表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/207

7ーお見通し

 俺は精神をゴリッゴリに削られながらも、やり直しらしい今生を受け入れた。

 だけど神がいるのなら、本当に0歳児はやめてほしかった……切実に思う。


 俺が大きな声で泣いたからか、両親が部屋にやって来た。


「ラウの酷く泣く声が聞こえてきたぞッ!」

「はい、お腹が空いていらしたようです」

「まあ、そうなのね。それなら良かったわ」

「あの事件以来、ラウは酷く泣く事が多くなったように思う。そんなに怖い思いをさせやがって!」

「そうですね。覚えておられるのかも知れませんね」


 乳母のおっぱいを飲んでいる俺の頭を、母が優しく撫でてくれる。

 じわりと汗をかいている所為で、額に張り付いた髪を撫で上げてくれる。おっぱい飲むのも体力がいるらしい。

 流石に父は離れて別の方向を見ている。フクがおっぱいを飲ませてくれているから。


「もうよろしいのですか?」

「んぐぅ」

「はいはい、ゲップしておきましょうね」


 縦に抱っこして俺の背中をトントンとする。これにも抗えない。


「けぷっ」

「はい、お上手ですよ」


 ふう~、お腹がいっぱいになった。


「あうあー」

「あら、ご機嫌になったかしら?」


 俺は母に手を伸ばす。そんな俺を優しい眼差しの母が抱っこしてくれる。

 この年で抱っこも何なのだけど。中身は17歳なのだから。

 どうしてこんな事になったのかは分からない。だけど、これは俺に与えられたチャンスだと思う……事にする。

 俺はこの先を知っているんだ。なら打つ手もあるだろう?

 今度こそ、家族と婚約者の彼女を守るんだ。


「ラウ、少し話をしよう。大事な話だ」


 赤ん坊の俺に父が真剣な顔をして言った。

 なんだ? 俺、赤ん坊だよ?


「ばうばうぅ」

「ラウ、お前が助け出された時だ。あの邸宅は半壊だった。知っているな?」

「あうぅ」

「あれはお前がやったのだろう?」


 生後半年の俺に何を聞いているんだ。それに、何をどう考えたらその結論に達するんだ。

 俺は今は赤ちゃんだ。可愛い可愛い赤ん坊。喋れないし、立って歩く事もできない。

 だからこんな話は理解できなんだよ。と、スルーしておこう。ちょっと変な汗が出てきそうだけど。


「ぶぶぅ」

「ラウ、(とぼ)けても無駄だ。私の目は誤魔化せないぞ」

「ばぅぅ」


 父がこんな突拍子もない考えに行きついた理由を話してくれた。

 その後の現場検証だ。どう見ても、爆心地(と、一応言っておこう)が俺の寝かされていた部屋だ。一番被害が大きいのだから、それは当然だろう。

 その中で、俺は無傷で助け出された。

 まずそこで、どうしてだ? と、思ったらしい。


「うちのラウだからこそ起きた奇跡かッ!? とも最初は思ったのだが」


 なんて親ばか発言なんだ。

 だが父は、冷静になって考えた。貴族の邸宅が半壊しているんだ。屋根だって吹き飛ばされている。なのに、俺は無傷だった。

 無傷だと? 運が良いどころの話ではない。不自然すぎる。それこそ奇跡だ。一体何かあったのだ? と、とっても引っ掛かった父は、魔術師を連れて現場を調査確認したらしい。

 どうして、魔術師なのか? ここがポイントだ。

 魔術師の中でも、現場に残った僅かな魔力残滓(ざんし)で魔法を使った痕跡や内容を予測し、分析するのが得意な者がいる。その魔術師を連れていったんだ。

 なんて勘がいいんだ。


「その結果だ。お前が寝かされていた場所。そこで強い魔法の反応を感知した」


 おふッ。なんだ、半分以上バレているぞ。


「あうあー」

「ラウ、何度も言うが惚けても無駄だ」


 父の鋭い視線が怖い。耐えかねて思わず目を逸らしてしまう。

 空気が重いぞ。針の(むしろ)とはこの事だ。

 俺は自分のぷくぷくな指を触って、気を逸らそうとする。いやもう、逃げ場がなさそうで父の視線が痛い。


「私は怒っているのではない。ラウが魔法を使ったのだとすると、それを隠さなければならない。どうしてだか分かるか?」


 隠す? そりゃまあ、赤ちゃんで魔法が使えるなんて、とんでもなく変だろう。


「お前が考えているような軽い問題ではないのだぞ。普通ではないという事は分かるな? そして、そんな普通ではない力を持った者はどう見られるのかだ」


 そりゃ、普通に考えて脅威と取られるか、好奇の目で見られるか?


「兄上はそんな事はしないだろうと思う。だが、国としてと言われると抵抗できなくなってしまう。保護するという名目で、ラウを幽閉するか若しくは管理下において監視するかだ。どちらにしても自由はなくなる」


 え……それは嫌だぞ。そんな事になったら婚約者と会えないじゃないか。

 折角やり直すチャンスを貰ったのに、そんな事になるのか?


「私の大事なラウに、そんな思いをさせて堪るか! それを回避しようとしているんだ。だから、ラウの能力を知っておきたい。分かるか? しっかり隠してラウを守りたいんだ」


 そうなのか? と、俺は父を見る。そして、抱っこしてくれている母もだ。

 母は優しく微笑んでいた。


「心配しなくて良いのよ。ラウは私達の子供だもの。ちゃんと親である私達があなたを守るわ」

「そうだ、私が何としても守るぞッ!」


 ああ、きっともう確信を得ているんだ。


お読みいただき有難うございます!

今日は複数話投稿するかも知れません。

序盤はいつもより真面目な感じで書いていたのですが、先はどうなる事やら?^^;

宜しければ、評価やブクマをして頂けると嬉しいです!

宜しくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
0歳児がそれを意図して行って、自分の言っていることを理解していると、この父親は本気で考えているのでしょうか? この世界ではそういう事もあるのでしょうか? そうでないのなら、かなり正気を疑う考えなの…
[良い点] 0歳児の大賢者様のお父様はまるっとお見通しですねσ^_^; これは白状するしかない‼️ 貴方のお父上様は偉大です。 二人に任せておけば大丈夫。 [一言] テンポ良く笑いを堪えてあっという…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ