55ー取り調べのエキスパート
「あのデオレグーノ神王国、どうしてやりましょうか?」
「アンジー、落ち着け」
アンジーさんが報告している。この国で荒稼ぎしたらしいし、腹が立つのも仕方ない。
本当に神の国なんて名前を付けている国だ。普通じゃない。
ラノベやアニメだと、悪者決定だぞ。
「ぶぶぅ」
「らうみぃ、がまんみゃ。みみもももじゅーしゅのみたいの、がまんしてるみゃ」
そうじゃないっての。国家間の事になるんだから、軽はずみな事はできないだろう?
それに、中心になって動いていたあの真紅の髪の女性。あの女性の自白が取れていない。
せめて奪った金銭の行方を自白させないと。
「男達はどう言っているんだ?」
「それが、まだ喋らないです。でもサイラスさんが取り調べに入ってるッス」
「なら時間の問題だろう」
なんだと? あの有能執事の様な風貌なのに、取り調べのエキスパートなのか?
「坊ちゃんは知らないッスね。サイラスさんは怖いッスよー」
「あばばば」
マジか。人は見かけによらないとはこの事だ。
穏やかそうな見かけとは裏腹に、怖いのだと。アンジーさんが言うくらいなのだから、余程なのだろう。
アンジーさんが報告を続ける。
「あの種族、どうやら呪詛を使えるのは女性だけみたいですね」
「そうなのか?」
その種族なら、誰でも使える訳じゃないのだな。なら、真紅の髪も女性だけなのか。
「男でもローズ色の瞳をしている者はいます。ですが、呪詛までは使えないようです」
ほうほう、それはまた興味深い。
しかも、女性だからといって、女性全員が使える訳でもないのだそうだ。
その真紅の髪にローズ色、それがポイントだ。両方揃った女性は種族の中でも特別なのらしい。
そして、その女性だけが呪詛を使えるようになる。
男性は呪詛を使えないが、人の動きを感知したり、身体能力が高かったりはするらしい。
それって充分に特別な様な気もするぞ。普通より秀でたものがあるという事は武器になる。
だからたった8人で襲撃してきたのかも知れない。自分達は特別だという気持ちもあったのだろう。
だが、それも甘かった。うちにいる使用人達だって訓練を受けている。
是非とも、メイドさん達が戦っているところを見てみたいものだ。いやいや、そんな事にならないのが一番なのだけど。
「あの時、坊ちゃんが女の意識を奪ってくれたから、捕らえられました。お手柄ッスよ」
アンジーさんが、俺の頭を撫でてくれる。アンジーさんも、こうしていれば『銀花男子』なんて呼ばれている様には見えない。
俺には、普通に気さくで優しいお兄ちゃんだ。
いつの間にか、この会議室にも俺専用の椅子が置かれている。そこにテテンと座っている、俺の頭を撫でる手はとっても優しい。
「あばぁ、あーじゅしゃ」
「え? 俺の事ッスか?」
「ふふふ、アンジーさんって呼んでいるのよ」
「な、な、なんだとぉーッ!? アンジー! お前何をした!?」
「何もしてないッスよ! なんで怒るんッスかぁッ!?」
素早く立ち上がった父が、アンジーさんの首元を握っていた。速いな。ビックリだ。
「旦那様、赤ちゃんが喋りやすい言葉があるのだそうですよ」
「何ッ!? フク、そうなのか!?」
「はい、少し調べてみたのですけど、どうやらた行はなかなか喋れないみたいなんです」
「そ、そんなーッ!」
思いっきり項垂れている。父様ってた行から始まるもんな。そうなのか、知らなかった。だから言い難いのか。
「ちゃー」
うん、「ちゃ」なら言えるぞ。だが、父様となると難易度は跳ね上がる。
「ラウ、そうだ。父様だ!」
「ちゃー……あうぅ……ああちゃッ」
ヒョイと手を挙げる。意味はないんだけど。
「ちゃー!」
「それが父様なのか?」
「あう!」
またヒョイと手を挙げる。これは意味がるんだ。そうだと意思表示している。
「仕方がない、それで我慢するか」
我慢って何だよ。なら言わないぞ。
「ああちゃ」
「ふふふ、ラウ、それだけ呼んで欲しいのよ」
「あぶ、ああちゃ」
仕方がないな。ならこれでどうだ?
「ちゃーちゃ」
「おおッ! 父様か!?」
「あい! ちゃーちゃ!」
「ラウゥーッ! そうだ! 父様だぞぅッ!」
ガシィッと抱きしめられた。また熱い父だ。氷霧公爵どころか、熱湯公爵だよ。
ちょっと不憫になってきたぞ。
いつもこの話題で脱線しているじゃないか。良いのか? こんなんで良いのか?
「まあ、報告は終わってるからいいんじゃないッスか?」
「あぶぅ」
なら良いけどさ。俺って邪魔してるみたいじゃん?
「ラウは居るだけで良いのよ。母様と父様の癒しになるわ」
「ああちゃ」
果たしてこんな会議に癒しが必要なのかは知らないけど。
結局、その日の報告もそれで終わりになった。
父が嬉しがってくれているのか、俺を抱っこして離さない。
目尻が下がって、締まりのない顔をしている。折角のイケメンも台無しだ。
「もうおわりみゃ? ももじゅーしゅのんれも、いいみゃ?」
「ミミちゃん、お部屋に戻ってからにしましょうね」
「わかったみゃ」
ミミは桃ジュース命かよ。
俺もりんごが食べたいぞ。あ、その前にオムツだ。
「そろそろオムツを替えないといけませんね」
「あぶ」
おう、流石おフクだ。よく分かっている。
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