62ー母の無茶って?
母は精霊と意思疎通ができるだけでなく、精霊女王とも交流がある。それはエレメンタラーの中でも特殊なのだそうだ。
どうして精霊女王と交流を持てたのか? それは教えてくれなかったけど。
「アリシアは私の為に無茶をする」
「あら、そんな事ないですわよ。あなた程ではありませんわ」
おやおや、仲の良い事で。て、母は父の為に無茶をしたんだ。
それを精霊女王は言っていたのかな? 今度詳しく聞いてみよう。
「ラウ、知らない方が良い事もあるのよ」
「あばー」
おっと、母の雰囲気が怖くなったぞ。威圧感をバシバシ感じるぞ。
「ああちゃ」
いや、俺はただ危険な事をしてほしくないだけだ。父も母も大事だから。
「らうみぃはしんぱいしてるみゃ」
「あら、ごめんなさい。ラウったらそうなのね」
「ああちゃ」
思わず母にしがみつく。
前回は守れなかった。今回こそはと思っているのに、母自身が危険な事をしていたら手の打ちようがないじゃないか。
俺がもっと大きくなるまで、大人しくしていて欲しいぞ。
「ああちゃ、あぶぶ」
「あらあら、もう危険な事はしないわよ」
「ああちゃ」
ほら、自分で言っているじゃないか。危険な事をしたんだ。
「アリシアーッ! 約束だぁ! 大人しくしていてくれぇッ!」
おいおい、父まで同じ事を言っているじゃないか。
それだけの事をしたんだな。でも今は、深く聞く事は止めておこう。なぜなら母が怖いから。
「ふふふ、母様は怖くないわよ。ラウ」
「あばー」
ほら、ほぉ~ら。笑顔が怖い。
ここは知らんふりしておこう。
「ああちゃ、ああーちゃ」
「ふふふ、ラウったら」
俺が甘えると、優しく撫でてくれる。
ふぅ、背筋がゾッとしたぜ。
いつもの母に戻って良かった。
「みみは、ももじゅーしゅをのむみゃ」
「ミミちゃん、もう少し我慢ですよ」
「しょうみゃ?」
「はい。終わるまで我慢です」
「しかたないみゃ」
出たよ。ミミの桃ジュースだ。いつもそれで会議がグダグダになるんだ。ミミさん、分かっているか?
「しょんなことないみゃ。みみは、くうきをよめる、しぇいれいみゃ」
「あぶぶ」
全く読めていないぞ。
「みゃみゃみゃ! しょうなのみゃ!?」
「あばー」
俺より読めていないな。みろ、もうお開きの雰囲気になったぞ。
「しょれはみみが、ちょうろいい、たいみんぐれいうからみゃ」
「あぶー」
そうか? そんな事はないぞ。ちゃんと、はいお終いってなってから言う方が良いぞ。
「しょうなのみゃ!? しらなかったみゃ」
はいはい、もう良いけどさ。ミミの桃ジュースを飲ませろ発言には、皆も慣れちゃったと思うぞ。
「のましぇろじゃないみゃ。のむみゃ」
「あぶぶ」
一緒だ。ミミ、そろそろミミは凄いぞと見せて欲しいものだ。
「みみは、いちゅもしゅごいみゃ! ちゃんと、とりしゃんみゃ」
そうだった。実体を持っている事自体が凄いのだったな。まあ、もう一息だ。
そうしていつもの様に、最後はなんとなく締まらずに終わった。
それも良いか。ずっと緊張感を持つというのも効率が悪いし疲れる。
「しょうみゃ。みみは、しょれをおもっていってるみゃ」
「あぶ」
絶対に嘘だな。
「ラウみぃは、ほんとにときろきひろいみゃ」
そんな日々を過ごしながら、俺はミミと一緒に魔素を遮断するシールドの練習も続けていた。
なんとなく、感覚が分かってきたんだ。
最初の頃は全くできそうになかったのだけど。これもミミのお陰なのか? そう思いたくはないが。
「らうみぃ、もうちょっとちゅぢゅけられないみゃ?」
「あばあ」
「いまらと、ほんのちょびっとみゃ」
「あぶ」
そうなんだよな。感覚が掴めたら、後はまだ楽勝だった。いや、楽勝ってほどでもないんだけど。
魔素を遮断するシールドを展開できるようにはなったが、継続できない。そこをまだ練習しないといけない。
しかも普通のシールドよりも魔力量を多く消費する。展開している間ずっとだ。
だけど、さすが大賢者だよ。俺の魔力は膨大だった。この0歳という歳でだ。
「ふちゅうなら、まりょくぎれをおこしてるみゃ」
と、ミミが感心する位に、魔力量は多かった。これはもしかして、前回から引き継いでいるのではないか? なあ、ミミ。どう思う?
「しょうみゃ。しぇいれいじょうおうが、しょういってたみゃ」
「あぶ?」
いつそんな事を言っていたんだよ。
「みみが、らうみぃのしょばに、くるまえみゃ」
ミミを俺の使い魔にと、精霊女王がそう決めた。それで一応の予習をしてきたらしい。
その際に精霊女王から教えられたそうだ。
大賢者のジョブを授ける子だと。だから魔法の才は飛び抜けている。今はまだ0歳児だけど、もう魔法は使える。それに魔力量も膨大だと。
前回の時だって、人とは比べ物にならない位に多かった。それをそのまま継いでいるんだ。
もしかしたら今世は、人類で最大値の魔力量なのかも知れないぞと、俺はちょっと思ったりする。
「あたりまえみゃ。だいけんじゃなのみゃ」
「あばー」
その大賢者ってのも隠したいんだよな。それは5歳になったら受ける『鑑定の儀』まで猶予があるけども。