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6ー乳母のフク

「びぇーッ! びぇッ、びぇッ、ふぎゃーぁッ!」

「あらあら、坊っちゃまどうされました?」


 突然泣き喚き出した俺を、乳母が抱き上げてくれる。

 そりゃ、悪い夢も見るさ。胸を剣で貫かれた痛みを覚えているんだ。

 あの騎士団長の息子が言った言葉も覚えている。だから俺はこの頃よく夢に見ていた。


「ふぎゃ、ふぎゃ、ふんぎゃーぁッ!」


 泣くしかないじゃないか……父は、俺達は王の為に国の為に働いていたんだ。なのに、それを身内とも言える王妃と王女に嵌められた。

 そんな理不尽な事があるか?

 本当なのかどうかは分からない。今更確かめる術もない。

 だけど、あの二人ならやり兼ねないと思う気持ちもあったんだ。


 王女は甘やかされて育ったものだから、ある意味自分の欲望にめちゃくちゃ忠実で、何でも自分の思う通りになって当たり前だと思っている自称ヒロインの我儘王女だった。

 その製造元が王妃なのだから。

 父の兄は、王としては良く出来た人だったと思う。

 良い君主として国を治めていたし、政治的に偏った考えの人でもなかった。

 だが、身内に甘すぎたんだ。そこを父が補っていた訳だが、流石に王妃と王女まではどうにもできなかった。

 それがあの結末だ。本当に遣り切れない。


「びぇッ! ぶぇーッ!」

「はいはい、おっぱい飲みましょうねー」

「フグッ」


 俺の口の中におっぱいがぁ……!

 うぅ……反射的に飲んでしまうぅ。


「ング……ング」

「ふふふ、お腹が空いていらしたのですね」


 ああぁ、体に染み渡る~。お腹が空いたら考えもまとまらない。仕方ない、赤ん坊なのだから。暫くの辛抱だ。

 俺の乳母、フクという。フクドリカ・ハリネン。歴とした伯爵家のご令嬢だ。

 乳母と言っても、母乳が出るくらいなのだから歳だってまだ若い。

 なのにどうして、乳母をしているのか?

 それにこのフクは、俺に母乳が必要なくなって、成長してからもずっとうちにいた。

 何歳の頃だったか? 聞いた事がある。たしか、俺が5歳くらいの時だったと思う。


「フクはずっと、アリシア様と坊ちゃまにお仕えしますよ」


 と、話していた。

 伯爵家のご令嬢だったフクは、学園卒業後普通に婚姻した。時間は掛かったが、子供も授かった。

 だが、とんでもない難産で出産したのは良いが、残念ながら死産だったそうだ。その上、その出産が原因で子供を授かれない身体になってしまった。

 それだけ難産だったのだろう。なのに、それをフク一人の所為にされて責められ義母からは罵倒され、おまけに旦那に愛人がいる事が発覚。しかも既に子供がいたらしい。

 その愛人と子供を家に入れると言われ、ふざけるな、そんなのやってられるか! と、離縁した。

 きっと酷い仕打ちを受けたのだろう。

 実家の両親も激怒し、帰って来いと言ってくれたらしい。だが現実、実家には兄夫婦もいる。

 それに暫くすると両親が、また婚姻相手を探し出したらしい。

 一度離縁している女性には、なかなか良い縁談がない。何より、フク自身がもう嫌だったのだそうだ。

 そんな時に、俺の乳母を探していると聞いたそうだ。


「私はもう嫁ぎません! 一人で生きていきます!」


 と、啖呵を切って出て来た。まだ乳母に決まった訳でもないのに。

 その後、無事に母に気に入られて乳母として俺の側にいてくれる。

 乳母として採用されたから良いものを、駄目だったらどうするつもりだったのか。


「どこかの貴族の家で、家庭教師でもしましたよ」


 と、フクが言っていた。そうなのだ。俺の家庭教師もフクがする事になるのだ。

 それだけ、学問にも精通していてマナーも教えられる。真面目で頭が良いんだ。

 そんなことろも、義母は気に入らなかったらしい。

 勿体ない、優秀な人材なのに。うちに来てくれて良かった。

 因みにフクのジョブは『姫騎士』だ。

 姫じゃないのに『姫騎士』とはこれ如何に?

 この国では『女騎士』の上位職にあたるジョブを『姫騎士』と呼んでいる。

 フクは学問だけでなく、戦闘もオッケーって事だ。

 だが俺が攫われた事に、責任を感じていたフクは辞職をしようとしていた。


「あら、何を言っているのかしら?」

「ですが、奥様。私が気付けなかったばかりに、坊ちゃまに怖い思いをさせてしまいました」

「なら、これから誠心誠意仕えなさい」

「奥様……!」

「ラウにはあなたが必要なのよ」

「奥様ッ!」


 これで母はフクの心を鷲掴みだ。もう完璧なほどにだ。

 この時フクは、涙をハラハラと流しながら跪いたという。


「私の生涯を掛けて、坊ちゃまにお仕えいたしますッ!」


 ほら、見事にガシッと掴んでいる。

 俺にとってはとても心強い味方ができたというものだ。

 今はまだそのフクの、おっぱいのお世話になっている。

 フクは子育ては初めてのはずなのに、ベテラン感が半端ない。

 俺を亡くした子供と思って育ててくれているのだろう。俺はフクには頭が上がらない。


「ング……ング……プハッ」

「あらあら、慌てなくていいのですよ。ゆっくりお飲みください」

「……ング……ング」


 フクが俺に授乳しながら、慈しむ様な眼差しで見ている。

 だが俺は、複雑な気分だ。本当……早く大きくなりたい。


お読みいただき有難うございます!

まだまだ0歳児です。あばあば言ってます。^^;

冒頭の3歳児になるのは、いつの事やら。

応援して下さる方、続けて読んで下さる方は是非評価やブクマをして頂けると嬉しいです。

宜しくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] まだまだ0歳児なのですから、沢山お乳飲んで大きくなりましょね。 周りの人達には恵まれているけど、身内には恵まれていないのですね。悲しいかなぁ〜 [一言] 主人公の性格が好き。何となくロロ似…
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