67ー母の仕業
父がどうして俺達より先に登城していたのか。それは先に城に護送したあの隣国の者達の件だ。
呪詛を使う種族だ。男達は呪詛は使えなくても、気配を消されたりしてしまうと簡単に逃げ出せる。
その者達の今後の処遇だ。男達はこの国の魔術師達の力で魔法を封じられた。もちろん気配を消したりなんてできない。身体的な能力をダウンさせる魔道具も付けられている。
男達はそれで良い。その状態で、この国での労働が課せられる事になった。
送り返すかという話も出たらしい。だが、男達全員が帰りたくないと震えながら訴えた。このまま国に戻されると自分達の命はないと。
殺される位ならこの国で労働する方がマシだと考えたのだろう。
それ程の国なのだ。確実に全員、命がないと当然の様に考えていた。
この者達を材料に、国と交渉する事も有りなんだ。それなのに、今回王はその選択をしなかった。何故なら……。
「あの国と真面に交渉できる筈がない」
その王の一言で皆納得したらしい。一体どんな国なんだ。俺は全然知らないのだけど。
下手に交渉しても余計に問題が拗れて大きくなる。それだけじゃない。
もしも今回の事で、ロックオンされでもしたらその方が厄介だ。皆そう考えているんだ。
だが、文は送るらしい。
お前達の計画は阻止したぞ。二度と手を出してくるな。次はないぞという意味を込めた親書と言う名の抗議文だ。
そして、真紅の髪の女性だ。この女性は呪詛を使う。下手に外には出せない。そして国に帰す訳にもいかない。
勿論、男達と同じ様に魔法を封じられた。そして、特殊な魔道具を装着された。呪詛を掛ける事ができない魔道具で、自分で勝手に外す事ができない。
呪詛は隣国以外では使われていない。使える者がいないんだ。だが魔道具でそれを封じる事はできる。
ジョブでいうと、巫女や祈祷師、聖職者達。それに、まだ生まれていないが俺の妹のジョブ、聖女だ。呪詛は使えないが、それを封じるスキルを持つ。
そのスキルを持つ者達が研究して作られた、呪詛を扱う事ができなくなる魔道具。それを生涯装着しなければならない。呪詛は使えない、魔法も使えない。なんの能力もなくなるという事だ。
それでも、その女性も国には帰りたくないと訴えた。どんな仕事でもすると。だから生かしてほしいと涙ながらに訴えた。
それなら最初から、こんな事をしなければ良いのにと思うのだが。国からの命令は絶対だ。そんなお国柄なのだろう。
どこかでその女性も労働を課せられている事だろう。
その処理を父は先に登城して、やっていた訳だ。ご苦労様な事だ。
城に登城した数日後、俺は相変わらずだ。
「あぶッ! あだッ! あばッ!」
そう、相変わらず足をビシィッと出して訓練していた。短い小さな足をビシィッとだ。
しかしなぁ、あの王妃だ。確かに、厳しいところはあるのだろう。あの小さな王子が委縮するくらいだ。あれはイカンよ、イカン。
子供をあんなに委縮させてどうするんだ。自己肯定感の低い大人に育ったらどうするんだ。
ふむふむ、まあだが思っていたよりは普通の人だった。
最初は、刺々しい雰囲気をビシバシ出していたから、何だこいつは? と思ったが、両親からのプレゼントを見てからは雰囲気が一変した。
気が緩んだのかな? オルゴールのあの音色に、心が穏やかになったのか?
「大成功だったわね」
「はい、奥様」
んん? 何か不穏な言葉を聞いた気がするぞ。
母と母の侍女コニスの会話だ。
そこにキララ~ンとリンリンが姿を現した。
「あぶぅ」
「私は完璧なのよ~ぅ」
「ふふふ、有難う」
「ああちゃ」
「あら、ラウ。久しぶりじゃない~」
「あばー」
リンリンはお姉さんって感じだ。安心感があるよな。ミミとトレードとかどうだ?
「らうみぃ! なんてことをいうみゃ!」
「あぶぶぶ」
アハハハ! 冗談だって。
それよりも、母とコニスの会話だ。
「私が魔法をちょぉ~っとね」
魔法ってもしかして、あのオルゴールにか?
「そうなのよ~ぅ」
なんだそれ!? え? もしかしてあのオルゴールを出してから、王妃の雰囲気が変わったのはその所為なのか!?
「だって、ねえ~」
「王妃様の王子殿下に対する躾けが、厳しすぎると陛下が仰っていたのよ。それでね、懐妊されたからお心が不安定になっておられるのではないかしらと思ったのよ」
ほう、流石母だ。そんな事を考えて、あのプレゼントを用意したのか。
「王子殿下なのだから、多少は仕方ないと思うのよ。でもまだ3歳でいらっしゃるのだもの。そんな幼い頃から厳しくばかりしてもと私は思うのよ。ね、ラウ」
「あばー、ああちゃ」
ま、俺は甘えん坊だけどな。ふっふっふ。
今だって、母の膝の上でペトッと母にくっついている。
母の温もりは子供にとって大事だぞ。と、俺は思う。大きくなったら覚えていないのだけど。
それでも、上から抑えられてばかりなのは駄目だ。王子だぞ。この国を担う人だ。
歪まずに育って欲しい。王は大らかな人なのだろう。王子を見る目も優しかった。
そうか、そうやって王妃を制御できたら、この先生まれてくる王女もあんな風にならないで済むんじゃないか?
「しょれは、わからないみゃ」
「あぶー」
「みらいは、きまってないみゃ」
あ、ミミの癖にちょっぴりかっちょいい事を言ったぞ。
「みみはてんしゃいなのみゃ」
また自分で言ってるよ。
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