63ージョブが全てじゃない
「みゃみゃみゃ? なんれ、かくしゅみゃ。じまんしゅるみゃ!」
「あばー」
自慢なんてしないぞ。隠すんだ、目立たないようにな。
でないと俺が魔王と隣国を説得できなくて、また戦が起こった時に召集されるじゃないか。
それに、王女だ。今世での王女のジョブは、下位のものになると精霊女王が言っていた。
それは制裁なのだろう。精霊女王も怒っているんだ。
だから、余計に王女の眼に付かない様にしないといけない。
だが、4年後に……いやもう、4年はないのか。妹が生まれてくる。『聖女』のジョブを授かる妹だ。その妹に嫉妬するのが王女と王妃だ。
それは変えようがないのだろうか? いや、妹のジョブを変えるなんて事は考えてはいけない。
妹の人生だ。人のジョブを俺の一存で、変更したりしてはいけない。
なら、あの王女と王妃の嫉妬や妬みは仕方のない事なのか? 避けられないのか?
「しょういうにんげんは、なににたいしても、しっとしゅるみゃ」
ミミが珍しく、真っ当な事を言い出した。
俺達家族に嫉妬や妬みをもったのは、それが一番眼に付いたからだ。それがなくても、きっと他の事に嫉妬するし妬む。そんな心持ちの人間がいるのだと、ミミが言った。
それが俺には馬鹿らしく思える。この世界は確かに一人一人にジョブが与えられる。だが、それが全てじゃないんだ。だからこそ、王妃は下位のジョブでも王妃になったんだ。
なにより、ジョブが下位だからと言って生きていけない訳じゃない。確かに多少の差別は存在する。
それも、ミミがいう様な嫉妬や妬みを持つ人間がいるからだろう。他人は良く見えるんだ。
でも大抵は生活していく上で、ちょっと有利だよ。って、程度なんだ。それに見合った仕事に就ける人がいるのだから。
ジョブは生活していく上で確かに有利だけど、それだけじゃない。ジョブを活かそうとすれば、それなりの訓練が必要になったりする。
なにより、ジョブで人を好きになったり、友人になったりする訳じゃない。
それを忘れてはいけないと、俺は思う。
「らうみぃ……みみはかんどーしたみゃ!」
「あば?」
「しょのとおりみゃ! しょれが、わからないひともいるみゃ」
人間って欲が深いからな。と、いう事で俺のジョブは隠蔽する方向で頼むぜ。
「しょれはむりみゃ」
「あば!?」
「らって、かんていのぎをごまかしゅなんてむりみゃ」
そうなのか? 俺の魔力をもっても無理なのか?
「むりみゃ。しょうきまっているみゃ」
「あぶぅ」
仕方ないな。なら余計にしっかりと戦を阻止しないといけないぞ。
よし、やっぱ魔王に会いに行こう!
「あば!」
俺は手を掲げる。決意表明だ。
腕に輪っかの入ったプクプクの手なんだけど。
「まだしょんなことをいってるみゃ!?」
「あば!」
当然じゃないか! ミミ、行くぞ!
「らめみゃ! しぇめて、もうしゅこししーるろをいじれきるまれ、らめみゃ!」
「あぶぶ」
ええー、もういいじゃん! 行こうぜ! 焦ったいんだよ。
「しょんなちょびっとしか、れきないのに、いってどうしゅるみゃ? なにもはなしぇないみゃ?」
「あばぁ」
む、尤もだ。ミミのくせに正論を言ったぞ。
「らから、みみはいちゅもしゅごいみゃ!」
「あらあら、何のお話ですか? ミミちゃん、桃ジュースですよ。坊ちゃまはりんごジュースです」
「やったみゃ!」
「あう」
仕方がない。もう少し練習するか。話す時間がないと、戦をしないでくれとも言えないだろうし。
てか、魔王も精霊女王みたいに俺が思っている事を読んでくれるよな? そうじゃないと、行っても意味がないぞ。
「みみがいるみゃ」
「あばー」
そうだった。桃ジュースを飲んでばかりだったから、忘れていた。頼んだぞ、ミミ。
「ももじゅーしゅは、いちばんおいしいみゃ」
ピヨピヨと鳴きながら、桃ジュースを嘴で突きながら飲んでいる。
この丸い小さな鳥さんの精霊が、本当は俺が余裕で乗れるくらい大きいなんて思わないだろうな。
そのミミの背にのって、魔王のいる場所まで飛んで欲しいんだ。
流石にどこだか分からない場所へは転移できない。
「みみみゃ?」
「あばー」
俺も足を投げ出して座り、両手でコップを持ってりんごジュースを飲む。
チュゥ~とストローで上手に飲む。
「らうのじゅーしゅも、おいしいみゃ?」
「あう」
「ちょっとみみも、のんでみるみゃ」
「あば」
だから精霊だから駄目だって、リンリンに言われただろう?
「しょうらったみゃ」
本当に学習しない鳥さんだな。
「とりしゃんじゃないみゃ。しぇいれいみゃ」
「あぶぶ……」
ズズズーッと音がして、りんごジュースを飲み終えてしまった。
「あらあら、上手に飲めるようになりましたね」
「あばー」
水分を摂ったら次はあれだ。出ちゃうんだな、これが。
「あぶあぶ、ぶばー」
「はいはい、オムツですね」
「あうあ」
流石だ、おフク。よく分かっている。ちょっとまってね、まだ出ているから。
「ぶぶ……あばー」
「はい、もう良いですか?」
「あう」
よし、頼むよ。
「はいはい、オムツ替えましょうね」
「あぶ」
ふう~、さすがにもう慣れたものだ。俺はいつもの様に自分の両足を持って、オムツを交換してもらう。
あとどれくらい、オムツのお世話にならないといけないんだろう?
少し歩けるようにもなったし、早く自由に動けるようにもなりたいぞ。
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