。手がね、勝手にほっぺの方にいったりするのだよ。まだ赤ちゃんだからな。
「ぶきゅー、んまんま」
「はい、美味しいですね」
足をグングンと突っ張って動かしながら、ご機嫌に食べている。
その間も母は、ミミを起こそうとしている。
「駄目だわ、全然起きないわ。どうなっているのかしら?」
「あぶぅ」
どうなっているも何もないな。ただ、鈍感なんだ。
「あばー、みゃみゃー!」
おーい! ミミ、桃ジュースがあるぞー!
「ふがッ」
お、反応したぞ。
「ふふふ、坊ちゃま、もしかして桃ジュースですか?」
「あう!」
「まあ、なんて食いしん坊なのかしら」
ふふふ、ミミは桃ジュース命だからな。
母がミミの顔の横に近付いた。そして、大きな声で言った。
「桃ジュース飲んでしまおうかしら!」
「みゃッ!?」
アハハハ、ミミったら引っ掛かった。めっちゃ反応しているじゃないか。
「ミミ、起きなさい。桃ジュースあげないわよ」
「みゃみゃ! ももじゅーしゅみゃ!」
飛び起きたミミ。キョロキョロしている。理解できていないな。そして、離乳食を食べている俺を見た。
「みみも、ももじゅーしゅのむみゃ!」
母にパシッと叩かれた。ま、当然だな。
「みゃ!? ありしあしゃまみゃ!?」
「ミミ、どれだけ起こしても起きないのね」
「みゃ? しょんなことないみゃ?」
「そんな事あるのよ。ほら、フクに桃ジュースを貰いなさい」
「みゃみゃ!」
パタパタと飛んできたミミ。ミミのお皿に桃ジュースを入れてもらって飲んでいる。
「本当にミミで大丈夫なのかしら? 不安になっちゃうわ」
「ぶぶぶ」
まあ、そうだな。でもミミもやる時はやるぞ。多分だけど。昨夜はミミに乗って爽快だった。
これで準備万端だ。今夜にでも行きたいぞ、魔王城へ!
「あば!」
「坊ちゃま、また手を上げたら駄目ですよ」
「あぶぶ」
つい、手を掲げてしまった。気合が入っちゃうよね。いよいよ魔王城だ。
俺の改革の第一歩だ。魔王とお友達になろう作戦始動だぜ。
「ラウ、あなた何を考えているのかしら? 母様はとっても不安だわ。どうしてかしら?」
「ああちゃ」
ふふふ、大丈夫だって。母を悲しませたりなんかしないさ。