7ーお見通し
俺は精神をゴリッゴリに削られながらも、やり直しらしい今生を受け入れた。
だけど神がいるのなら、本当に0歳児はやめてほしかった……切実に思う。
俺が大きな声で泣いたからか、両親が部屋にやって来た。
「ラウの酷く泣く声が聞こえてきたぞッ!」
「はい、お腹が空いていらしたようです」
「まあ、そうなのね。それなら良かったわ」
「あの事件以来、ラウは酷く泣く事が多くなったように思う。そんなに怖い思いをさせやがって!」
「そうですね。覚えておられるのかも知れませんね」
乳母のおっぱいを飲んでいる俺の頭を、母が優しく撫でてくれる。
じわりと汗をかいている所為で、額に張り付いた髪を撫で上げてくれる。おっぱい飲むのも体力がいるらしい。
流石に父は離れて別の方向を見ている。フクがおっぱいを飲ませてくれているから。
「もうよろしいのですか?」
「んぐぅ」
「はいはい、ゲップしておきましょうね」
縦に抱っこして俺の背中をトントンとする。これにも抗えない。
「けぷっ」
「はい、お上手ですよ」
ふう~、お腹がいっぱいになった。
「あうあー」
「あら、ご機嫌になったかしら?」
俺は母に手を伸ばす。そんな俺を優しい眼差しの母が抱っこしてくれる。
この年で抱っこも何なのだけど。中身は17歳なのだから。
どうしてこんな事になったのかは分からない。だけど、これは俺に与えられたチャンスだと思う……事にする。
俺はこの先を知っているんだ。なら打つ手もあるだろう?
今度こそ、家族と婚約者の彼女を守るんだ。
「ラウ、少し話をしよう。大事な話だ」
赤ん坊の俺に父が真剣な顔をして言った。
なんだ? 俺、赤ん坊だよ?
「ばうばうぅ」
「ラウ、お前が助け出された時だ。あの邸宅は半壊だった。知っているな?」
「あうぅ」
「あれはお前がやったのだろう?」
生後半年の俺に何を聞いているんだ。それに、何をどう考えたらその結論に達するんだ。
俺は今は赤ちゃんだ。可愛い可愛い赤ん坊。喋れないし、立って歩く事もできない。
だからこんな話は理解できなんだよ。と、スルーしておこう。ちょっと変な汗が出てきそうだけど。
「ぶぶぅ」
「ラウ、惚けても無駄だ。私の目は誤魔化せないぞ」
「ばぅぅ」
父がこんな突拍子もない考えに行きついた理由を話してくれた。
その後の現場検証だ。どう見ても、爆心地(と、一応言っておこう)が俺の寝かされていた部屋だ。一番被害が大きいのだから、それは当然だろう。
その中で、俺は無傷で助け出された。
まずそこで、どうしてだ? と、思ったらしい。
「うちのラウだからこそ起きた奇跡かッ!? とも最初は思ったのだが」
なんて親ばか発言なんだ。
だが父は、冷静になって考えた。貴族の邸宅が半壊しているんだ。屋根だって吹き飛ばされている。なのに、俺は無傷だった。
無傷だと? 運が良いどころの話ではない。不自然すぎる。それこそ奇跡だ。一体何かあったのだ? と、とっても引っ掛かった父は、魔術師を連れて現場を調査確認したらしい。
どうして、魔術師なのか? ここがポイントだ。
魔術師の中でも、現場に残った僅かな魔力残滓で魔法を使った痕跡や内容を予測し、分析するのが得意な者がいる。その魔術師を連れていったんだ。
なんて勘がいいんだ。
「その結果だ。お前が寝かされていた場所。そこで強い魔法の反応を感知した」
おふッ。なんだ、半分以上バレているぞ。
「あうあー」
「ラウ、何度も言うが惚けても無駄だ」
父の鋭い視線が怖い。耐えかねて思わず目を逸らしてしまう。
空気が重いぞ。針の筵とはこの事だ。
俺は自分のぷくぷくな指を触って、気を逸らそうとする。いやもう、逃げ場がなさそうで父の視線が痛い。
「私は怒っているのではない。ラウが魔法を使ったのだとすると、それを隠さなければならない。どうしてだか分かるか?」
隠す? そりゃまあ、赤ちゃんで魔法が使えるなんて、とんでもなく変だろう。
「お前が考えているような軽い問題ではないのだぞ。普通ではないという事は分かるな? そして、そんな普通ではない力を持った者はどう見られるのかだ」
そりゃ、普通に考えて脅威と取られるか、好奇の目で見られるか?
「兄上はそんな事はしないだろうと思う。だが、国としてと言われると抵抗できなくなってしまう。保護するという名目で、ラウを幽閉するか若しくは管理下において監視するかだ。どちらにしても自由はなくなる」
え……それは嫌だぞ。そんな事になったら婚約者と会えないじゃないか。
折角やり直すチャンスを貰ったのに、そんな事になるのか?
「私の大事なラウに、そんな思いをさせて堪るか! それを回避しようとしているんだ。だから、ラウの能力を知っておきたい。分かるか? しっかり隠してラウを守りたいんだ」
そうなのか? と、俺は父を見る。そして、抱っこしてくれている母もだ。
母は優しく微笑んでいた。
「心配しなくて良いのよ。ラウは私達の子供だもの。ちゃんと親である私達があなたを守るわ」
「そうだ、私が何としても守るぞッ!」
ああ、きっともう確信を得ているんだ。
お読みいただき有難うございます!
今日は複数話投稿するかも知れません。
序盤はいつもより真面目な感じで書いていたのですが、先はどうなる事やら?^^;
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