45ー報告会
その後直ぐに騒ぎは落ち着いた。もう何もなかったかの様に、いつも通りだ。
邸の使用人も、変わらず普通に働いている。
俺も普通に部屋から出ている。もちろんハイハイでだ。一体何だったのか気になるだろう?
「あぶあぶ」
「らうみぃ、どこいくみゃ?」
何処ってあれだよ。父と母が何処にいるのか探すんだ。
「どうしてみゃ?」
「あぶ」
そりゃ、何があったのかを聞くためだ。だがそれもおフクに止められ、俺はミミと大人しく部屋に戻っていた。
結局、おフクが言う報告会はその日のうちに開かれた。勿論、俺もおフクに抱っこされて堂々と参加している。
「今分かっている事だけですが」
と、アンジーさんが報告を始めた。
それによると、男に両脇を支えられて連れて来られていたのが、潜入していた者だ。潜入して邸にいる女性の瞳の色を、チェックするつもりだったらしい。
ミミが酷い呪いをかけられていると、言っていた男で父の部下だ。
主に執事や従者、事務官となって潜入し情報を得ている。国内だけでなく、他国に潜入する事もあるらしい。
職務内容がそんな事だから、人並み以上に訓練は受けている。
そんな彼等が警戒しているのは、魅了という魔法だ。そう使える者は多くないが一定数存在する。
人を操るには、持って来いの魔法だ。人の心を惑わし自分の思う通りに操る。
だから魅了封じの魔道具を持っていたりする。
魅了といっても魔法なんだ。魅了という状態異常を起こす魔法だ。だから対処方法だってある。
だが、呪いとなると話は別だ。この国で呪詛を使える者はいない。
何故なら、それこそ隣国デオレグーノ神王国の呪術師の種族でないと扱えない。魔法ではない、呪術なんだ。
そんなもん、何処の国でも使える者はいないし詳しく解明されていない。
だからそれを無効化する事は難しい。それを扱える者か、母の使い魔の様な精霊達の力を借りないと解呪できなかったりする。
その呪術の呪いをかけられていたんだ。
「サイラスが言うには、いつ呪いをかけられたのか全く分からないそうです」
「覚えていないという事か?」
「はい。気が付けば隊員に抱えられていたと。念の為、複数人潜入させておいて良かったです」
なるほど、だから助け出されたという事なのか。
サイラスとは呪いをかけられた人らしい。潜入していた人だな。
「で、何も分からないのか?」
「いえ、大事な事は確認していましたし覚えていました」
「そうか」
その大事な事とは、例の真紅の髪の女の事だ。
「邸の中にいたのを確認したそうです」
「なんだと?」
「ですが、その後の記憶がないそうです」
だからその後すぐに呪いをかけられたのだろうという予測だ。
確認できた真紅の髪の女性。そのサイラスが確認したのだが、大事な事が分かった。
「別の諜報部員によると、フラフラと邸から出てきたからおかしいとその場で保護したらしいです。サイラスの話では、真紅の髪ではなかったそうです」
「やはりか」
「はい、サイラスが瞳の色を確認しています。その直後に呪いをかけられたようです」
「直後か?」
「はい、女性の瞳の色を確認した事は覚えていました。ですが、その後の記憶がありません」
「こちらの情報を抜かれているかも知れないという事か」
「ですので、昼間のあの襲撃でしょう」
「なるほど」
どうしてこっち側の事がバレたのかと思っていたら、そういう事なのか。
呪いをかけられ、意識が朦朧としている間に情報を抜かれたのだろう。
自分がその後何をしていたのか、覚えていないんだ。これは少々マズイ事になるのかも知れない。
「らうみぃ、しょうみゃ?」
「あぶ」
そりゃそうだ。こっちの事をどれだけ知られたのか分からないんだからな。
いきなり昼間に襲撃して来た事だってそうだ。相手は深紅の髪の女性だけじゃない。仲間がいるんだから。
「らうみぃ、おりこうみゃ」
「あばー」
ミミに言われてもな。嬉しくもなんともないな。
「ひろいみゃ。らうみぃは、しおたいおうみゃ」
「あば」
塩対応って、そんな言葉どこで覚えたんだよ。
とにかく、昼間の襲撃だけで終わらないと思っていた方が良いだろう。
向こうだって本気だ。他国に潜入して不当に財産を巻き上げているのだから。
「やはり外貨か?」
「おそらく、そうだと。あちらの国は殆ど鎖国状態ですから金が欲しいのでしょう」
「王都在住の伯爵家に手を出したのが運の尽きだと、思い知らせてやろうではないか」
「これ以上、向こうの思う通りにはさせないッスよ」
その狙われている伯爵は呪詛を掛けられているのか? 話を聞いていると、盲目的に感じるんだが。
「あぶぅ」
「らうみぃ、むじゅかしいこと、いうなみゃ」
「あば」
難しくはないだろう? 単純な話だ。
「なんスか? 坊ちゃん」
「あう、あばー」
ほら、ミミ。通訳してくれよ。
「しかたないみゃ」
ミミが俺の言いたい事を、代弁してくれるが不便だ。もう少しでいいから、喋れるようになりたいぞ。
「ああーちゃ」
「はいはい、ラウは心配なのね?」
「あう、ああちゃッ」
「ラウ、もう邸を襲撃される事はないぞ。リンリンとフェンで一時的にだが結界を張っている。この邸に悪意のある者は入る事ができない」
「あばー」
それは凄いじゃないか。
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