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44ー転移は駄目

「あらあら、坊ちゃま。どうしました?」

「ぶばー! あぶ! あぎゃぁー! あばー!」

「はいはい、何も怖くありませんよ。フクがいますよ」


 俺が泣くと、おフクはいつもそう声を掛けてくれる。

 抱き上げて、しっかりと腕に抱き締めながら、背中をトントンと叩いてくれる。俺を抱っこしたまま身体を揺らしてあやしてくれる。

 おフクの体温と鼓動、そして声を掛けてくれる事で俺は落ち着くんだ。大丈夫、生きている。夢だったのだと。


「らうみぃ、あかちゃんみゃ」

「あぶー」


 煩いんだよ。赤ちゃんなのは、充分分かっている。

 焦れったいほど身に染みているよ。せめて普通に動けるようになりたい。

 俺はおフクに抱っこされて、うっすーい果実水を飲んでいた。ミミはもちろん桃ジュースだ。

 もう襲撃騒ぎも落ち着いたと思っていたのだけど、俄かに邸が騒がしくなった。人が出入りしている気配が伝わってくる。

 俺の部屋にまで聞こえてくるんだ。バタバタと、何人もの人が出入りしているのだろう音が聞こえてくる。庭では馬の鳴き声がしている。


「あら、どうしたのでしょうね?」

「あぶ」


 見に行こうぜ、おフク。


「あぶあー」

「らうみぃが、みにいくといっているみゃ」

「まあまあ、それは駄目ですよ。邪魔になりますからね」

「あう」


 その頃、父とアンジーさんが秘密裡に潜入させていた者が、戻って来ていたのだそうだ。


「あぶあ」


 ドアを少し開けて聞き耳を立てる。もちろんハイハイの体勢でだ。

 ミミも俺の肩に乗って見ている。


「あう」

「しゃわがしいみゃ」

「あばー」


 そーっと出たらバレないんじゃね?

 と、ドアをもう少し開けて、そっとハイハイで部屋の外に出ようとする。


「ラウ坊ちゃま、駄目ですよ」

「あう」


 おフクに止められた。むむむ、しかし俺は見たいぞ。知りたいぞ。

 ここはあれか? 転移でパパッと移動するか?


「坊ちゃま」

「あうあ」


 おフクの目が怖い。俺を行かせまいと目を離さない。

 だが、そんな事は俺にとってどうってことはないのだ。


「あぶ」

「らうみぃ、だめみゃ」

「坊ちゃま、転移しては駄目ですよ」

「あば」


 だって知りたいじゃないか。会議にまで出席しているのだぞ。ならその進捗状況もしりたいじゃないか。潜入していた者が戻ってきたのだろう?


「もう、仕方ありませんね。ただし、フクが抱っこしていますからね。絶対にフクの腕の中から離れてはいけません。約束できますか?」

「あうあ!」

「らうみぃ、しょんなにしりたいみゃ?」

「あば」


 そりゃそうだ。だって不思議だっただろう? 一体どうなっているのかだ。

 おフクに抱っこされて下りて行くと、アンジーさんと執事のノーマンが皆に指示を出していた。

 一人の男が、黒ずくめの男性に両脇を抱えられている。

 一人で立つ事ができないのだろう。

 見たところ外傷はないようだ。出血もない。だが、足元がフラフラだ。まるで酷く酔っぱらっているかのようだ。


「なんみゃ?」


 ミミ、どうした? ミミが何か気になるようだ。

 俺の肩に乗っているが、じっとその抱えられている男を見ている。

 その男が邸の奥へと連れて行かれた。

 どうした、ミミ?


「あば?」

「あれは、のろいみゃ」


 なんだって? 呪いだって?


「ミミちゃん、呪いですか?」


 おフクも驚いて聞き返している。


「しょうみゃ。あんなにひろい(酷い)のろいは、ひとれはとけないみゃ」

「大変、奥様に知らせないと」


 そう言ったかと思ったら、おフクは俺を抱っこしたまま駆けだした。母の部屋へと向かったんだ。

 どうして母なのか? 俺はまだその時は分からなかった。


「奥様!」


 一応部屋の外から声を掛けてはいるが、同時にドアを開けた。普段ならフクは、そんな事は絶対にしない。

 それだけ、緊急だと思っているのだろう。


「まあ、フク。どうしたの? ラウまで」

「奥様、ミミちゃんがあれは呪いだと言っています」

「なんですって? ミミ、そうなの?」

「しょうみゃ。ひろい(酷い)のろいみゃ」

「リンリン」

「は~い」


 相変わらず、シャララ~ンとリンリンが姿を現した。

 エメラルドグリーン色した蝶のような羽を持つ精霊さんで、母の使い魔だ。


「ミミが呪いだと言っているわ」

「あら、ミミそうなの~?」

「しょうみゃ。あれはひろい(酷い)みゃ」

「まあ、じゃあ私が行かなきゃ駄目ね~」

「そうみたいね、リンリンお願いできるかしら?」

「ええ、もちろんよ~」


 何が何だかよく分からない。とにかくミミが言う呪いは、リンリンでないと解けないという事なのだろう。

 じゃあ、同じ精霊のミミはどうなのだ? 呪いを解いたりできるのか?


とうじぇん(当然)みゃ、みみもとけるみゃ」

「あば」


 じゃあ、ミミが行けば良いじゃないか。直ぐそこを通って行ったのに。


「ラウ、あなた達の事は秘密なのよ」


 母がそう言って、部屋を出て行った。

 リンリンはもう姿を消している。あの抱えられて戻ってきた男のところへ行くのだろう。俺も一緒に行って見てみたい。


「駄目ですよ。今度こそ駄目です」

「あばー」

「きっと後で報告がありますよ。その時になったら分かります」


 仕方がない。我慢するか。


お読みいただき有難うございます!

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宜しくお願いします。

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