46ー溺愛が過ぎる
そんな結界を張る事ができるのなら、もっと早くそうしていれば良かったのに。いや、常時展開させるべきだな、うん。
「駄目なのよ。リンリンとフェンの二人が協力してできる事なの。常時なんて無理なのよ」
「あばー」
そうなのか? それは残念だ。
父がこの仕事をしている限りは危険が伴うだろうに。
「ラウ坊ちゃん、大丈夫ッスよ。この邸の皆は全員殿下の部下ッス。戦闘訓練を受けたエキスパートですから」
「あば!?」
それは知らなかった。前の時にも、そんな事は知らされていなかった。
父はどれだけ危険な事をしているんだ? 心配になってきたぞ。
「逆恨みを買い易いッスからね。仕方ないです」
ほうほう、なるほど。
「ああちゃ」
「あらあら、何かしら?」
「ああーちゃッ」
母を呼びながら両手を伸ばす。
母は不安ではないのか? 父と婚姻する時に、こんな状況を覚悟していたのか?
そう思いながら、母に抱きつく。
「ああーちゃ」
「あらあら、どうしたの? ラウったら」
母に甘える俺を、ジトーッと見つめる目があった……父だ。
「あば?」
「ふふふ、とうさまって、早く呼んであげてね」
「ああちゃ」
「そうね、母様よ」
「きゃっきゃ、ああーちゃッ!」
母に抱っこされて、嬉しそうに身体を揺する。パチパチと手を叩きながら母を呼ぶ。
「ああーちゃ!」
「はいはい」
益々、ジトーッと見られている視線を感じる。突然、母ごとガシィッと抱きしめられた。
「ああー! まだなのかぁッ!?」
「まあ、あなた」
「あぶぶ」
苦しいんだって。どうしていつも、そう熱いんだ?
「ラウ、父様だ」
「ああちゃ」
「と・う・さ・ま!」
「あ・あ・ちゃ!」
「ああ、違うぞー!」
「あらあら、ふふふ」
コントをしている場合ではない。
で、敵にこっちの事を知られていると思って良いだろう? それならこれから何をしてくるか分かったもんじゃないぞ。強硬手段に出るかもしれない。
それと、その潜入していた者が確認した瞳だよ。
覚えているかな? 真紅の髪にローズ色の瞳の女性。その女性を確認していたって事だ。
「話を戻そう」
父が心を鷲掴みにする様なバリトンボイスで言った。
脱線していたのは自分なのに。
「髪色は深紅ではなかったんだな? しかし瞳の色は確認できたと」
「はいそうです。髪色は普通に栗色だったそうです。しかし、瞳の色は誤魔化せません。しっかりローズ色だった事を確認しています」
ふむふむ。で、呪詛を掛けられてこっちの情報を抜き取られてしまった。それで敵はこの邸に襲撃してきたと。
先に潜入していたメイドさんは大丈夫なのか?
「ラウ、なあに?」
「あぶあー」
ミミ、頼むよ。俺は喋れないんだからさ。
「わかったみゃ。めんどうみゃ」
「なんですって? ミミ」
ほら、余計な一言を言うからだ。
「みゃみゃみゃ、なんれもないみゃ。めいどしゃんはへいきみゃ?」
「先に潜入させていたメイドか?」
「しょうみゃ」
「大丈夫ッスよ。無事に戻ってきています」
なら良かった。被害者を増やしたくないからな。
「でもいつまでも結界を張っている訳にはいかないわ」
「ああ、伯爵を城に呼び出してある。先日提出しようとした婚姻届けに不備があったと言ってな」
「登城して来た時に伯爵を保護します」
なるほど、伯爵は命を狙われている。それに、こうまでしても婚姻届けを出そうとしているんだ。
呪詛の類を掛けられて操られているかも知れない。
「ラウ、あなたもしかして全部理解しているのかしら?」
「まさか、赤ちゃんッスよ」
「でも、ラウを見ているとそう思うのよ」
「あば」
これはちょっとどうしよう? 流石に全部理解しているのは無理がある。
いや、今でも充分赤ちゃんらしくないっちゃあないんだけど。
「ミミ、ラウは理解しているのかしら?」
「とうじぇんみゃ。じぇんぶわかってるみゃ」
ああ、めっちゃ素直に言っちゃった。しかも俺の事なのにミミが自慢気にしている。
小さな鳩胸を張って、ツンと少し上向き加減で。
「あぶあ」
ミミ、それは内緒だ。
「え、しょうみゃ? ろうしてみゃ?」
「あぶぶ」
だって赤ちゃんらしくないだろう?
「いまさらみゃ。とっくにあかちゃんらしくないみゃ」
あ、酷い。俺ってちゃんと赤ちゃんなんだぞ。
「わかってるみゃ。けろ、らうみぃはちゃんとわかってるみゃ」
また言った。内緒だと言ったのに。
「ラウ、母様は心配だわ。どうしましょう」
「あばー?」
どうしましょうって、どうしましょう?
「まだ赤ちゃんなのに、こんな事まで理解できるなんて……ラウは天才だわ」
「ああ! ラウは天才だぁッ!」
え? そうなるのか? そんな感じで良いのか?
俺はちょっぴり両親の溺愛加減にびっくりだ。普通じゃないと思わないか? 下手したら気持ち悪がられても仕方ないんだ。今までだってそうなんだけど、流石に今回は度を越している。
「ラウゥッ! 私の子は天才だぞぉッ!」
と、また父に抱きつかれた。
まあ、いっか。
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