61ー惑わせる
さて、いつものメンバーでいつもの会議室に集まっている。
俺の感動的なヨチヨチ歩きを中断してだ。
そして俺は母の膝の上にいる。ちょっと眠くなってきたのだけど。
「あばー……ふあぁ~」
「ラウ、報告会だ」
「あう」
ヒョイと手を上げる。
「あなた、仕方ありませんわ。ラウはまだ赤ちゃんなんですから」
「分かっている。だがラウ、少しの辛抱だ」
「あぶあ」
またヒョイと手を上げる。了解って意味だ。
「よし、アンジー。報告を」
いつもの心を鷲掴みにする様なバリトンボイスで父が言った。
「いやいや、何っスか? 坊ちゃんが出席するのはデフォなんスか?」
「当たり前だろう? 可愛いラウなんだ」
いや、それは違うだろう。何度も言うけど俺は0歳児だ。こんな会議に出席する必要は全くない。
「ラウ、聞いていなさい。理解できるのだろう?」
「あば」
またまたヒョイと手を上げる。
「マジッスか!? 坊ちゃん天才ッスか!?」
「ぶぶぶぶ」
ふふふ、そうじゃない。前回の記憶があるだけの0歳児だ。
そんなアンジーさんの報告を聞いた。
あの襲撃してきた男達は、彼等の国との連絡係と真紅の髪の女性のサポートメンバーだった。
どの貴族を狙うか、どれ位財産を持っているかを調べたりしていたそうだ。
今迄は目立たないように、地方の地味な貴族を狙って成功してきた。それで油断したのだろう。いや、増長したと言うべきか。
もっとがっつり稼ごうと、今回の伯爵を狙った訳だ。
財産だけを考えるのなら、今回の伯爵を狙うのは良いチョイスだったのだろう。だが、何しろ王都在住の貴族だ。しかも、伯爵だ。地方の地味な男爵とは訳が違う。
伯爵位からは高位貴族になる。それだけ、名も通っているという事だ。
実際にそこからバレている。人間欲をかくと駄目だって事だ。
「あの女性、精神も操るんです」
「やはりそうか。今まで大事に至らなかったのはその所為だろう」
「その通りです」
なるほどね、精神を操って円満に家に入り込む。そして、数カ月後には狙った貴族は死亡するという事か。
「それも直ぐだと目立ってしまうので、数カ月と期間を置いているんス。質悪いッスよ」
先ずはターゲットの貴族の男性に近付く。そして精神を操り自分の思う通りに動かせる。
家に入り込むと今度はその家族だ。もう60歳を過ぎた男性ばかりだった。成人した子息もいた事だろう。その者達の精神も操る。亡くなった時に、スムーズに遺産を引き継ぐ為だ。
そして呪詛をかけ、数ヶ月後に亡くなる様にじわじわと弱らせる。
いくら地方に住む低位貴族だといっても、貴族は貴族だ。それなりの財産がある。
それを相続する。それも簡単に現金化できる物のみだ。
その現金を国に送る。その時にも男達が動いていた。
秘密裡に入出国する。そんな事を許してしまった。
「この国の防衛はどうなっているんだ」
「そうなんですよ、そこです」
先に襲撃してきた、サポートメンバーの男達。真紅の髪の女性みたく呪詛は使えない。
それでも同じ一族だ。少しだけ精神に干渉できる術を使える者がいた。
「操るまではできないみたいです。でも、おかしいだろう? て、普通は思う事を何とも思わない程度の干渉はできる者がいたようです」
「なるほど。それで国境も越えたのか」
「はい、国境警備隊を惑わす程度はできたみたいッスね」
なんともやっかいな一族だ。
待てよ。サイラスさんだって同じ様な事ができたのではないか? だから潜入捜査に秀でていたのだろう? なら、そんな一族ではなくても、少しはできる者がいるって事だ。
「俺達の仲間にもよく似たスキルを持つ者がいます。サイラスがそうですね」
ああ、やはりそうか。
「まあ、どこの国でも同じように潜入していたりするッスけど。今回みたいに悪事を働くのはないですよね」
「ああ、今回は潜入捜査ではなくて歴とした殺人だ」
それで何人も亡くなっている。国に現金を送る為に。それは駄目だろうって話だ。
外貨が欲しいのなら、真っ当に儲ける事を考えなかったのか? 手っ取り早く、稼ぎたかったのか? 人の命を奪ってでもか?
「許せないな。猶予を与える必要はないな」
「はい、国に送り返したらまた同じ事をするかも知れません。もしかしたら失敗した事で、国では処刑されるかも知れません」
「あばば!?」
げげげ、国で処刑だと? 物騒だな。と、俺が驚いていると父が言った。
「ラウ、デオレグーノ神王国とはそういう国だ」
「あぶぶ」
なら、もしも父達が任務に失敗したとしても、この国では処刑されたりしないよな?
前回の時にもそんな事は聞いた事がなかった。いや、前回の俺はこんなに深く知る事はなかった。両親とも少し距離を置いていた気がする。
「我が国ではそのような事はない。もしも失敗したとしても、なんとか国に帰ってきてくれと願う。帰ってさえくれば、助けられるからだ」
大怪我をしていたとしてもという事か?
「ああちゃ?」
「あら、ラウったら本当にお利口だわ。そうね、私が薬草を育てているのはその為よ。珍しい薬草を育てているから、それを使って作った魔法薬なら大抵の怪我は治せるわ」
ああ、やっぱそうなのか。きっと父が怪我をした時の事も考えているんだ。
お読みいただき有難うございます!
宜しければ、是非ブクマや評価をして頂けると嬉しいです!
宜しくお願いします。