58ーやんちゃな父
俺は前回の記憶がある。ちゃんと考える力があって、覚えていられる。それが大きな違いだ。
17年間生きた記憶を持ったままの赤ちゃんだ。しかも一度殺されている。
もう反抗心とか、拗ねた気持ちなんて吹き飛んでいる。
両親の気持ちが、真っ直ぐに受け止められる。これは大きいぞ。
クールな俺がだ。(自称)
両親の気持ちが嬉しくて泣きそうになるんだから。まあ、赤ちゃんになっちゃっている事も影響しているのだろうけど。
お昼寝から起きたらまた魔法の練習をしよう。
尋問で得た情報があるなら、また会議をするだろうし。今はゆっくりお昼寝だ。
お昼寝では精霊女王に呼ばれる事もなく、ぐっすりと眠っていた俺は出ちゃって眼が覚めた。体内時計かよ。
「ふ、ふ、ふぎゃー! ふえーん!」
おフク、出ちゃったぞ! おーい! おフクー!
「あらあら、はいはい。オムツを替えましょうね」
「ふぎゃ、ふぎゃ、あばー」
折角ぐっすり眠っていたのにさ。寝る前にもオムツを替えてもらったのにさ。
もう少し間隔が空くと良いんだけどね。まだ仕方ないか。
「はい、もう良いですよ。お喉乾きましたか? お茶を飲みますか?」
「あば」
俺はヒョイと片手を上げる。
お茶といっても、うす~い麦茶の様な飲み物だ。俺用なのだろう。
ミミはどうした? と思ってベッドを見ると、まだ爆睡していた。ミミはもうこれだから……。
「あぶあぶ」
「ミミちゃんですか?」
「あうあー」
「ふふふ、よく眠っていますね」
「ぶばー、あうあー」
「あら、笑い事じゃないですか?」
「あうあう。みゃみゃ、あぶあー」
「あら、ミミちゃんて言ってますか?」
「あぶ」
「ラウ坊ちゃまはお利口さんですね。どんどん言葉を覚えてますね」
「あば。ぶばー」
「ふふふ、はい。フクですよ」
おフクは天才じゃないだろうか。
こんな片言にもなっていない俺の言葉を、ちゃんと理解してくれている。
マジで、会話が成り立っているよな。
「ミミちゃんが起きるまで、お庭でも散歩しましょうか?」
「あうあ」
またヒョイと手を上げた。
散歩と言っても、おフクに抱っこしてもらっての散歩だ。
地面をハイハイするのはばっちいし、何より手が痛い。と、思っていたのだけど。
「坊ちゃま、立っちしましょうか」
「あばあ?」
ふわふわのベビーシューズを履かせてもらった小さな足で地面に立つ。
家の中とは違う、ゴツゴツとした感触だ。
「坊ちゃま、フクが手を引きますね」
「あばあ?」
俺の両手を持って、おフクが後ろに進む。一歩ずつゆっくりとだ。
それに合わせて、俺も足を出す。
「あぶ、あぶ」
「はい、ゆっくりとですよ」
「あば」
掛け声を掛けながら、おフクの手をしっかりと持って一歩ずつ歩く。部屋の中で練習しているのとは違う。
もう少ししたら空が夕焼けに染まる頃だ。日差しが強い訳でもない、過ごし易い時間。
時折そよ風が、俺のまだ生えそろわない心許ない髪を撫でていく。
俺のほっぺが優しい陽に照らされている。空気を胸いっぱいに吸い込む。外はやっぱり気持ち良い。
「あば、あば」
「お上手ですよ」
「あぶ!」
このままおフクに手を引いてもらっていても良いんだ。良いんだけど、俺はその先を目指すのだ。何故なら、俺はチャレンジする赤ちゃんなのだから。
「ぶばー、あぶば」
「え? 大丈夫ですか? お外なので転んだら痛いですよ?」
「あば」
「じゃあ、離しますよ。そばにフクが付いていますからね」
「あぶあ」
おフクがそっと手を離す。ほんの数歩先でしゃがみ込み、両手を出して待っていてくれる。少し心配そうに、眉を下げて。
よしッ、いくぞ!
「あばッ!」
足のトレーニングの時の様に、勢いよくビシッと片足を出す。途端にバランスを崩しポテンと尻餅をついてしまった。
「あぶあ!」
「あらあら! 坊ちゃま!」
おフクが直ぐに俺を抱き上げようとするが、両手を出してそれを止めた。
「あばー」
「あら、大丈夫ですか?」
「あう」
よいしょと両手をついて、俺は立ち上がる。大丈夫だ。お尻ならオムツがあるから、大して痛くない。再挑戦だ。
「坊ちゃま、そんなに勢いよく足を出しては駄目ですよ」
「あうあ」
「そっとです。そーっと、ゆっくりです」
「あば」
よし、そっとだな。今度はゆっくりと足を前に出す。大丈夫だ、前よりずっと安定しているぞ。
「そうですよ、お上手です」
「あう、ぶばー」
「はい、フクはここで待っていますよ」
「あい!」
そっと一歩、地面を踏みしめてまた一歩。
ポテポテとゆっくりと歩みを進めて、おフクの手の中に飛び込んだ。
「あぶぶぶ!」
「はい、歩けましたね! お上手です!」
「きゃっきゃ! あばー!」
アハハハ、嬉しいものだな。この生で初めて歩いたよ。
「ラウーッ!」
どこからか父の声がした。どこから叫んでいるんだ?
「あぶあ?」
「坊ちゃま、上です。お邸の中ですよ。ふふふ、見ていらしたんですね」
そう言われて上を見ると、窓から身を乗り出して手を振る父がいた。
本当に、よく見ていたな。
思わず手を振る俺。すると父がヒュンと部屋の窓から飛び降りた。
父のいた部屋は3階だ。窓からジャンプしたかと思ったら、宙で一回転してそのままシュタッと着地したんだ。
おいおい、父よ。なんてやんちゃなんだ。危ないじゃないか! 普通に階段を使おうぜ。
お読みいただき有難うございます!
2本目の校正原稿が出てきたら、ラウのお話はお休みするかも知れません。ギリギリなもので^^;
投稿が無ければ、ああ、校正に必死なんだなぁ。と、思って頂けると^^;
申し訳ありませんが、宜しくお願いします。
宜しければ、是非ブクマや評価をして頂けると嬉しいです!
宜しくお願いします。