69ーあんよが上手
ミミの桃ジュースは置いといて……俺のパーフェクトなヨチヨチ歩きを張り切って披露してあげよう。
「ああちゃ」
「あら、ラウ。降りるの?」
「あう」
母の膝から下してもらい、スタンバイだ。
可愛いベビーシューズを履いた小さな足に力を入れて、身体のバランスを取る。
「あぶぶぶ」
「ラウ坊ちゃま、フクのところまで歩けますか?」
少し離れた場所にいたおフクが、しゃがんで両手を広げてくれている。
よし、そこまで歩くぞ。と、最初の一歩を出す。
「ぶばー」
「はい、フクですよ」
「まあ、ラウったら。ふふふ」
母は優雅に四阿でティータイムだ。それでもちゃんと、俺を見てくれているのが分かる。
両手にまで力が入る。バランスをとって足に力を入れて、もう一歩。
ヨチヨチとゆっくりとだが、歩みを進める。
「あぶぅ」
「はい、お上手ですよ」
「ぶばー」
おフクが満面の笑顔で、待っていてくれる。おフクの手の中まであと数メートル。
「あうぅ……ぶぶ、あばー」
「もう少しですよ」
「あぶあ」
ヨチヨチ、ヨチヨチと足を進めて、おフクの腕の中へ飛び込んだ。
「ぶばー! あばー」
「坊ちゃま! お上手です!」
「ラウ、凄いわ」
「ああちゃ」
母が手を叩いてくれる。そこにどこからか父の声がした。ああ、相変わらずだよ。
「ラウゥ―ッ!」
邸から、大きな声で俺の名を呼びながらダッシュしてくる。
ほら、後ろからアンジーさんも追いかけてきているぞ。
「殿下! だからどうしていつもいつも突然走るんっすか!?」
「馬鹿かアンジー! ラウが歩いたのだぞぉッ!」
はいはい、走らなくても俺はここにいるんだから。
「ちゃーちゃ」
ビュンッと走ってきて、フクの腕の中から俺をヒョイと抱き上げた。そしてクルクルと回った。
おいおい、はしゃぎすぎだろう。
「ラウ! 素晴らしい! 流石私の子だッ!」
今度は高い高いだ。
「キャッキャ! ちゃーちゃ! あば!」
「そうだ! 父様だぞぉッ!」
アハハハ! どんだけ嬉しいんだよ。こんな父の顔を見た事がなかった。
いつもは鋭い眼が、これでもかと優しく垂れている。嬉しそうに顔を輝かせながら、俺を高い高いしている。まるで子供の様だ。
「ちゃーちゃ! キャハハッ!」
「なんスか、殿下。子供ッスね」
「煩いぞ、アンジー!」
そうだ、アンジーさんも付いて来ていたんだった。
「あーじゅしゃ!」
「おおー! 俺の事覚えてるッスか!?」
何を言っているんだ、当たり前じゃないか。あれ程何回も会議で一緒だったのだから。
例の真紅の髪の女性の騒ぎが一段落して、今は落ち着いているらしい。今日もずっと邸にいるし。
「ちゃーちゃ、あぶあー」
「ん? なんだ、ラウ」
降ろせと俺は身体を捩る。俺は母のところへ行きたいんだよ。ちょっと頑張って歩いたし、母の膝の上で、美味しいりんごジュースを飲むんだ。
「お? 降りるのか? そうか?」
なんでそんな残念そうな顔をするんだよ。ちょっと降りるだけじゃないか。
地面にヨイショと立った俺は、フンスッと鼻息も荒くまたヨチヨチと歩く。
母に向かって、一歩ずつだ。歩く感覚が分かってきた。前よりずっと安定していると思うぞ。
ヨチヨチと数メートルをやっとで歩いて母の膝に抱きつく。
「ああちゃッ!」
「ラウ、りんごジュースね」
「あう!」
ヒョイと片手を上げた拍子にポテンと尻餅をついてしまった。
「あば!」
「あらあら、坊ちゃま」
おフクが慌てて抱き上げようとするのだけど、それを小さな手を出して待てと意思表示する。
「あぶぶ」
「あら、大丈夫ですか?」
「あばー……んしょ!」
ヨイショと自分で立ち上がる。そして、ドヤァッと胸を張る。
「まあ、ふふふふ。ラウ、偉いわ」
「ああちゃ」
抱っこして! お膝に乗せてと両手を出す。母の膝の上が一番なんだ。もちろんおフクもだぞ。
「ラウ、父様が座らせてやろう」
「あば」
ビシィッと片手を出して、それは嫌だと訴える。すると父は寂しそうな顔をするんだ。どれだけ子煩悩なんだよ。
無事に母の膝に座らせてもらって、俺は両手でコップを持ってりんごジュースをチュウチュウと飲む。美味いぜ。
「みみも、ももじゅーしゅのむみゃ」
「はい、ミミちゃん」
ミミは桃ジュース命だな。お腹がタプンタプンになってしまうぞ。
そんな平和な毎日を過ごしていたのだけど、シールドを張る練習はちゃんとしていたんだ。
俺はやると言ったらやる男なのだよ。ミミが先生というのが心許無いのだけど。
毎日母の眼を盗んで、せっせとシールドの練習だ。だって母は鋭いから。
「あぶぶぶ」
「みゃみゃ、もうしゅこしみゃ」
「あばばばば」
「みゃみゃ、いいかんじみゃ」
「あぶぅ~」
ちょっと疲れたな。ふぅ~、オヤツが食べたいぞ。
「みみは、ももじゅーしゅみゃ」
「あぶぶ」
言わなくても分かるぞ。
「みゃ? しょうみゃ?」
おう、そうだな。何かといえば、桃ジュースだからな。ちょっとの時間でも桃ジュースを飲もうとするのだから。
「ぶきゅー」
「あら、坊ちゃま。もしかしてフクって呼んでくださいましたか?」
「あう、ぶきゅー」
「まあまあ、お上手になりましたね」
「んまんま、あぶあー」
「はい、オヤツですね。ご用意していますよ」
「あば」
どうだよ、おフクの呼び方もバージョンアップだ。ちょっとずつだけど、フクって発音に近くなっているだろう?
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