57ー母は強し
言うんじゃないぞと、俺はミミを見つめた。もちろん、念話でもそう訴えている。
「みゃみゃ、みみはなにもしらないみゃ」
「そんな訳ないじゃない。ミミが教えているんでしょう? ラウが何を考えているのか教えてちょうだい」
「みゃみゃみゃ、みみはまほうをおしえているだけみゃ」
「じゃあ、質問を変えるわ。何の魔法を教えているのかしら?」
「しーるろみゃ」
ああ、言っちゃったよ。まあ、それだけなら分かる筈もないんだけど。
「シールドなの? ラウはシールドを使えたわよね?」
おふっ、覚えていたのか? 母ったら油断ならないな。
「ラウが攫われた時に、シールドを張って自分を守っていたでしょう?」
ああ、俺ってやっちゃってたよ。最近じゃないか。
だってあの時はシールドで、自分の身を守らなきゃと思ったんだ。まさかこんな状況になるなんて夢にも思わないだろう?
ミミ、それ以上言ったら駄目だぞぅ。
「みみは、なにもしらないみゃ」
「そう、ミミは色々知っているのね?」
「あたりまえみゃ。らうみぃのちゅかいまらからみゃ」
こらこらこら! 知ってるって言ってるじゃないか!?
「ラウ、お願いだから危険な事をしないでちょうだい」
「ああちゃ」
「それよりも、ラウ。あなたが練習した成果を、母様に見せてちょうだいな」
「あば!?」
この母のぶっ飛んだ発想だ。
さっきまでやめろと止めていたのに、それが駄目だと分かったら直ぐにこれだ。今度は見せろと言う。
心配なのよと言っておきながら、自分の眼で確認しようとする。
これは母が強いということなのか?
父に対してもきっとこうなのだろう。
ただ心配するだけじゃない。自分も理解しようとする。きっとその後、自分も協力しようとするんだ。
母のジョブはエレメンタラーだ。人間のジョブを決め管理している精霊と直結するジョブだ。
精霊女王は何を基準に、エレメンタラーのジョブを母に授けたのか。今度直接本人に聞いてみようと思った。
「ラウ、母様にも協力させてくれないかしら?」
「ああちゃ」
ほら、予想通りに言ってきた。
「一人で背負う事はないわ。母様も頼ってちょうだい。これでも母様だって魔法は結構使えるのよ。ふふふ」
「ああちゃ」
ここで、ふふふと笑える母の度量だ。俺は完敗だ。母は強しだ。
「ああちゃー!」
ギュッと母にしがみ付く。小さな手で母の身体に手を回そうとする。全然届かないんだけど。
母の胸に、頭をスリスリとこすり付けて身体をピッタリとくっ付けた。
なのにだ。ああ折角の感動的なシーンなのに……世の中は無情だ。
「あ、あば……」
「あら」
「ふえぇー、ふぎゃー」
出ちゃったよ。なんでこんな時に出ちゃうんだよ。全く締まりがない。
「あらあら、オムツ替えましょうね」
「ふぎゃー」
俺はおフクに向かって両手を出す。おフク、頼むよ。俺の下半身ったら融通がきかないんだ。
もっとタイミングを考えて欲しい。折角、ジーンと感動していたのにさぁ。
いつもの様に両足を持って、おフクにオムツを替えてもらう。
「あぶあぶ」
「はい、ちゃんと拭きますよ」
「あば」
マジで、おフクったら俺の言いたい事を分かっている。
会話が成り立っているじゃないか。え? そんな事はない?
「ふふふ、ラウったら」
「らうみぃは、あかちゃんなのみゃ」
「そうなのよ。だから、ミミ。よろしくお願いするわね」
「まかしぇるみゃ」
「危険な事をさせないでちょうだい」
「らいじょうぶみゃ。らうみぃはちゅよいみゃ」
「ミミ、そうじゃないのよ。いくら強くても危険な事はして欲しくないの」
「わかったみゃ。きをちゅけるみゃ」
ミミ、余計な事を言うんじゃないぞ。
「ああーちゃ」
さっきの感動をもう一度だ。俺は母に両手を出す。
「ふふふ、ラウ。そうやっていつも母様の側にいてね。元気に育って欲しいのよ」
「ああちゃ」
母に抱っこしてもらって、俺は満足だ。母の体温が伝わってくる。この腕の中が一番安心できるんだ。
そう、安心したらさ。当然眠気が襲ってくる。まだ赤ちゃんだからな。
「ああー……ちゃ……」
「もうお眠ね。そのまま眠りなさいな」
母が背中をトントンとしてくれると、俺は撃沈だ。むにゃむにゃと眠いお口になって、そのまま眠りに落ちていった。
俺が眠るとミミも同じ様にお昼寝だ。
両手(?)を広げて大の字になって眠る。
ミミは鳥さんなのに、その寝相はどうなんだ? いや、鳥さんの姿をした精霊さんなんだけど。
その上、スピーッと寝息を立てていたりする。
その頃もずっと、捕らえた者達の尋問は続いていた。
父の職務内容が特別なので、うちの邸には地下牢がある。外の陽が一切入らない場所で、厳重な鉄の格子が嵌められた牢だ。
そこには尋問部屋も併設されている。普通の貴族の邸にはないよな。前の時に俺は、その事を成人するまで知らなかった。父の職務内容を知ったのも、かなり大きくなってからだ。
今回みたいに会議に出たりなんて事は一切なかった。これは大きな変化だ。
俺の中でも大きな変化がある。両親の印象だ。こんなに俺の事を愛してくれている実感はなかった。自分達の子供なんだから、もちろん愛してくれていただろう。
邪見に扱われた訳ではないし、ちゃんと育ててもらった。
それでも俺は、両親に対してこんな感情を持っていなかったんだ。
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