56ー精霊が?
俺が呑気にオムツを替えてもらって、りんごを食べていた頃。
アンジーさんとサイラスさんは、捕らえた者達を尋問していた。尋問と言う名の、軽い拷問だ。
俺は後で知った事だけど、短時間しかできないらしいがサイラスさんの特技があるのだそうだ。
いや、特技なんて言ってはいけない。諜報活動をしている間に、生えてきたスキルらしい。
人の心に恐怖を芽生えさせるのだそうだ。
恐怖といっても命に関わる様なものではない。ただ小さな不安を植え付けるのだそうだ。これがまた尋問には打って付けだった。
尋問される間、ずっと得体の知れない不安に襲われる。それが続くと恐怖に変わるんだ。
人間って、そこからどうにかして逃れたくなる。今喋ったらこの恐怖から逃れられると思わせたら、もうこっちのもんだ。
後は、楽勝ってやつだ。
普通の時ならそんな小さな不安なんて、吹き飛ばせるくらいのものらしい。だが状況が、敵に捕らえられて尋問されているんだ。ただでさえ不安を抱くだろう。
いつまで続くのか? 無事に開放されるのだろうか? 生きて帰れるのか?
そんな不安は人の心の中で、何倍にも跳ね上がり恐怖に変わる。人は得体の知れない恐怖には弱いものだ。
怖い怖い。そんなスキル、よく生えたものだ。
人って、無限の可能性を秘めているのだなと感心した。
「らうみぃは、もっとしゅごいみゃ」
「あば?」
え? 俺なのか?
「しょうみゃ。らって、だいけんじゃなのみゃ」
「あぶぅ」
ミミ、それはまだ秘密だ。
「みゃ? しょうみゃ?」
「あば」
そうだよ。まだ赤ちゃんなのに、なんで大賢者なんだよ。5歳の『鑑定の儀』を済ませてからだ。
この国で義務付けられている、ジョブをみる『鑑定の儀』だ。
前の時はそこで俺は大賢者だと鑑定された。
そういえば、精霊女王が聖女を選ぶのは自分だと話していた。なら他のジョブは違うのか? 誰が選んでいるのだろう?
「しぇいれいじょうおうと、しぇいれいおうみゃ」
「あば?」
精霊女王は他のジョブも選ぶという事なのか? それに精霊王か。
「ほかにもいるみゃ。じょぶはいっぱいあるみゃ」
ここにきてやっとミミが精霊らしい事を言い出した。
ジョブは星の数ほどある。それはちょっと大袈裟だけど、とにかく多種多様なんだ。
そのジョブの数だけ選ぶ精霊がいるらしい。
だが、聖女や大賢者みたいに最上位クラスや、精霊と関係するエレメンタラーのジョブを与える人間を選ぶのは、精霊女王や精霊王らしい。なら、この世界は精霊が頂点なのか?
「ちがうみゃ。めがみやかみがいるみゃ」
やはり頂点は神らしい。その女神や神は、この世界を創造した者達だが基本的に手を出さないそうだ。だからジョブなんて俺達に直結する事は全部精霊が担っている。
まるでブラック企業だぜ。そりゃ大変だ。
「れもちゃんとみているみゃ」
「ぶぶぅ」
「しぇいれいじょうおうは、いだいなのみゃ」
何故かミミが自分の事の様に胸を張って自慢している。ミミがやっている事じゃないのに。
「みみも、おてちゅらいしていたみゃ」
「あばー」
そりゃミミに手伝われた人って災難だな。
「ひろいみゃ! らうみぃは、ときろきひろいみゃ!」
羽をパタパタさせて、俺を叩きにくる。短期間で慣れたものだ。て、いうかどんどん太々しくなってきていないか?
魔法の練習はどうしたよ? お? また忘れてないか?
「あ……わしゅれてたみゃ」
「あうー」
ほら、これだよ。そんな性格だから精霊女王に呼ばれても、爆睡していられるんだよ。
しかも、何度もだ。俺はその神経を疑うよ。
「もうわしゅれないみゃ。けろ、らうみぃ」
「あば?」
「こんろ、しぇいれいじょうおうによばれたら、おこしてほしいみゃ」
いつも起こしているんだよ。それでもミミは起きないんだ。
「みゃみゃみゃ!? しょうなのみゃ!? もうねないみゃ」
馬鹿だな、寝ないなんてできるのかよ。精霊女王だって怒ってないさ。
「おこったらこわいみゃ」
ミミがブルブルッと武者震いなのか? 体を震わせた。余程怖いらしい。
きっと今までに何度か怒られたのだろう。でないと怖い事が分からない。
俺は怒られた事がないから、優しい精霊女王だと思うから。
その日は、魔法の練習を思い出したミミと、魔法を習得する事に励んだ。
側でみているおフクに、バレているような気もしなくもないが。
「フクには坊ちゃまが何をされているのか、全く分かりません」
そう言っていたから、バレていないと思っていよう。
でも、時々顔を出す母は別だ。
「ラウ、お母様が以前言った事を覚えているかしら?」
俺を抱っこして母はそう言ったんだ。
あ、やべ。て、本能で思ったね。
「急がないで、ゆっくり大人になってほしいと、母様は言ったわよ」
じっと俺の眼を見て言われた。これは何か勘付いている。確実にだ。
「ああちゃ」
「ラウ、あなたはまだ赤ちゃんなのよ」
「ああーちゃ」
「なんの魔法を習得しようとしているのかしら?」
「ぶぶぶ」
それは言えない。絶対に言えない。いくら俺を睨んでも言えない。
「あぶぅ」
「ミミ、ラウは何て言っているの?」
あ、ズリーな。こんな時にその手を使うのか。
ミミ、秘密だぞ。お前、余計な事を言うんじゃないぞ。俺は超不安だ。
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