65ー王妃と王子
おフクの膝にチョコンと座り、母と一緒に城へと向かう。
馬車の揺れは、おフクの膝で緩和されて丁度良い揺れになっている。
「ふぁ~」
大きな欠伸が出て、目がトロンとしてくる。
「あら、坊ちゃま眠いですか?」
「あぶぅ」
「フクが抱っこしていますから、寝てしまっても大丈夫ですよ」
「あば」
「ラウ、でも王妃様にお目通りする時は寝ていちゃ駄目よ」
「あぶう」
ま、それまで少しだけウトウトしておこう。眠気には逆らえないからな。
城まで直ぐなのだけど、その少しの時間でさえ俺は眠いのを我慢できない。おフクに抱っこされて、そのままウトウトとする。本格的にねちゃうと駄目だ。今日はあの王妃を観察するんだ。その目的がある。ちゃんと起きていないと。
そう思っていたところまでは覚えている。
「ラウ、ラウ、起きられるかしら?」
「んん〜……ああーちゃ……」
母に起こされると、そこはもう城の中の一室だった。謁見室とでも言うのだろうか。
目の前には王と王妃が揃って座っていた。
ビックリしたね。ここはどこなんだ? なんて思ったから。
あれれ? 俺の知っている部屋じゃないぞ。と思ったんだ。そりゃそうだ。城に来ていたのだから。それさえも忘れていた。
「ふ、ふぇ……ああーちゃー……うえーん」
「あらあら、ビックリしちゃったのかしら?」
「ラウル、伯父様だよ。よく来たね。少し大きくなったか?」
「ふぇ……ああちゃ」
「起きたかしら? ラウ、お城に来ているのよ」
「あうぅ、あばー」
おう、思い出した。城に向かっていた馬車の中で眠っちゃったんだな。
目の前に王妃がいるぞ。これはチャンスだ。
俺は王妃をじっと見る。こいつが元凶か。王女をあんな風に育てた張本人だ。
王の隣に一応大人しく座っている王妃。
煌びやかなドレスに少し濃いめの化粧。茶色の髪にマロン色の瞳はこの国では一番メジャーな色だ。それよりも、飾り付けて盛った髪が重そうだ。
美人といえば美人に入るのか? ただ少しつり目だ。その眼で俺を見定めているのか? ずっと俺を見ている。
なんだよ、俺だって負けないぞ。睨み返しでやろうではないか。
「あら、ラウ。どうしたの?」
「ああちゃ。ぶばー」
「フクは後ろにいるわよ」
「ぶぶぶ」
父はどうしたんだ? 先に行っていると言っていたじゃないか。
この場で俺一人で、母とおフクの二人を守るのは心許ないぞ。
「ラウル、少し見ない内に随分としっかりしたね」
「あぶぶ」
王は全然気にしていない様だ。だが、あの王妃からビシビシと感じるぜ。俺や母の事を良く思っていないという感じがさ。
この頃からもう嫉妬心を抱いていたのか? そりゃ王妃と比べると、母の方が美人さんだ。それにジョブだって母の方が希少なものだ。
今の王妃のジョブは何なのだろう? ミミ、分かるか? 念話で教えてくれよ。
『ねんわみゃ? めんどうみゃ』
いいから、分かるのか? 分からないのか?
『わかるにきまってるみゃ。みみはてんしゃいみゃ』
はいはい、だから自分で言うんじゃないよ。それより、王妃のジョブだ。
『しぇんじゅちゅしみゃ』
あん? なんだって?
『らからぁ、しぇんじゅちゅしみゃ』
え? 占術師って言ったか?
『しょうみゃ。まじゅちゅしの、かいみゃ』
え、占いか? 占い師って事なのか?
俺が思っている様な占い師とは少し違う。この世界での占術師というのは、占いだけではなく例えば、雨よ降ってくれーみたいな事もするらしい。それで必ず降る訳ではないのだそうだけど。
この国の未来を占ったりもするらしい。これも当たるとは限らないのだそうだけど。
所謂、当たるも八卦当たらぬも八卦だ。
本当に下位のジョブになっていた。精霊女王の言っていた通りだった。もしかして魔法も使えないのか?
『しぇいかちゅまほうらけみゃ』
あらら、そうなのか。だが、全く使えない訳ではないんだ。
『このくにれ、じぇんじぇんまほうがちゅかえないひとはいないみゃ。しゃいていげん、しぇいかちゅまほうみゃ』
その最低限って事か。ミミの言っている『生活魔法』とは、その名の通りだ。生活に必要最低限の魔法という事だ。
小さな火を灯す、灯りを出す、少しの水を出す、そよ風を起こす、その程度だ。到底攻撃なんてできない。
これは精霊女王、本気でお怒りだという事だろう。
そんな事を俺が考えていると、ドアをノックする音がした。
「入りなさい」
王がそう言うと、ドアを開けて入ってきたのは父だった。ちびっ子も一緒だ。このちびっ子はきっと……ルシアン・クライネン。この国の王子だ。俺より3歳上だ。
王と同じブロンドの髪にスカイブルーの瞳で、雰囲気もよく似ている。そのまま小さくしたような感じだ。
「ちちうえ! らうるにあいにきました!」
「これ、ルシアン。はしたないですわよ」
そう言いながら、手に持っていた扇子をパチンと鳴らす。なんだこの威圧感は。
「あ、ははうえ。もうしわけありましぇん」
王妃に一言言われて、萎縮して小さくなってしまった。3歳児にそんな言い方しなくても良いんじゃないか?