50ーミミは何が得意?
襲撃騒ぎも、俺の転移によって幕を閉じた。
ちょっと予定外の事もあったけど、概ね結果オーライだ。
それよりも、あの女性は単身で突っ込んで来たんだ。その事に俺は驚いた。
いつものメンバーに潜入していたサイラスさんを加えて、例の会議室に集合している。
サイラスさんは執事見習いとして潜入していただけあって、この邸の執事ノーマンと並んでいる。
こうしていると、まさか諜報員だとは思えない。優秀な執事さんに見える。
「あばー」
「坊ちゃま、りんごジュースですよ」
「あう」
「みみは、ももじゅーしゅがいいみゃ」
「はい、用意してありますよ」
「ありがとみゃ」
なんだか俺の周りだけとってもファンタジーなんだけど。何故かと言うと、今日はリンリンとフェンも姿を現している。
桃ジュースを貰おうと、おフクの側にいるからだ。
俺は薄めのりんごジュースを貰う。
取っ手付きのコップに入ったりんごジュースを、ストローでちゅうぅと飲む。
ふっふっふっ。自分でコップを持って飲めるようになったのだよ。俺の成長は、ボーッとしていると見逃してしまうぜ。
「らうみぃ、いみふめいみゃ」
「あば」
俺は日々進歩しているって事だ。
「しょうみゃ? わからないみゃ」
「ぶぶ」
そうかよ。ミミには分からないだろう。日進月歩ともいうぞ。
「ラウは可愛いわぁ〜」
「おう、俺はカッコいいけどなッ!」
「あばー」
俺はこれからかっちょよくなるんだよ。
「で、まだ意識が戻らないか?」
と、いつものバリトンボイスで父が言った。耳に心地良い声だ。こうして落ち着いていると、クールに見えるんだけど。
「まだです。医師にも診せましたが、心労が重なっていたらしくて、暫く目を覚さないだろうと言ってました」
アンジーさんが答えている。
「心労が?」
「はい。最近は俺達が動いてましたから、思い通りにいかない事もあったんじゃないでしょうか?」
「それにしては、大胆だったな」
「昨日襲撃者達を取り押さえましたから、もう後がなかったんでしょう」
なんと正面から堂々と邸に入ろうとしていたらしい。だが、門には門兵が立っている。
それに止められ、無理矢理入ろうとしても目に見えないシールドに遮られ、何があるんだと魔法で攻撃してみたら跳ね返され。
その騒ぎで邸から人が出て来た。皆使用人の格好をしているものだから、きっと楽勝だと思ったのだろう。
ところが全員手練れだった。仕方なく呪詛を使いなんとか突破しようとしていたところに、突然現れたプリティな赤ちゃんにやられちゃった訳だ。
「フェン、呪詛封じはどれくらい保つんだ?」
「おう、今は取り敢えず丸3日だ」
「あばぁ?」
取り敢えず? 呪詛封じ?
なんとフェンが、呪詛を使えないようにしているのだ。だから皆落ち着いているんだな。
目を覚ましたら、どうするのかと思っていたんだ。
「ぶぶぅ」
「はい、ご馳走様ですか?」
「あう」
美味いね、りんごジュース。
「ももじゅーしゅを、おかわりしたいみゃ」
「また後で飲みましょうね」
「しかたないみゃ」
「ミミったら」
「らって、おいしいみゃ」
「そうね、ふふふ」
うん、やっぱリンリンの方が落ち着いていて、お姉さんに見える。桃ジュースを飲むのだって、ミミみたいな飲み方はしない。
ミミは貰ったら一心不乱に飲む。必死で嘴で突いて飲むんだ。でもリンリンは優雅に少しずつ飲む。
鳥さんと人型の違いもあるのだろうけど。
「けぷッ」
「あらあら、坊ちゃま飲みすぎましたか?」
「あぶあ」
そんな事ないぞ。ちょっとゲップが出ちゃっただけだ。
「呪詛封じは最長でどれくらいできるんだ?」
「永遠にだぞ」
なんだって? 永遠に封じる事ができるという事なのか?
「俺達精霊の力を見くびってはいけないぞッ! 呪詛くらい、いくらでも封じてやるぞ」
フェンは凄いんだな。うちのミミとトレードしないか?
「らうみぃ! ひろいみゃ! みみもしょれくらい、れきるみゃ!」
「あぶぶ」
はいはい、冗談じゃないか。ミミも一応精霊なんだから、フェンと同じようにできないとな。
「ラウ、そんな事ないのよ~」
「あば?」
りんりん姐さん、そうなのか?
「そうなのよ~。精霊にも得手不得手があるのよ~ぅ」
「あぶあ」
ならミミは何が得意なんだ? 今のところ得意な感じの事をした事がないぞ。
「ミミはちゅかれたみゃ。ももじゅーしゅのおかわりがほしいみゃ」
ミミは桃ジュースの事ばかり言っている。
そろそろ得意な事を披露してもらいたいものだ。
「ラウ、いらっしゃい」
「ああちゃ」
母が抱っこしてくれる。俺、こんな会議には場違いだからさ、次から欠席って事で良いかなぁ?
「今日はラウのお手柄だったわ」
「そうだな、ラウ。よくやった」
父が側に来て頭を撫でてくれる。えへへ、そうだろう? 俺、今日は頑張ったぞ。
「だが、ラウ。ラウの能力は秘密だと言っていただろう?」
「あぶぅ」
「そうよ、ラウ」
「サイラス、そういう事だ。ラウの事は秘密だ」
「はい、承知しました」
サイラスさんが頭を下げた。片方の手を胸にやり、45度程の角度で腰を折っている。
背筋がスッと伸びて、背中から頭の先まで一直線になっている綺麗な礼だ。おまけに今は髪をきっちりと撫でつけ、執事服を着ているものだからどこからどう見ても執事さんだ。
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