5ー嵌められた
なのにその婚約者を置いて戦に出るなんて、そんな事はできないと父に噛みついたくらいに嫌だった。
そりゃそうだろう? でも、国の一大事なのだから仕方がない。
今から思えば、それも王女の策略だったのかも知れない。
王女は侯爵である騎士団長の息子と婚約していた。
それなのに、王女は俺に執着していた。
事あるごとに言い寄ってくるから、俺は全部スルーしていた。
多分、王女の婚約者である騎士団長の息子はそれに気付いていたのだろう。
そして王女は、相手にしない俺に業を煮やしていたのかも知れない。
俺を背後から刺したのは、王女の婚約者であるその騎士団長の息子なんだ。
俺が生後半年で誘拐された時に、助け出してくれたあの騎士団長の息子だ。
因縁とでも言うのだろうか? 父親は人格者で人望も厚いのに、どうしてそんな息子に育ったのか。
いや、子供が6人もいるんだ。中には勘違いする奴もいるのだろう。
それにしても、親とは大違いだ。
だが、流石に騎士団長の息子だ。幼い頃から鍛練しているのだろう。剣の腕だけは確かだった。
だからこそ、この魔族討伐にも選ばれたんだ。
だが、性根が腐っている。
あの時俺達は戦場にいた。魔族の大群を目の前にして、一緒に魔族討伐に出ていた仲間に裏切られたんだ。その中に、騎士団長の息子がいた。
最後の最後、この魔族を押し返す事ができれば国が脅かされることもないだろうって時だ。
目の前に現れた魔族の大軍にびびって、あいつら逃げ出したんだ。俺をポイッと、魔族の前に放り出し囮にしてだ。
普通そんな事する? 信じられないと思わないか?
なんて卑怯な奴等だ! と、腹が立った俺は、珍しくちょっぴりキレた。
舐めるなよ。この大賢者様の大魔法で、魔族なんて蹴散らしてやるぜッ! と、意気込んで残った全魔力を使い、その大魔法で魔族を一掃したところで後ろから騎士団長の息子に刺されたんだ。
突然背中から、今まで経験した事のない痛みに襲われ胸が熱い。自分の体から、まるで溶岩でも流れ出しているのではないかと思うほどだ。体験した事のない、強烈な痛みも一緒に襲ってくる。
泣きそうだ……いや、もう痛すぎてボロボロと涙を流して泣いちゃっている。
その時背後から、聞き慣れた騎士団長の息子の声がした。
「これでお前も終わりだ」
本当、信じられないだろう? 俺も信じられなかったさ。逃げたとはいえ、味方だろう? て、思った。な、性根が腐りきっているだろう?
背後から、俺の胸を突き刺している剣。どくどくと血が流れ出て、意識が朦朧としてくる。
魔族の殲滅に全魔力を使ったものだから、回復魔法が使えない。俺とした事がミスった。俺はいつもどこか詰めが甘いんだ。
その時だ。最後の最後に、今更思い出した。
あれ? 俺って転生してね?
死ぬ間際に見た走馬灯の中に、前世の記憶があった。やっとここで思い出したんだ。
俺はどこにでもいる大学生だった。大学の帰り道、書店に寄って目当てのサイン入りラノベを手に入れ、駅まで歩いていたら突然背中が熱くなった。
同じように、背中から刺されたんだ。そして、ゴボッと血を吐いた。
キャーッ! と言う叫び声が聞こえる。逃げ惑う人達。
俺はその場に倒れ込んだ。その時、血の付いたナイフを振り回しながら走り去って行く男がぼやける視界に映った。
通り魔的犯行なのか? 信じられない。本当、俺ってついてない。
前世の最後を死ぬ間際に思い出したんだ。そんなもの、今更思い出したところで何の足しにもならない。
それよりも、俺は背後から騎士団長の息子に刺されたんだ。
なんなんだ……また、背後からなのか。
「ゴボッ……!」
血を吐き、意識が遠のいていく。
そんな中、背後から騎士団長の息子が言った。
「今頃お前の家族も処刑されているさ」
なんだと……!?
王妃と王女が共謀して、図ったのだと聞かされた。
王弟であり公爵家を脅威に思っていた王妃。そして、聖女である妹を妬んでいた王女。
この混乱に乗じて父に国家反逆罪を擦りつけた。そして王弟一家を断罪した。
「今頃お前の婚約者一家も、処刑されている事だろう」
嘘だ! 父が王妃なんかに嵌められるわけがない! 陛下がそんな事を信じるはずがない!
「アハハハ! お前の家を疎ましく思っているのは俺達だけじゃないんだ」
他にも共謀者がいたって事なのか!?
「どんな仕事をしているのか知らないが、王弟だからと幅を利かせやがって。いい気になるのも程々にしておけば良かったんだ」
馬鹿が。父の職務内容を公になんてできないだろう。それを王妃は知っていたはずだ。なのに……!
「お前はここで、魔族と相打ちになって死んだんだ。私はその後、魔族を一掃した事にする。私は単身でお前を助けに戻った英雄だ。手柄を有難うよ。アハハハ!」
そう言って、俺を貫いている剣を引き抜いた。
「ゲホッ」
胸からは、ドクドクと血が流れ出している。
その場に倒れ込んだ俺は、もう起き上がる力も残っていない。視界がだんだんと暗くなっていく。
「安心しろ。お前の家族やあの幼馴染も、今頃は天国で待っているだろう」
クソ……クソッ……!
そのまま俺の意識は途絶えた。
これが大賢者だった俺の最後の記憶だ。
お読みいただき有難うございます!
いつも出だしはなかなか良い感触なのですよ。でも、今回は地の文が多いからどうだろうなぁ〜?
もう少しで0歳児の日常のお話になります。
最初の3歳児はまだまだ先です。^^;
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